第37話 噂
翌日、俺たちはいつものように、ギルド一階で朝食を食べる。今日も俺たち以外の冒険者が、朝食を食べていた。
「ぐぬぬ……本当なら昨日わしも食べられたはずじゃのに……」
メクは恨みがましい目つきで、朝食をとる俺たちを見ていた。昨日2分だけ元に戻った時、飯を食べるチャンスを逃したのをかなり後悔しているようだ。
「あと2日経てばまた元に戻れるんだからさ……」
「ぬー。2日が長く感じるのう。何十年とこの姿じゃったから、2日など何でもない時間のはずなんじゃが。何か待つものがあると、時間とは長く感じるものなのじゃのう」
ぬいぐるみが人生経験豊富な老人みたいな事言ってる姿って、結構シュールだな、と俺は思う。
「アタシも早く師匠が元に戻った姿見てみたいにゃー」
「ふっふっふ、元のわし姿を見て腰を抜かさんことじゃな。テツヤなど、顔を真っ赤にして慌てふためいておったからのう」
「……今度からかったら、【解放】を使ってやらないと、言わなかったか?」
「す、すまんすまん。ついな。あまりにも面白かったからのう」
それで謝ってるつもりか全く。そんなに面白かったかねー俺の狼狽えているところが。
その後、俺たちは朝食を食べ終わり、
「今日は自由都市ヴァーフォルに行く準備をするんだったな」
「そうじゃの。ヴァーフォルまでは結構遠いし、危険な場所を通る必要があるから、準備を怠ってはならん。食料に水、途中で野宿する必要があるからその道具、色々必要じゃ」
「1つ聞きたいんだが、この町からヴァーフォルまで、馬車で行ったり出来ないのか?」
「残念ながらないのう」
「そうか。じゃあ買い物しにいくかー」
俺たちは買い出しに行こうとしたその時、近くの席に座って、朝食を取りながら談笑していた冒険者達が、
「そういえば、エルフの国ファラシオンに、勇者が攻め込んだらしいな。エルフと人間たちはそこまで悪い関係じゃなかったのにな」
「ああ、聞いた聞いた。何でもすでに城が2つくらい陥落したらしい。その勇者外道らしく、男と年寄りの女は皆殺しにして、若い女エルフを徹底的に集めてやがるらしい。胸糞わりー話だよなぁ」
そんな会話をしていた。
その会話を聞いたメクが、
「なんじゃと……?」
と低い声で呟いたあと、男たちに近づいて、
「その話もっと詳しく聞かせろ!」
と大声で言った。
「うわ、何だこいつ」
「なんかの魔法生物か?」
「詳しく話を聞かせるのじゃ! いつ勇者は国に攻めいった!? 何人で攻め込んだんじゃ!? 何で攻め込んだんじゃ!? 被害状況はどれくらいじゃ!?」
メクは冷静さを失ったように冒険者達に向かって叫ぶ。
「いや、俺たちも噂で聞いただけだから、詳しい話は知らんよ」
「いつかは一応知っているな。10日くらい前じゃなかったっけ? しかし、たった10日で複数の城を落とすとは、勇者が恐ろしく強いって話は本当のようだな」
「しかし、なんでそんなに必死にエルフについて聞くんだ? 知り合いでもいるのか? 詳しい話は町の情報屋にでも聞けよ。じゃ、俺たちは急いでるから」
冒険者達は去っていった。
メクはその後、体を震わせながら、
「行かねば……」
そう呟いた。
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