第13話 メク
「ぬ、ぬいぐるみが喋った!?」
俺は驚いて、思わず大声を出してしまう。
「ぬ? 何じゃあの男は。人間じゃないか。人間は好かんぞ。叩きだせ」
ぬいぐるみは俺を見ながらいう。
「師匠ーテツヤはアタシを助けてくれたのにゃん」
「なぬ? 人間がお主を助けたじゃと?」
熊が動き出して俺に近づいてくる。
お、落ち着け、落ち着け俺。ここは異世界。
猫が人型になることも、ぬいぐるみが喋って動き出す事もあるだろう。
そ、そうだこういうときは鑑定だ。鑑定をすれば正体がわかる。
『エルフ。個体名:メク・サマファース 81歳 Lv.77/85
森に住む種族。寿命が長い』
「エルフ……?」
俺は思わず呟いてしまった。
ほかにもやたらレベル高いし、81歳って凄い年齢だなとか、気になる点はいろいろあるけど、一番エルフというのが気になった。
エルフってぬいぐるみなのこの世界では?
「貴様、何故、わしがエルフじゃと分かった?」
少し声を低くして聞いてきた。
「え? 鑑定を使ったんだけど……」
「鑑定? 珍しいスキルを持っておるのう」
鑑定は珍しいスキルなのか。
「師匠ー。その人はテツヤっていって、今日アタシを洞窟で助けてくれた人なんだにゃん。本当なんだにゃん。あんまりいじめようとしちゃだめなんだにゃ」
「レーニャ、詳しく話を聞かせろ」
師匠と呼ばれている熊のぬいぐるみ? エルフ? は、レーニャから洞窟であった出来事を聞いた。
「ほう、アブソードスパイダーに襲われて、それをこの男が倒したと」
「うん、そうなんだにゃ~。ビリビリを出した後、すっごい速く動いて倒してたのにゃ~。すごかったのにゃー。そのあと、撫で撫でしてもらったにゃー。気持ちよかったにゃ~。お礼をしたいけど、何したらいいかわからにゃいから連れてきたんだにゃ」
レーニャが目を細めながらそう言った。
「おい、テツヤとやら」
「な、なに?」
何かぬいぐるみに話しかけられるのが、正直慣れない。
「わしは、メク・サマファースという。まあ鑑定を使っておるのなら分かるじゃろうがな。まずは、レーニャを助けた事はお礼を言おう。あと、最初の少し無礼な態度は謝罪をしておく。悪かった」
自己紹介をした後、頭を下げてきた。
「ちなみに、さっきおぬしが言ったとおりわしはエルフじゃ。少し昔、呪いをかけられてのう、今はこんな妙な格好をしておるが、元々は麗しいエルフの姫として有名だったのじゃ」
どんなわけがあってぬいぐるみになっているんだろう……?
でも普通のエルフがぬいぐるみじゃないという事は、わかった。
まあ、俺が想像しているエルフと一緒なのかどうかは、分からないけど。
「それで、お礼という話じゃったが……正直ここには何もないぞ」
「えぇ!? それじゃあ困るのにゃ!」
「いや、俺はわざわざお礼をされる必要はないっていうか……」
俺は少し考える。
ここでお礼としていろいろ情報を貰うのがいいんじゃないかと思った。
メクはエルフで、それも81歳らしい。結構いろんな事を知っていそうだ。
「無理やりこの谷に追い出されてきたから、すぐに出たいんだけど……お礼にどのくらい歩けば出られるとか、あとなんかやばい魔物がいるのかとか、教えてほしい」
「お主この谷から出たいのか……ふむ……じゃがなぁ……中々難しいぞ」
さっきレーニャも言っていたが、やはり難しいのか?
「死霊というのが夜に出る事は知っておるか?」
「さっきレーニャから聞いたけど……すごい恐い奴らだって」
「そうじゃ。そやつらが夜になると、その辺を大量に闊歩しだす。死霊どもは見つけた生物を片っ端から殺しにかかる危険な存在じゃ。谷の出口まで歩いて30日はかかる。それまで、死霊どもをかわし続けて歩くのは非常に困難じゃ」
「倒せないのか?」
「倒すか、面白いことをいうのう。やつらはこの世のものではない。こちらから攻撃を当てることが出来ぬが、死霊からはこちらに攻撃できるという理不尽な存在だ。特殊なスキルを持っていれば攻撃を当てる事が出来るな。お主にそれがあるかの?」
「……いや」
死体吸収でもしかしたら吸収が可能かもしれないか?
いや、死体吸収は、死体に触れないと発動しないからな。
攻撃を当てる事はできないって事は、触ることも出来ないだろうし、たぶん無理だな。
ていうか、そんなやばい奴らがいたのならここに来てなかったら、俺死んでね?
「じゃあ、この谷からは抜けられないのか?」
俺は聞いた。そうなったら非常に困る。
「それが、抜け道がある。外に繋がっている洞窟がここから、そう遠くない場所にあるのじゃが……」
抜け道があるのか。そこを抜ければいいのか。
「そこには強力な魔物、ジャイアントゴーレムが出口を塞いでおる。そいつを倒さねばこの谷からは出る事が、出来ぬのじゃ」
ジャイアントゴーレム……。
ゴーレムって岩で出来た、魔物みたいなやつだよな。
ジャイアントって事は、デカイゴーレムが谷から出る出口を塞いでるってことか。
「わしらも、こんな谷からはさっさとおさらばしたくての。わしは戦えぬが、戦いの指導は出来るから、レーニャをゴーレムが倒せるまで育てておる所じゃったのじゃ。レーニャの限界レベルは55で育てればかなり強くなるからのう」
そうなのか。
ドアが重くなっていたのを修行のためだといっていたのは、ジャイアントゴーレムを倒すための、修行をしていた、ということか。
あれ? でも、さっき戦えないとメクは言ってたけど、レベルめっちゃ高かったよな。
77だったし。
どういうことだ?
「メクさんは戦えないのか? 強そうなレベルだったけど」
「わしのレベルと限界レベルを見たか。元の姿ならいとも簡単に倒せるが、この姿ではステータスが、かなり弱体化しておる上、スキルや魔法が使えんのじゃ。戦う事は不可能じゃ」
なるほど。
このぬいぐるみにされる呪いとやらは、だいぶ厄介みたいだな。
「わしとしては、早いところこんな所から出て、呪いを解く方法を探しに行きたいが……ぐぬぬ、あの時、足を滑らせたばかりに……」
足を滑らせて落ちてこの谷にいるんかい。
おっちょこちょいな。
「にゃーにゃー、テツヤもこの谷から出たいにゃ? だったら、アタシと一緒にジャイアントゴーレムと戦えば、きっと倒せて外に出れると思うにゃ!」
レーニャがそう言ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます