第35話 勝利後

 リーザースを倒した。

 トドメを刺す前に誰から俺を殺すように言われたのか、聞き出しておけば良かった。忘れてしまっていた。後悔してももう遅いが。


「テ、テツヤ……倒したのか……?」


 メクが呆然と呟いた。


「心配かけてすまない」

「い、いや、敵が強くなったと思ったら、お主もいきなり強くなって……何が何やら……お主その右腕……」


 メクが右腕を見て何かを発見したようだ。俺も右腕を確認する。右腕全体に複雑な黒い模様が刻まれていた。刻印の効果を高めたためこうなっているのだろう。

 粋がった若者が入れている、入れ墨みたいな感じになっていて、あまり気分は良くない。


「刻印の力で強くなったのか……? お主、大丈夫か?」

「今の所は何ともない。事情は後で話す。それよりレーニャは?」

「ダメージを受けて、気を失っているようじゃが、命に別状はないじゃろう。早く帰って治療して貰おう」

「そうだな」


 帰る前に、リーザースの死体を吸収した。


 HP155上昇、MP123上昇、攻撃力43上昇、防御力33上昇、速さ32上昇、スキルポイント22獲得。

 スキル【解放リリースLv1】獲得。

 スキル【闇爆ダーク・ブラストLv3】獲得。


 スキルを二つ獲得した。目を見えなくするスキルは獲得できなかったな。全部獲得できるわけではないのか。

 出来れば【解放Lv1】より目の見えなくする奴の方が、欲しかった。正直、使用用途がよく分からん。


 あとステータスの上がりが、かなりすごくなっている。

 ただ、これでも最初会った龍ほど上がっていない。

 あいつどんだけ強かったんだよ。


 死体を吸収した後、町に戻った。


 ○


 まず、レーニャを町にいるヒーラーに回復してもらった。

 回復は魔法でなくスキルでしか出来ないらしい。ヒールのスキル石も結構レアだ。なのでかなりヒーラーは人気で、若干時間がかかった上、金も結構取られた。

 もしかしたら、自由都市まで行く金が足り無くなったかもしれない。まあ、そうなったらまた稼げばいいか。


 お陰でレーニャは元気になった。体は元気になったが、やられたのが悔しかったのか、少し落ち込んでいる。


 レーニャを回復した後、冒険者ギルドにキノコを届けに行った。


「お前らなら楽勝の依頼だったな」


 と受付が言ってきたので、


「いや、めちゃくちゃ強い敵が出て大変だったんだが」

「あ? どういうことだそりゃ」


 受付の男が聞いてきた。俺は違和感を持つ。

 戦闘の記録とやらが保存されていると、以前説明された。

 俺たちが、リーザースと戦ったことをギルドの連中が知らないはずがない。


 俺は事情を話すと、受付の男が、


「ちょっと待ってろ、調べてくる」


 と言って、奥に行く。数分待たされて、


「おかしいな。そんな記録残されていなかったぞ」

「は? 待て待て、たしかに俺は強い悪魔と戦ったぞ」

「うーん……悪魔となれば、魔具の観測をごまかすスキルでも使っているかもしれんが……本来イレギュラーな強敵と出くわした場合、補償金を支払う事になっているが、証拠がないからなぁ。すまないが、前から決まっていた報酬だけ受け取ってくれ」


 何とも納得のいかないことを言われて、元々きのこ収集分の報酬だけを渡された。


 一応食い下がってみたが、最終的に俺は諦めた。


 なんと運の悪い。


 そう言えばあの占い師、信用出来ない奴みたいだったな。俺のどこが運がいいんだよ。最悪だよ今日の運勢は。異世界でも占いは信じないようにしよう。


 その後、市場で余分にとったきのこを売った。結構高く売れた。レーニャの治療代とほぼ同じくらいの値段になった。これなら、金が足らなくならないか。

 その後、俺たちは宿に入り疲れを癒した。


「それにしても散々な日じゃったな。あの占い師は、信用出来ぬものだったみたいじゃの」

「だよな。もう占いは信じない」

「当たる者も一応おるにはおるぞ」


 メクはそう言うけど、やっぱ信じることはないだろう、


「にゃー……今日は師匠とテツヤに迷惑をかけたにゃん……」


 レーニャは相変わらず落ち込んでいる。


「落ち込むなレーニャよ。今回は相手が悪かったのじゃ」

「にゃー……」

「やられたことを恥じるなら、もっと強くならねばな。落ち込んでおっても強くはなれんぞ」

「にゃー……そうにゃ……もっと強くならないといけなにゃ……よし決めたにゃ!」


 レーニャは何か決心したように叫ぶ。


「修行するにゃ! まずは外を少し走ってくるにゃ!」


 と言って、一人で宿から出て走りに行った。

 俺は心配になり、


「だ、大丈夫か?」

「外で走るくらい大丈夫じゃろ。心配しすぎじゃ」


 と呆れたような声で言われた。レーニャを一人にするのは、少し心配なのだが、過保護すぎただろうか。


「それで? なぜお主はあの時強くなったのじゃ?」

「それは……」


 俺はメクに事情を話した。


「ふむ……深淵(アビス)とな……」


 メクは少し考え込んで、


「すまぬ、全く見当が付かんのう」

「そうか」

「もしかしたら、悪魔の一種かもしれんのう」

「悪魔? あのグレーターデーモンのような奴か?」

「そうじゃな。奴らは魂もしくは、体の一部を対価として払うことで、力を貸す。お主もなんの対価もなく、力を貸して貰ったとは思わぬことじゃ」


 俺も何かそのうち高い代償を払わなければならないような、そんな予感はしていた。


「よいか、今後どんな場面になろうと、その深淵とやらから力を借りるな。もしかしたら、取り返しの付かない事態になるかもしれぬ。今はまだ何も起こってないからいいがのう」


 メクから忠告を受けた。

 まあ、この刻印が刻まれている限り、奴から力を借りているということになるのだが。

 これ以上、この刻印の力を増大してやる、みたいな話をされても受けないようにした方がいいか。

 ……ただ、今回のように絶体絶命の状況になったら……その時は……奴の力を借りる必要があるがな……

 絶対にそういう状況にならないよう、俺ももう少し強くならないといけないな。


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