第12話 家
「そういえば、テツヤはなんでここにいるのにゃ?」
洞窟を歩いていたらレーニャが尋ねてきた。
「ちょっといろいろあってね。追い出されてここにいたというか」
「へー、アタシはあんまり覚えていないんだにゃん。気付いたらこの谷にいたのにゃん」
覚えていないのか。何か事情がありそうだな。
「早く、谷を出たいんだけど、中々うまくいかないのにゃん」
「え? なんで?」
「あ、もう外にゃん!」
洞窟の出口が見えた。
レーニャは走って外に出る。
なんで外に出れないのか聞きそびれたな、いいか、後で聞こう。
洞窟を出ると、辺りが少し薄暗くなっていた。
もうすぐ日が暮れるのだろう。
「あ! やばいにゃん! 早く帰らにゃいと!」
夜になったのを見たレーニャは、ものすごく焦りだし、急に走って移動する。
俺も走ってついていく。
「夜になるのは、そんなにまずいの?」
俺はレーニャに尋ねた。
「まずいにゃ。この谷は夜になると、死霊って恐いやつらが歩くようになるって、師匠が言ってたにゃ」
「死霊?」
師匠ってのは誰かともかく、死霊とは?
「アタシは見たこと無いから、よくわからにゃいけど、とにかく恐い連中らしいにゃ。夜には絶対に外に出ちゃだめなのにゃん」
怖い連中ね。
しかし、夜になると、絶対その死霊ってのが出るのか?
今の俺なら倒せるかもしれないが、倒せなかったらこの谷を出るのが、かなり難しくなるよな。
「あ、もう着いたにゃ」
谷の壁を指差してレーニャが着いたという。
穴が開いているわけでもないし、どういうことだ?
そう思っていると、近づいたら取っ手を発見。
引き戸っぽいのがあるみたいだな。
これを開けたら、家には入れるのか。
死霊って奴らにばれないようにしてるのかな?
レーニャはその扉を開けようとする。
中々重い扉みたいで「うにゃ~!」と力を入れながら開けようとしている。
ただ中々開かない。だいぶ悪戦苦闘している。
「あれれー? いつもならどかせるのに!?」
「まだ体力が完全回復してないからじゃない?」
「にゃー。そうだったにゃ」
「その後ろにあるんだよね家は。手伝うよ」
「お、お願いするにゃ~」
俺はレーニャと協力して扉を開ける。
確かに重い扉だったが、開ける事が出来た。
「やったー開いたー」
「なんか、重いねこれ。なんでこんなに重いの?」
「師匠が修行のために重くしろって言ったにゃ」
「師匠か……もしかして、その師匠って人もいるのか?」
「にゃん! この家にいつもいるにゃん。師匠は物知りだからいろいろ知ってるのにゃ。いいお礼の返し方もきっと教えてくれるにゃん。あ、閉めるのも手伝って欲しいにゃ」
扉を一緒に閉める。
「じゃあ、中に入るにゃん」
レーニャが家の中に歩いていくので、俺も付いていく。
よく考えれば、女の子の家に招かれているんだよな。
まあ、秘密基地みたいな家だし、そこまで緊張しないけど。
しかし、師匠なる人物がいるのは少し緊張してきた。
あまり人と話すのは得意ではない俺。
レーニャは、年下だし、何となく話しやすい雰囲気だったし、最初は可愛いから緊張はしたけど、今はそこまでドキドキすると言う事はない。
だが、師匠と言うのが年上の、それも女性だった場合、何を言っていいのやらという感じになってしまう。
物知りだっていうから、出来ればいろいろ聞いておきたいけど。
この世界について知らないことが多すぎるからな。
俺は招かれるまま、家に入っていく。
なかは狭く、薄暗い。
通路を少し歩くと、広い部屋に出てきた。
部屋の中に、師匠なる人物はいない。
別の部屋にいるのか? ここ以外部屋があるのか?
そう思っていたら、
「師匠ただいまにゃんー」
と誰もいないはずの部屋にレーニャが挨拶をした。
え? と思って、中をよく見てみる。
部屋の中に、白い熊の人形がある。少し大きめで、2歳児くらいの大きさはありそうだ。
レーニャはその人形に向かって、挨拶をしていたようだ。
俺は察した。
そうか、彼女はこんな辛気臭い場所に一人暮らしをしているんだ。
一人でいるのが寂しすぎて、人形に人格があると錯覚してしまっているんだ。
少し恐かったが、こんな場所だ。レーニャはまだ15歳。
無理からぬことだろう。
そう納得していたら、
「遅い! 何時だと思うておる! 夜になったら危険じゃと言ったじゃろうが!」
女の人の声が、その熊のぬいぐるみから発せられた。
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