第18話 黒騎士

「やったー倒したにゃー!」


 その瞬間、レーニャが喜びの声を上げる。

 直後、レーニャの【獣化ビーストモード】が解かれる。


「あ、ふにゃー」


 元の姿に戻ったレーニャは、力が抜けたみたいで、座り込んだ。


「倒せたか、よかったのじゃ。少し行けばもう外なのじゃ」


 そうか、よかったー。


 とりあえず、谷の外に出られそうで少し安心する。


 そういえば、あのゴーレムは吸収できるのかな?

 ゴーレムって生き物じゃないってイメージがあるから、無理かな。


 俺は石くれに触ってみる。お、出来るみたいだ。


 こいつ一応生物の範疇なんだな。

 俺はジャイアントゴーレムを吸収した。


 HP50上昇、MP8上昇、攻撃力10上昇、防御力20上昇、速さ5上昇、スキルポイント4獲得。

 スキル【弱点結界コア・ガードLv1】獲得。


弱点結界コア・ガードLv1】? 

 奴が自分のゴーレムコアを守るときに使っていた、結界を作るスキルか。


 俺が使ったら心臓か、もしくは頭を守る結界が出来るのかな?


 使ってみないとわからないけど、結構いいスキルかもしれない。


「よし、じゃあ出るかー」

「にゃ~、テツヤ~、肩を貸してほしいにゃ~、1人では歩けないにゃ~」


【獣化】が解けた影響で、自力で歩く事が困難になっているらしい。

 俺はレーニャに肩を貸そうとした、その時、


 ガシャ……


 つい先ほど聞いた、黒騎士の歩く音が聞こえてきた。


 その音を聞いた瞬間、俺は戦慄して固まる。音はだんだん俺達のほうに近づいてくる。

 気を取り直す。慌てて周囲を見回し、隠れられそうな場所を探す。近くに大きな岩がある。俺はレーニャを連れて、その岩の陰に隠れようとする……が、


「……!?」


 俺は息を飲む


 さっきまで、見えないくらい遠い位置にいたはずの黒騎士が、俺達のすぐ目の前まで来ていたからだ。


 こ、こいつ瞬間移動でも出来るのか? や、やばすぎるぞ。

 なんでもうすぐ出れるって時に、こんな……ここに来て何て理不尽。


「にゃ……にゃ~ん……」


 後ろにいるのでようすを見ることは出来ないが、レーニャが泣きそうな声を出している。


 黒騎士は俺達を無言で見つめている。俺は恐怖と緊張で動けない。

 すると、黒騎士のフルフェイスメットの目の部分が、一瞬赤く光る。

 その光を見た瞬間、全身に痺れが走る。


 ビリビリと全身が痺れ、恐怖や緊張関係無しに、動く事が出来ない状態になる。


 その後、何故か俺の右手が、自分の意思とは関係なしに、勝手に動き出す。

 手は黒騎士の前に差し出される。俺の手を黒騎士が握った。

 そして、今度は黒騎士の目が青く光った。その瞬間、


 激痛が俺の右手に走った。


「ああああああああああ!」


 あまりの痛さに絶叫する。


 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!


 いくつもの針で同時に手の甲を刺されているような痛みだ。


 痛い痛い痛いぃぃ! 何をしてるんだ!? 何なんだよ!?


「テ、テツヤ!」


 レーニャの心配そうな叫び声が聞こえる。


 痛みは黒騎士が俺の右手を掴んでいるあいだ、続いた。

 実際は30秒ほどだが、俺にとっては永遠に近い時間、痛みは続いた。


 そして、黒騎士は俺の右手から手を離す。瞬時に右手を押さえ、俺はその場でうずくまる。

 いつのまにか麻痺は解けていたが、右手の痛みでそれを気がつく余裕は無かった。


 そして、黒騎士が、


「抗え」


 そう俺に囁いた。


 意味が分からない俺が、戸惑っていると、黒騎士が闇に包まれ、そして忽然と姿を消した。

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