第36話 元の姿

「それで話は変わるのじゃが、お主があのグレーターデーモンを吸収した時、なんのスキルを手に入れた?」

「ん? 【闇爆】と【解放】だけど、それが?」

「おお、【解放】を獲得したのか! そのスキルについて詳しく知らんのだが、奴は自分の力を出す時、制約から解放するスキルと言っておったよな。もしかしてそのスキルをわしにかければ、一定時間呪いから解放されでもするかもしれぬ、と思ったのじゃ。呪いも制約といえば制約じゃからのう」

「そうか……でも、これって他人にかけられるのか?」

「分からぬ。とりあえず試してみてくれ」


 試せと言われてもどうすればいいんだろう。

 とりあえず、メクにかかれって念じながら【解放】を使えばいいのか?

 試してみると、


「うお!」


 メクの体がいきなり輝き出す。びっくりして俺は声を上げた。

 なお光は強くなり、目を開けていられなくなる。俺は目を閉じて手のひらで光を遮る。


 数秒経過、光が弱まり、俺は目を開ける。


 すると目の前に、見慣れぬ美女がいた。

 金色の髪と、魅入ってしまうほど美しい顔。

 スタイルは抜群に良く、男の俺と同じくらい背が高い。

 緑色の綺麗なドレスを身につけている。

 耳がトンガっているため、エルフである。


 いきなり部屋に現れたので、俺は混乱する。

 5秒ほど経って、


「もしかして、メク……か?」


 冷静に考えたら、メク以外ありえない。ただいきなり現れたから、なにがなんだか分からなくなっていた。


「……も、戻ったのか……?」


 元に姿に戻ったメクは自分の手や体を確認して、


「おお! 戻った! 懐かしき体じゃ!」


 と歓喜の声を上げた。


「ほ、本当に生身の体じゃ……! 昔のままではないか……!」


 メクは自分の姿を確認するため、宿に備え付けられていた鏡を見る。食い入るように自分の姿を見ていた。


 しかし、本当に元の姿に戻るとは……かなり驚いた。

 だが、それ以上に驚いたのはメクの外見だ。


 正直、今まで生きてきて、メク以上に美人な女性は見た事がない。

 メクが美人すぎて俺は少し困る。


 というのも、レーニャは子供っぽいし、ぬいぐるみ姿のメクは、ぬいぐるみだしで、あまり女性として意識しておらず、特に接する時も緊張することはなかった。だが、今のメクは大人っぽい美人で、正直好みのタイプだし、ここまで美人となると、否が応でも緊張してしまう。


 徐々にドキドキと心臓の鼓動が高鳴る。だ、駄目だ。メクは仲間じゃないか、普通に接しないと。


「テツヤ」


 鏡を見終わったメクが、俺の元に近づいて声をかけてくる。たったそれだけで、ドキッとしてしまう。


「礼を言うぞ、一定時間だけだろうが、お主のおかげで久しぶりに自分の姿を見ることが来た」


 メクはお礼を言いながら、俺の両手を掴んで来た。

 いきなり手を掴まれて俺は混乱して言葉を喪う。


「これが人の温もりか……温かいのう……」


 メクがシミジミとそう呟いているのを見て、俺は少し平静を取り戻した。


 そうか、ずっとぬいぐるみだったからな……人と触れ合うのも久しぶりになるよな……


 そう思っていると、今度はメクが俺に抱きついてきた。


 なっ!?

 

 平静を取り戻した頭が再び混乱する。

 メクの柔らかい感触を体全体で感じ、女の子のいい香りが俺の鼻孔を刺激する。


「ちょ……ちょ! メ、メク!? な、何して……!」

「何って……体全体で誰かの温もりを感じたかったのじゃが、嫌じゃったか?」

「い、いや、嫌というわけじゃないけどさ。ほら、あれだろ!」

「ああ、そうか」


 メクはそう言って、俺から離れる。


「わしとテツヤは、男と女じゃったのう。ずっとあの体じゃったから、完全に忘れておったわい」


 そういうことか。はぁー心臓が止まるかと思った。顔がすごく熱い。


「お主、顔が赤いのう」


 メクは俺の顔を見た後、そう言う。

 すると、なにかを思いついたような表情をした後、


「テツヤ。わしを元に戻してくれた礼をくれてやろう。わしのことをしばらく好きにしてよいぞ……」


 と襟に手をかけ、胸元を見せるような仕草をしながらそう言ってきた。


「な、なんですと!?」


 好きにしていいって、あれか? なんでもしていいの? エロいことも? いやいやダメでしょ。メクは仲間じゃないか。そんな目で見たら駄目でしょ。


 しかし、メクの胸は言ってしまえば、巨乳という奴で。

 正直、男としては触りたいわけで。揉みしだきたいわけで。


 俺が慌てに慌てながら、そう思考を張り巡らせていると、メクがくくく、と笑い出し、


「冗談じゃよ。テツヤはからかい甲斐がある奴じゃのう」


 と言ってた来た。どうやら完全にからかわれていたようだ。


「そこまで動揺するかのう。まあ、わしはエルフいちの美女と呼ばれた女なので、仕方ないかのう」


 さりげなく自慢してくるし。なんか悔しくなってきた。

 まあ、なにも言い返せないけど。


 俺は少しむくれた表情で、


「俺をからかうより先に、やることがあるんじゃないか?

 飯食うとかさ」

「そうじゃのう! まずは何か食べてみたいのう! 早速行ってくる!」


 メクは急いで、何か食べに行くため、部屋を出ようとする。

 すると、ピカッとメクの体が光り輝く。眩しかったので、俺は目を塞ぐ。

 光が弱くなり、目を開けると、メクの姿がない。いや、あった。視界の下の方に、ぬいぐるみになったメクがいた。


「戻ってしまったではないか!」

「2分くらいしか元に戻れないのか」

「もう一回使ってくれ! せっかく何か食べられると思ったのに!」


 俺の足にしがみついてきて、メクが懇願してくる。


 俺はもう一度使おうとするが、


『スキル【解放リリース】は現在、使用不可能です。71時間57分後、再び試してみてください」


 と声が頭に響いた。


「無理っぽい」

「なんでじゃ!?」

「一回使ったら、3日間使用不可になるっぽい」

「なんじゃと!? 3日!」


 メクは少し落ち込んで、


「ぬう、テツヤと触れ合った後、いじっただけで終わってしまった……そんな事より優先すべき事があったのに……」

「おい、その言い方はどうなんだ?」


 そんな事ってなんだ、そんな事って。


「そういえば、【解放リリース】にはレベルがあるから、スキルポイントを上げれば、一回で元に戻れる時間も長くなるかもしれないな」

「む、レベルがあったのか。さっそく上げてくれ!」


 一応スキルポイントに余りはあるし、上げようとするが、


『【解放リリース】を上げるには150ポイント必要です』


 と言われた。そんなにあるわけない。


「無理だった。150ポイント必要だって」

「150ポイントも? スキルレベルは何なのじゃ?」

「1だ」

「1から2に上げるのに、そんなにかかるのか……ぬう、難しいのう。お主もほかのスキルを上げて強くなりたいじゃろうし……そこまで頼むのは、わがまま過ぎるかのう」

「別に俺はいいけど」

「いや、やはりよい。結局何処まで上げても、時間制限はあるじゃろうしな。あまり、元に戻れる時間が長すぎると、呪いを解こうという気が薄れてくる可能性がある。それはよくない」

「そうか」

「じゃが、とにかく一定時間だけでも戻れるようになったのは、非常に良い事じゃ。お主のおかげじゃ。改めて礼を言おう」


 メクは頭を下げて、礼を言ってきた。


「仲間だから礼を言う必要は無いよ」

「そうか。それにしてもこの姿になったら、お主、いつも通りに戻ったな」

「うっ」

「よっぽど、元の姿のわしといるときは緊張したのかの? くくく、顔を赤くしたテツヤは可愛かったのう」


 メクがからかってきた。


「もう【解放リリース】使ってやらんぞ」

「うっ! わ、悪かった。もうからかわぬよ」


 俺達がそんなやり取りをしていると、


「ただいま帰ったにゃー! 疲れたにゃー」


 レーニャが帰ってきた。


「おお! レーニャ帰ってきたか! 実はな!」


 メクが嬉しそうに、元の姿に戻った事を話すと、


「えー! 師匠が元に戻ったのにゃ!? 見たかったにゃ! なんでアタシがいない時にやるにゃ!」


 とレーニャは怒り出した。


「む、それは元に戻るか分からんかったからのう……」

「今もとに戻れないにゃ?」

「3日後じゃないと無理だ」

「えー!」


 タイミング悪くメクの元の姿を見逃したレーニャは、残念そうに唸った。

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