第24話 冒険者
地下闘技場で勝利し、俺たちは賞金を貰って、さっそく近場にあった飯屋で食事を取ることにした。
「うまいにゃ! うまいにゃ!」
レーニャがガブガブと美味しそうに飯を食べている。
頼んだ料理は、パンと、肉と色々な野菜を一緒に煮込んだスープだ。
少し味付けが薄いが、あの苦いキノコよりかは確実にうまいので、俺も満足して食べていた。
「しかし、無事終わってよかったのじゃ」
俺たちが飯を食うのを、横から見ていたメクがそう言った。
「ん? 負けるはずないって言ってたよなメクは」
「お主には心配しておらん。心配だったのはレーニャの方じゃ。闘技場で観戦しておる時、お主を馬鹿にするような罵詈雑言が飛び交っておったが、レーニャが怒って今にも暴れだしそうになっての。下手に暴れて、中止になったらまずいから、なんとか宥めておったのじゃ」
「そんな事が……」
「だってあいつらテツヤの事、馬鹿にして腹が立ったのにゃ!」
レーニャが食べるのを少しやめて、険しい表情でそう言った。
確かに、暴れられると困ったことになったかもしれないが、俺が馬鹿にされてそこまで怒ってくれるということが、少し嬉しかった。
そして、飯を食べ終えて、
「にゃー満足したにゃー……もう死んでもいいにゃ〜」
レーニャが幸せそうな表情で、そんな事を言っていた。
大袈裟だなぁー。
まあ、俺よりはるかに長い間、あの谷にいたのだから、そういう感想を持っても不思議ではないかもしれない。
「世の中にはもっとうまいものがたくさんあるから、これだけで死ぬのはもったいないぞ」
メクが若干呆れたような口調で言った。
「ほんとかにゃ!? じゃあ死ねないにゃー」
レーニャは少し驚いて、そう言った。
「お主も記憶にないだけで、もっと色々食べておるはずなのじゃがな」
「まったく記憶にないにゃ」
そういえばレーニャは、谷に来る前の記憶がなかったんだったな。
なんの事情もなくあの谷に来るとも考えづらいので、何か事情があるかもしれない。
「しかし、わしも早く元に戻って何か食べたいのう。もはや最後に食べたものがどんな味だったのかも思い出せぬ」
前も疑問に思ったが、メクってぬいぐるみにされてからどのくらい経っているのだろう?
そういえば2人の事は、まだそこまでよく知らないよな。
まあ、レーニャは記憶喪失だから、知るのは無理だけど、メクのことで何か聞いておこうかな。
これからしばらく一緒に行動するわけだし。
「メクっていつからその呪いにかかってるの?」
そう思った俺は質問してみた。
「正確には忘れたの。だが、60年はこの格好じゃな」
「ええ!? そんなに!?」
思ったより長くて、俺は驚いて思わず大きな声を出してしまう。
60年っていうと人間なら人生の半分以上、ぬいぐるみってことなのか。エルフの寿命は長いっぽいから、半分ではないだろうけど、でも60年は流石に長すぎるよな。
「この体は不便なことばかりではないからのう。飯を食わずともよいし、眠くもならん。痛みも感じんし、そう簡単に死にもせんからのう」
「え? その体って痛み感じないの? それで、死にもしないのか?」
「痛みは一切感じぬ。死ぬかどうかは、少なくとも胸を刺されたり、胴と頭が離れたくらいでは死なぬ」
「な、なんでわかるんだ? 経験があるの?」
「そうじゃ。長く生きておれば、いろいろな事を経験する」
「でも、そんな目にあっている割には、結構体は綺麗に見えるけど」
「ダメージを受けたら、時間経過で自然に修復されて、最終的には元どおりになるのじゃ。スキルを封じられたり、ステータスが下がったりしておらねば、このままの姿でもいいと思うくらいじゃ」
ぬいぐるみの姿自体に、そこまで抵抗があるわけじゃないのか?
俺がそう思うと、
「いや、やはり誇り高きエルフとして、この間抜けな格好のままでいることはダメじゃな」
メクはそう呟いた。
「えー、その格好けっこー可愛いと思うんにゃー」
「だったらお主がなってみるか?」
「そ、それは嫌にゃ」
レーニャは一瞬で否定する。
「まったく、適当な事を言うでない。やはり早いところ元の姿に戻る方法を探さねば」
60年もこの姿はやはり苦しいよな。
メクの持つ知識がなければ、今頃あの谷の底でのたれ死んでいた可能性が高い。
俺も出来る範囲で協力してやろうと決意した。
「さて、これからどうするかじゃな。恐らくこの町では、わしが元に戻るための方法であったり、テツヤの刻印の事はわからんじゃろうから、違う町に行きたいところじゃ。まあ、そこに行くのにも金がいるし、しばらくは冒険者になって金を稼ぐのが良いじゃろうな」
「最初の予定通りだな」
「にゃー、よくわかんないけど、それで行くにゃー」
「冒険者になるには、まず冒険者ギルドに行かねばならん」
「じゃあ、さっそく行くか」
俺たちは冒険者ギルドに向かった。
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