第38話 エルフの国へ
メクは呟いたあと、1人で冒険者ギルドを出るために走った。
「待て! メク!」
俺はメクを追いかけようとする。
「お主らは来るな! これはわしの問題じゃ! 巻き込むわけにはいかん!」
メクがそう叫んだ。それでも俺は追うのをやめない。俺の方がメクより速いから、追いついて手を取って強引に動きを止める。
「1人で行ってどうするんだ! 俺たちも行く!」
「そうにゃ! 1人で行こうとするなんて水臭いにゃ!」
「今回の戦いは言うなれば人間との戦争じゃ。戦争にお主らを巻き込めぬ。人間であるテツヤはなおさら巻き込めぬ」
「メク1人で行っても出来ることは、限られているだろう!」
「……仮に何も出来なくても行かねばならぬ。わしはエルフの女王だったのじゃ」
「女王?」
「そうじゃ。まあ、今は死んだことにされておるだろうがの。
それでも女王として国の危機を見逃すことはできん」
女王だったのかメクは。まあ何にせよ故郷の危機に奮い立たないわけはないだろう。しかし、当然1人で行かせては駄目だ。
「やはり俺たちも行く。メクだけに行かせるわけにはいかん」
「だからテツヤお主は人間じゃ。人間と戦うことになるにじゃぞ?」
「勇者は俺にとっても因縁の相手だ。そいつが大事な仲間の故郷に非道な真似をしているのを、放っておけるわけがない」
「そうにゃ! アタシは師匠がいなかったらとっくの昔にのたれ死んでたにゃ! その恩を返すときが来たのにゃ!」
「……お主ら」
メクは少し考え込む、そして、
「……頼む、力を貸してくれ」
「任せろ」
「任せるにゃ!」
こうして俺たちの次なる目的地は、自由都市ヴァーフルから、エルフの国ファラシオンに向かう事になった。
○
まず向かう前に、情報屋から情報を買った。
それなりに金がかかったが、有意義な情報を教えてくれた。
勇者がエルフの国ファラシオンを攻め込んでいるのは、間違いないらしい。
戦力は勇者を含めて100人程度だが、それでも勇者があまりにも強すぎるため、エルフは対抗出来ていないらしい。
すでに城がいくつか陥落し、村もいくつか焼き払われたそうだ。
話を聞いたあと、とにかく急いで向かう事にした。
ファラシオンは人間の国の北側にある。俺たちがいた、メーストスの町からは北東方向にあった。
行き方は、東に行くと死の谷がある。そこから北に行くと、死の谷にかかっている橋があるのでそれを渡る。
その橋を渡って、北東方向に歩いて行くと、ファラシオンに辿りつく。
距離は結構遠い。1日では着かないので、急いで準備を済ませて、俺たちは町を出た。
そして、3日ほどひたすら歩き、とあるエルフ達の村に到着した。
「これは……」
「ひ、ひどいにゃ」
俺は衝撃を受け言葉を発する事もできなかった。
その村は焼き払われていた。家は焼け落ち炭化している。さらに地面にはエルフ達の死体がゴロゴロと転がっている。
生で無残な死体を初めて見た俺は物凄く動揺する。何だこれは、現実の光景なのか?
これは勇者の仕業なのか? 間違いなくそうであろう。
なぜ地球のそれも同じ日本から来ているのに、こんなマネが出来るんだ。どこまで外道なんだ。
怒りが徐々に湧き上がってくる。
「ゆ、許せん……」
メクが怒りに震えながら呟いた。
その後、メクは生き残りがいないか調べるが、生きているものはいなかった。まあ、皆殺しにされなくても、この惨状なら逃げ出しているはずなので、誰もいないか。
「一刻も早く行きたいところじゃが、奴らの居場所が分からぬ。王都まで行き情報を得るぞ!」
メクは震えながら、怒りを必死で抑えるように言った。こんな光景を見ても怒りで我を忘れないメクは、凄い精神力を持っていると思った。
その後メクについていき、王都まで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます