第50話 ヴァーファル

 とある城。


「……駿のやつが?」


 勇者、大島弘は、駿が死んだという情報を耳にしていた。


「ええ、エルフの国を攻めて敗北、死亡したようです」


 側近である、アレベラスから弘は報告を受けていた。

 鎧を装備した男である。歳は二十台半ばくらいだ。


「……死亡」


 その言葉を聞いて、弘は俯いた。

 駿が死んだという事が悲しいからではない。

 死んだという事に恐怖を抱いた。

 もしかして、いずれ俺も? 彼はそう不安になっていた。


「弘様は私たちがお守りするので、ご安心ください」


 弘の不安な気持ちを察したのか、アレベラスがそう言った。

 だが弘は、こいつら俺より弱いんだから、安心なんか出来るかと、不安な気持ちは晴れない。

 楽観的な考えの多い、勇者たちだったが、唯一弘だけは、ネガティブな思考をよくするタイプだった。


(駿の奴も俺よりは弱かった。だからやられたんだ。俺は奴とは違って強い。やられないはずだ)


 そう思いこもうとしたが、不安は完全には消え去らない。


「ああー! クソ! どこか攻め込むぞ! 敵を倒しまくってレベルをもっと上げれば、流石に負けなくなるはずだ!」


 そう結論を出した。


「どこに攻め込みますか……?」


 アレベラスが尋ねる。


「そうだな。地図を持ってこい」

「はっ!」


 アレベラスが急いで地図を持ってくる。


「そうだな……よしここにしよう」


 地図を指差した。


「ここは守りが堅い場所ですよ?」

「俺が攻めるんだし、大丈夫だろう」

「……まあそうでございますね。しかし少々準備をしたいのですが」

「早めに済ませろよ」

「はっ!」


 弘たちが次に攻める場所が決まった。


 ○


 エルフの国ファラシオンを出て、俺たちはヴァーフォルへと向う。

 ヴァーフォルは遠く、長旅になるが、必要な道具は全てファルシオン王宮の人たちが用意してくれた。


 道中俺は、魔物を大量に吸収した。

 出会った魔物は、片っ端から倒して吸収していた。


 右腕の刻印を消すには、だいぶ時間がかかることだろう。

 あいつが言って来たことが本当であるならば、その間に必ず危機が訪れるだろう。

 深淵(アビス)の力に頼ってしまわなければならない状況を作らないためには、もっと強くなる必要がある。


 道中に出てくる魔物に、たいした奴はいなく、今の俺なら全て一撃で倒すことが出来た。


 ファルシオンを出てから三十日ほどで、ヴァーフォルに到着した。


「ここがヴァーフォルか」

「久しぶりに来たが、相変わらず大きな町じゃのう」

「人がいっぱいいるにゃん!」


 入り口に大きな門があり、中に入ると様々な種族の者たちが、通りを歩いていた。


 俺たちが滞在していたメーストスも、さまざまな種族がいた

 あそこをそのまま規模を大きくしたような町だ。

 ヴァーフォルでは見なかったような種族の者もいる。

 ゆっくり見物したいところだが、観光しに来たわけではないしな。

 それよりも、流石に長いあいだ歩いて疲れた。


「とりあえず、お主らは長旅で疲れておるじゃろうから、宿を見つけて休んでから、明日、図書館で、わしの呪いや刻印について調べて見るかのう」

「そうするか」


 俺たちは宿を探す。

 安めの宿を見つけて、そこに一泊した。

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