第29話 占い

 俺達はサマキ洞窟に向かう途中、近くに町があったので、いったんその町に寄る。

 町の名前はサマキという。サマキ洞窟はこの町の近くにあるから、その名前がついたらしい。


 町では昼飯を食べた。

 少し高めの料理があり、レーニャがそれを食べたいとねだったが、今は無駄に金を使ってはいけないので、安めの料理を食べる事にした。


「うにゃー。高級牛肉のステーキ食べたかったにゃー……」


 レーニャがむくれながら唸る。


「今度金が貯まったら、食べられるから……それに、今日の昼飯の鶏肉もおいしかったろ?」

「うにゃー。おいしかったけど……絶対あとで食べさせてにゃー」


 最初は簡単なスープを食べただけで満足していたが、レーニャは若干グルメになったようだ。


「じゃあ、飯も食ったし行くかー」

「わしはいつでもよいぞ。キノコ集めならわしでも手伝えるからいいのー」

「行くにゃー」


 三人でサマキ洞窟まで向かおうとすると、


「そこの人待ちなされ!」


 といきなり横から、老婆が大声が聞こえた。


「な、何だ?」


 俺はびっくりして、歩を止め、声の聞こえたほうに視線を向ける。


 黒いローブを羽織った老婆が、路上に座っていた。彼女の前には、透明な水晶玉が置かれている。


 占い師のようだな。誰に待てって言ったんだ? 


「そこの人じゃ、そこの人! こっちに来るのじゃ!」


 老婆は俺の方に向かって、手招きをしながらそう叫ぶ。


 誰か後ろにいるのか? 振り返って確認するがいない。


「お主に来いと言っているのでは?」

「俺? あの婆さんって占い師なのか?」

「恐らくそうじゃろう」


 やっぱ占い師なのか。


 確かに俺以外いないけど……


 困った俺は、占いとか全く持って信じないタイプなんだが。


「早く来ぬか! 何をしておる!」


 怒りの形相を浮かべながら、老婆は叫ぶ。


 こ、こえー。

 行っとくか……

 異世界の占いだしな。結構当たるかもしれないし。


「ちょっと行ってくる……」


 レーニャと、メクに断りをいれ、老婆に近づき、


「あの、なんでしょうか……」


 と声をかけた。


「お主から、なにやら変わったオーラを感じた。特別に無料で占ってやろう」

「は、はぁ?」


 何だ特殊なオーラって……? 

 この世界の住人じゃないからか?


「わしの目を見ろ」


 占い師の婆さんが、パチリと目を大きく開け、俺を凝視して来た。

 言われたとおり俺は老婆の目を見る。


 占い師の老婆は、俺の目を見返しながら、水晶に手をかざして、なにやらわけのわからない言葉を呟いている。


 30秒ぐらい老婆の目を見続けると、突如老婆が目を閉じた。


 もう良いかな? と思い俺も瞬きをする。


 占い師の婆さんは、今度は水晶玉を見て、


「ふむふむ……なるほどのう……お主の運勢を占ったぞ」

「はぁー。どうだったんですか?」

「そうじゃのう。今日はあまり運勢が良くないのう。家で大人しくしとったほうがええぞ」


 えー? 今から依頼に行こうと思っていたのに。


「逆に明日じゃが、かなり幸運な出来事があるようじゃ。何かするなら明日にしといたほうがええのう」

「そ、そうなんですか……幸運な出来事」

「ちなみにわしの占いは、ほぼほぼ当たる。言う通りにしておいたほうがええぞ」

「そうですか……」


 うーんどうしようか。占いは信じないけど、でも異世界の占いだしなぁ。

 まあ、今日絶対に依頼を達成しなくてはならない、というわけでもないから、念のため明日にしておこうかな?


 あと、一応聞いておかないと行けないことがある。


「あのー、そういえばオーラがあるとか言ってましたが、どういう意味ですか?」

「お主から薄っすらとだが、何かとてつもなく不吉なオーラが見えたのじゃ。下手したら数年のうちに死ぬから、可哀想じゃと思って、占ってやったのじゃ」

「ええ!? なんですかそれ!」


 数年のうちに死ぬって。


「もしかしたら、何かに取り憑かれておるかもしれんのう」

「取り憑かれている……?」


 そう言われて、頭に思い浮かんだのは、黒騎士から刻まれた刻印だ。

 不吉なオーラとは、俺が異世界人だからではなく、黒騎士に刻印を刻まれたから、見えるようになっているのかもしれない。


 そうだ、このお婆さんに、刻印を見せてみよう。


「あのー、不吉なオーラとやらに、一応心当たりがあるんですけど……これ見てください」


 俺は右手に刻まれた刻印を、老婆に見せた。


「こ…………これは!?」


 なんだ知っているのか!?


「初めて見る刻印じゃな。なんじゃろうか?」


 知らんのかい! 思わせぶりな言い方やめてくれ!


「じゃが、一つだけ言えることは、間違いなく、良いものではないという事じゃな。気を付けるのだぞ」


 そう忠告された。

 今のところは、この刻印が刻まれたことで、発生した問題はない。

 逆に死体吸収の効果が高まったりと、メリットがあるくらいではあるが、やはり俺の直感通り今後これが刻まれたことで、何か問題が起こるのだろうか?


 ……まあ、この婆さんも話を信用しすぎるのもあれか。

 さっき会ったばかりで、信用できる人かも分からないしな。


 でも、一応心には留めておこう。


「ありがとうございました」

「気をつけるんじゃぞ」


 俺は占い師のもとを離れ、レーニャとメクのもとへ戻った。


「なんて言われたのじゃ?」

「今日は運勢が良くなくて、明日はいいらしい」

「ふむ」

「にゃー、だったら明日行くにゃー?」

「占い師は信用できる者と出来ぬ者がおるからのう。あと、多少運が悪かろうが、依頼を達成することは出来ると思うがのう。まあ、お主が決めてよいぞ」


 俺に判断は任された。

 確かに運が悪くても依頼は達成できる。

 ただ、俺は今日運が悪いということより、明日は運がいいというところが、気になっていた。


 もしかしたら、宝が見つかったりするんじゃないだろうか?


 あの占い師の婆さんの信用度はこの際、考えないでおこう。仮に外れても特に損はないからな。


「今日は一泊して、明日依頼に行こうか」


 と俺は決めた。


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