七十五日目・昼~エンディング
オクスシルダに到着すると、既に多くの人々が集まっていた。ここにいるのはみな、これから始まる"魔神討滅作戦"に参加する、冒険者か壁の守人達だ。
作戦の概要はこうだ。部隊を三つ編成し、そのうち二つはオクスシルダの東西に跋扈している魔神の群れの殲滅に向かう。残り一つはオクスシルダの防衛を行いつつ、ほか二部隊に何かあったときのために、いつでも救援に迎えるように待機。
そしてエルは、その居残り部隊に所属することになった。二つの部隊を見送った後、自分たちも魔神の襲撃に備え、街の外壁で待機をする。
作戦開始から数日。どの部隊も順調に魔神を殲滅し、魔神の数や襲撃も目に見えて減ってきていた。
この調子ならば、無事に終えられるだろう───そう思った矢先のことだ。
突然、北方に広がる"奈落"の上空が、虹色に染まるのが見えた。……“奈落の魔域”が発生したようだ。
とはいえ、空に浮かぶ魔域に進入する術をエルは持たない。風の妖精にお願いすれば、強引に投げ飛ばしてもらえるのかもしれないが……などと考えていると、ふいに目眩のような感覚がして、周りの空間が歪み始めた。
……気がついた時には、エルは魔域に吸い込まれていた。どうやら、魔域からのご指名を受けてしまったようだ。ならばご期待にお応えさせていただくのが礼儀というもの───全部ぶっ壊して、さっさと戻ってきてやるとしよう。
内郭域、+2。外郭域は【カティアの魔域Ⅱ】。呼び出すフェローは───アレクサンドラ様一人だけだ。
最終決戦には、勝率だのなんだのを無視して二人だけで挑みたい。プレイ開始当初からそう思っていたのだ。そういう訳で、どうか最後までよろしくお願いします、アレクサンドラ様。
◇ ◇ ◇
噴煙を上げる、火山の麓。周囲には、ノマリ模様の衣服を着た人々。カティアの姿は無かったが、代わりに集団の中心にいた老人に声をかけられた。
供物を持ってくるように、とのことだが。儀式でもするんだろうか。とりあえず言われた通り、辺りで適当に狩りをして肉を拾ってくることに。
回収後、火山の頂上にあった祭儀場に案内される。老人が祝詞らしきものを唱えると、火口から毛むくじゃらの水牛のような姿をした生き物が現れた。……幻獣・クジャタだ。雰囲気からして、戦うことにはならなさそうか。
クジャタは祭壇に近づくと、エルが捧げた供物を喰らい、代わりに自身の背中に生えるようにして生成されていた宝石をひとつ、祭壇に置いた。
老人からそれを「汝の旅路に役立つであろう」と渡された。……効果は妖精魔法のダメージ+2か。カスレベ、マナリングと合わせて+7点、なかなかえげつない補正量になってきた。左手の〈叡智の腕輪〉と交換して、これを最終装備とする。
随分あっさりだが、最後の外郭域はこれで終わりのようだ。余っていた〈熱狂の酒〉を飲み、少しだけ減っていたHPを〈救難草〉で回復したら、内郭域───【大侵蝕迎撃戦】へと進む。
◇ ◇ ◇
着いたのは、巨大な城壁の上。目の前には、見渡す限りの虚ろな大穴。……現実世界と同じような光景だ。
アレクサンドラ様が、近くにいた赤毛の少女───イリーチナ様を指して、「あの出で立ち……イリーチナ様が、戦死された日のものだ」と、苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。確か彼女の死をきっかけに、アレクサンドラ様は正式に"壁の守人"となることを誓ったのだったか。
……そして、彼女の死因は、イリーチナ様の仇である魔神───つまり、いま北方の空よりやって来ている、魔神・エゼルヴに挑み、敗れたこと。
彼女が何を考えているのか。この魔域で何をすべきなのか。もはや言うまでもない。エル、アレクサンドラ、イリーチナ───そして、いつの間にやら我々の傍らに自らやって来ていた、カティア、ザイ、タウトゥミ、ナナリィ。全員が、無言のうちに武器を構えていた。
美しい女の姿をした魔神は、その顔に相応しくない醜悪な咆哮を上げて、凍てつく空気を震わせる。……最終決戦の時だ。
戦闘準備の段階で、援軍として駆けつけてくれた守人達からの支援行動を選択できるようだ。『機先』『戦術支援』で先制と魔物知識の補助をしてもらい、『攻撃支援』『抵抗支援』『防御支援』で戦闘能力を底上げしてもらう。回復が若干不安だが、そのための《頑強》だ。耐えつつ自力で回復するほかない。
それと、イリーチナ様も戦力として数えて良いらしい。《魔法制御》を持っているので、【ファイアボール】を使って頂くか。物理攻撃はほぼ当たらない・避けられないと思われるので、後衛エリアからは絶対に動かないでもらおう。
準備を終えて、先制判定。支援のおかげで見事奪取成功、こちらの手番からだ。
イリーチナ様に、開戦合図の【ファイアボール】を撃ち込んでもらう。それに続く形で、エルが【ヴォーパルウェポンSS】《魔力撃》。まずは『指差す針』が鬱陶しそうな尻尾からだ。38点与えて、アレクサンドラ様はラピス召喚、一回転して25点。かけらをすべて頭部に突っ込んだとはいえ、1ラウンド目にして尻尾のHP、残り11。素晴らしい勢いだ。
エゼルヴの一手目、『指差す針』をイリーチナ様へ。抵抗失敗で17点食らうが、これくらいならアレクサンドラ様がなんとかできるラインだ。胴体の攻撃はブレスカとローブでカウンターして、本命の頭部。
物理攻撃はどうせピンゾロチェックであるため、《マルチアクション》は無いものとして……『イリーチナが死亡した場合、PC側が無条件に敗北である』というルールを考えると、順当にそちらを狙ったほうが良いだろう。エルは抵抗力が17もある上、魔符も持っているので、そもそも魔法が通りにくいというのもある。考えた結果、イリーチナ様へ【サンダー・ボルト】。抵抗できず、26点のダメージ。
最後に、エゼルヴを取り巻く魔神の群れの攻撃がやってくる。……エル、イリーチナ様ともに二回転され、エルは24点、イリーチナ様は23点くらった。イリーチナ様、まさかのいきなり生死判定だ。
なんとかピンゾロ死だけは避けられたが、はたしてエルとアレクサンドラ様だけで彼女を回復しきれるのか……?いや、回復するしかないのだが。
二手目、アレクサンドラ様が【キュア・ウーンズ】で二人を回復。エルも【ヒールスプレーA】と《マルチアクション》【アドバンストヒーリング】をイリーチナ様へと使う。トータル43点回復して、即死させられることは防げるラインまで戻すことができた。……問題は、【アウェイクン】が無いので、この後ずっと気絶したままであることか。
それに関してはもうどうすることも出来ないので、せめてイリーチナ様がくらうダメージが優しいものであることを祈るしか無い。マルアク打撃部分、《魔力撃》をするまでも無いので通常攻撃で尻尾を叩く。無事に命中して、まずは一部位。
敵二手目。サンボルと援軍の攻撃だけでイリーチナ様を殺し切るのはやや難しそうか……ということで予定変更、【マジシャン】で《バイオレントキャストⅠ》を習得し、エルごと【ライトニング】で焼き払いに行く準備を進める。胴体の攻撃は案の定避けられた。
魔神の群れの攻撃、エルに8点、イリーチナ様に一回転して17点。的確にイリーチナ様をボコボコにするのはやめていただきたい。
こちらの三手目。アレクサンドラ様は槍での通常攻撃だった。エルは……やはりイリーチナ様のHPが怖いので、【ヒールスプレーA】と【アドバンストヒーリング】を使いつつ胴体に《魔力撃》。29点与えた。
敵三手目、胴体にカウンターを入れられつつ、頭部が《バイオレントキャストⅠ》【ライトニング】でイリーチナ様を狙う。……が、出目は奮わず、ダメージは今ひとつだった。魔神の群れの攻撃も、今回はあまり痛くはなかった。
好機となったこちらの四手目。アレクサンドラ様がラピスを召喚して胴体を削り、エルが追い打ちの《マルチアクション》【フレイムアロー】。胴体を落とされ、頭を垂れたところへ《魔力撃》、33点。イリーチナ様が殺されるよりも早く、こちらが殺すしか無い。いつも通り【ヒールスプレーA】を後方に投げて手番終了。
敵の四手目。頭部だけとなったエゼルヴの勝ち筋は、【ライトニング】が大回転することを祈る以外にないが───ここでイリーチナ様、[運命変転]によりギリギリで抵抗成功。魔神の群れが二回転で19点の追撃を与えるも、HPは安全圏だ。
こちら五手目、アレクサンドラ様がスカウト運動判定を引いて実質無行動。残り17点は流石に怖いのでと、エルはイリーチナ様へ【ヒールスプレーA】【アドバンストヒーリング】、エゼルヴ頭部へは《魔力撃》。残り79点、少なく見積もってあと三手で終わりだ。
最終決戦ではあるが、その後は同じような展開が続いたため、描写を少し割愛。
イリーチナ様のHPが-17まで行き、これは終わったか……と思ったが、ギリギリで生死判定に成功したり、アレクサンドラ様がここぞとばかりに【キュア・ウーンズ】をしたりして、なんとか守りきって迎えた8ラウンド目。
ラピスがエゼルヴの喉笛を食い千切り、そこへエルが全力の【クリティカルレイA】《魔力撃》【フレイムアロー】を叩き込む───敵のHP、-60。もはや生死判定の余地もない。我々の勝利だ……!
◇ ◇ ◇
さて、感動のエンディングだが……ここの描写は、きたる『本番』の時に行って然るべきだろう。ということで、簡潔にエピローグだけを語らせてもらう。
無事に魔域を破壊・脱出したエルは、現実世界への帰還後、まだ続いていた魔神討滅作戦へ加勢。三日後、東西で戦っていた遠征部隊も街に帰還し、残党の殲滅に加わって、ついに魔神はオクスシルダから姿を消した。
皆が勝利の歓声を上げるなか、冒険者ギルド本部の戦士長・"夜の目の狼"ワナギスカより、「お前こそが"オクスシルダの英雄"だ」と賛辞を送られ、冒険者・エルシオンの名はコルガナ中に知られることになった。……もちろん、共に戦った六人の仲間のことも忘れられてはいない。
盛大に行われた祝勝会を終えて、数日後。凍原を超えて、エルはエルヤビビへと帰ってきていた。殲滅作戦の成功の知らせを聞いてか、魔神を恐れて逃げ出そうとしていた人々もいくらか戻ってきており、街は以前の活気を取り戻していた。
名物の温泉に浸かりつつ、これからどうしようかな、と考えを巡らせる。
受けるだけ受けて終わらせていない依頼がいくつかあった気がするし、峡湾地帯の“奈落の魔域”もまだ手付かず。海域に出るという魔神も、おそらくまだ討伐されていないだろう。
その辺もぼちぼち解決するとして、それらが終わったら、そうだな……またコルガナを離れるか、それとも"壁の守人"として、この地を守り続けるか……
───ま、終わったら考えればいっか。今の私に、急ぐ理由はないんだし。
そう考えて、しばらくはゆっくりと休養をとることにしたエルシオンであった。
─────八十日目・夜にて、デモンズライン備忘録・完。
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