第11話 レーニャ

 ふぅー。少し焦ったけど、倒せてよかった。


 よし、吸収しよう。


 踏み潰されたクモの死体を触るのには、若干抵抗があるが、我慢して触る。


 HP1上昇、MP5上昇、攻撃力1上昇、防御力1上昇、速度20上昇、スキルポイント3獲得。

 スキル【吸い取り糸アブソーブスレッドLv1】を獲得。


 あのスキル獲得できるのか。結構使えそうだな。


 あと、また速度が急上昇した。

 最初は防御系だったけど、なんか徐々にスピードタイプになっていくな。


 えーと、そうだ。あの猫。


 俺は猫がいたほうを見ると、再びぐったりと倒れていた。

 まだ、息はあるみたいだ。


 この猫はあのクモにやられたのだろうか?


 ぐったりしている感じからすると、たぶんそうだろう。

 この猫が知らせてくれたから、あのクモに早く気付けたし、ここで見捨てることは出来ないな。


 助けよう。


 そう決めた俺は、猫を抱えて水を探しにいった。


 しばらく進むと、奥深くに水を発見した。

 それなりの量の水が、音を立てながら流れている。


 これ水に入っていけば外に出れるのかな? うーん、さすがに溺死するか。


 結構綺麗な水だ。俺は手ですくって飲む。冷たくておいしい。


 つーか、よく考えたら水筒みたいな入れる物がないじゃないか。


 考えなしだったな。

 周りにあるもので作るのは……難しいか。


 一応水源があると言うことを確認出来ただけ、よしとするか。


 それと、さっき拾った猫だ。

 助けるつもりで拾ったけど、助けられるかな?

 ずっとグッタリしてるんだけど。


 あの蜘蛛にやられたなら、休めば回復するような気が、しないでもないけど。


 とりあえず水を飲ましてみるか。


 俺は水を手で掬い取って、猫の口のあたりに持っていく。

 猫は弱々しいが、ペロ、ペロと水を舐め始めた。


 喉が乾いているのか、結構飲み続け、全部飲む。

 再び水を持ってくると、それも飲み干した。


 水や食料を与えれば、復活するかも知れない。

 しかし、食い物なんてないしな。

 きのこはあれ、毒耐性がないと食えないし。


 ちょっと休ませて様子をみるか。

 地面は硬いし、俺は自分の膝に乗せて猫を休ませる。


 猫の温かさが、膝に伝わってくる。


 ……なんかこうしてると、猫好きの俺としては撫でざるを得ないわけで。

 頭やら胴体を優しく撫でる。


 すると、気持ち良さそうに「にゃ〜」と鳴く。


 お? 少し容態が良くなったか?

 俺の手には生き物を癒すハンドパワーでもあるのか。

 ……まあ、水飲ませたからだろうけど。


 しばらく、そうして撫で続けている。


 いきなり膝が重くなる。

 さらに撫でていた感触が変わる。

 人間の髪を触っているみたいだ。


 俺は違和感を覚え、下を見てみると、


「は?」


 俺は惚けたような声出す。


 俺が撫でていたのは猫ではなかった。


 女の子だった。


 猫耳の生えた黒髪の女の子を気づいたら撫でていた。

 その女の子は俺に撫でられながら、「うにゃ〜」と気持ち良さそうな声を上げている。

 さっきまでの猫の声と違い、完全に人間の女の子のような声だ。


 …………幻覚&幻聴だな。

 猫好きの俺は、この手の妄想をよくする。


 助けた猫が美少女になって、イチャイチャするとか、そんなアホみたいな妄想だ。


 その幻覚を見ているのだろう。俺はどうやら疲れているみたいだ。


 だって猫がいきなり人間になるなんて、ありえな……


 いや、ありえなくない! ここは異世界!


 猫から人間になるようなのがいてもおかしくない!


 そういえば俺は鑑定をかけていなかった。

 いや、どう見ても普通の猫だったから、鑑定しようという発想が湧かなかったんだよ。


 鑑定してみよう。


『ケットシー。個体名:レーニャ15歳 Lv.25/55

 猫の獣人ケットシー。弱るとただの猫になる』


 ケットシーか。

 この子は、猫の獣人なのか。

 つまり水を飲んで少し休んで、体力が回復し、人間体に戻ったということか。


 名前はレーニャって言うのか。


 俺は両肩を抱いて、この子を起こす。

 顔は幼いが美しく整っている。

 あと服は着ているようだ。

 普通全裸になりそうなものだが、そうではないらしい。


「ちょっと君ー、ちょっとー」

「うにゃ〜……もっと撫でるにゃ〜」


 目を細めながらそんなことを言っている。

 若干寝そうになっているのか? とりあえず俺は揺らしてみる。


「うにゃ〜うにゃ〜……うにゃ?」


 パチリと目を開けた。

 大きくて綺麗な琥珀色の猫目だ。


「あれー? ……にゃ! 元に戻ってるにゃ!」


 レーニャというケットシーの女の子は、自分の手足を見て、元の姿に戻ったことを確認する。


「やったー戻ったにゃー! お兄さんのお陰で助かったのにゃ! ありがとうなのにゃ!」


 俺の両手を掴んできてそう言った。


「あ、いや、ど、どういたしましてというか、当然のことをしたまでというか」


 童貞の俺。女の子に手を握られて思いっきり動揺する。

 相手は15歳、10歳も歳下だが、顔が美少女な上に、スタイルも結構いい。

 めちゃくちゃドキドキしてしまう俺。なんか情けない。


「アタシはレーニャというニャ! お兄さんは何というにゃ?」

「高橋……哲也。名前が哲也で姓が高橋ね」

「テツヤというのにゃ! さっきの蜘蛛を倒した時の動きものすごく速かったにゃー! テツヤは強いのにゃ!」


 褒められて悪い気はしないので、少し照れる。


「うにゃ〜お礼をしたいけど、何も持ってないにゃー……」


 ショボーンと落ち込んでいる。


「いやいや、お礼なんていらないから」


 と俺はフォローする。


「でもにゃ〜。あ、そうだ! 付いてくるにゃ!」


 何か思いついたのか、レーシャは歩き出す。


「どこに行くんだ?」

「アタシの家にゃ! 一回洞窟を出るにゃ!」


 家があるのか。


 レーニャは洞窟を出るため歩き出したので、俺は付いて行った。

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