第10話 蜘蛛

 だいぶ歩いたら、今度は喉が渇いてきた。


 この谷で、水なんてものは一度も見たことがない。

 さすがに水がないのはまずいよな。

 きのこにもある程度水分はあるだろうが、それだけで生きていけるとは思えないし。


 雨が降ってくるのを待つしかないか。


 とりあえず現在の喉の渇きは我慢することに決める。


 そして、しばらく歩いていると、谷の壁に洞窟があるのを発見した。


 洞窟内は薄暗いのだが、ポツポツと光が見える。

 人がいるのか? と一瞬思ったが、あれはどうやらきのこだな。

 光りを放つきのこが、生えているみたいだ。

 人がいると思ったため、少しがっかりするが、光があるため洞窟の先へは進めるな。


 長い洞窟ならば、もしかしたら谷を出れるかもしれない。

 しかし、徒労に終わる可能性も高いし、洞窟内では隕石メテオが使えないかもしれないので、俺の強さも少し落ちる。


 悩んでいると、洞窟の中から何やら音が聞こえてくることに、俺は気付く。


 これは、水が流れる音?


 かすかにだが確かに聞こえる。

 この洞窟を進めば、地下水が見つかるかもしれない。


 よし、決めた。行ってみよう。


 ……ただまあ、やばそうな奴がいたら、すぐ引き返そう。


 そう決めて俺は洞窟の中に入って行った。



 しばらく洞窟の中を歩いた。

 道中、何も見つからなかったが、水の音は大きくなってきている。


 やはり、この洞窟のどこかに水がある可能性が高い。


 俺はどんどん先に進んでいく。


 すると、


「ん?」


 俺は思わず声をだす。


 何かが倒れている。


 これは……猫だ。


 黒い猫がぐったりと倒れている。

 死んでいるのか? 

 いや、一応息はあるみたいだ。


 見た感じ怪我はしていないみたいだが……どこか悪いのだろうか?


 どうするか。

 猫派の俺としては助けたいという気持ちは強い。だが、自分一人の面倒も見きれるかわからない状態で、助けるのも……でもなぁ……


 俺が悩んでいると、その猫が目を開けて、フラフラしながら立ち上がる。


 立てるのか? いや、でもやっと立ってるって感じだけど。


 すると、その猫が絞り出すように「にゃー……! にゃー……!」と、俺の右斜め後ろに向かって鳴き始めた。


 かなり必死に鳴くので、なんだ? と俺は疑問に思い、右斜め後ろを確認する。


 何もいない、と最初は思ったが、よく見ると地面に何かいる。


 蜘蛛だ。


 青色の蜘蛛だ。普通の蜘蛛よりは大きい。が、あくまで蜘蛛の範疇に入る程度の大きさだ。


 こいつに向かって、猫が必死に鳴いている。

 何かやばい蜘蛛なのか?

 鑑定してみるか。


『アブソーブスパイダー♂ 1歳 30/35 

 特殊な糸を出す蜘蛛の魔物』


 特殊な糸って何だよ。それじゃあ何もわかんねーよ。


 微妙に使えねーな、と思っている俺の隙をついて、蜘蛛が糸を俺に向かって飛ばしてくる。

 避けきれず当たる。


 やばい、特殊な糸とやらを喰らってしまった。どうなるんだ?


 最初は何も起きなかったが、何だか徐々に力が抜けてくるような気がするような。


 もしかして、敵のHPを吸い取る系の技か?


 だったらやばい! さっさと引っぺがさないと!


 俺は糸を取ろうとするが取れない。

 切ろうとしても切れない。この糸なにで出来てるんだ!


 くそ、こうなったら本体を潰すしかない。


 俺は蜘蛛を潰そうとするが、ものすごく素早く逃げる。

 やべーあいつ俺より速いぞ。


 この蜘蛛はこうやって、糸を敵に付けて、相手が死ぬまでこの速さで逃げ続ける魔物なのか。

 めちゃくちゃたちの悪い奴じゃねーか。


 ここは先ほど獲得した、【電撃サンダーショック】を使おう。


 どんなに速くても電撃は避けられまい。


電撃サンダーショック!」


 電撃が俺の手から迸り、アブソーブスパイダーに命中。

 僅かに動きが止まる。


 俺は全速力で走る。

 奴が動き出す前に、倒さなくては!


 先ほどサンダーボアを倒して、速さがだいぶ上がったからか、かなり速く動けた。


 アブソーブスパイダーが痺れが取れて動き出そうとするが、俺が奴のいる場所に到達するほうが僅かに早かった。


 俺はアブソーブスパイダーを思いっきり踏み潰した。

 速度以外のステータスは弱かったみたいで、あっさりと殺せた。


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