五十日目・夜~五十六日目・昼

 五十日目・夜。四度目となる森林地帯の攻略開始だ。攻略といっても、ほぼ魔域に向かうだけの状態だが。

 以前見つけた小舟を使って川を渡り、フィルイックにクエストの報告……をする前に、そういえば読めていなかった石碑を改めて読んでおく。『主無き魔法生物どもは、永劫にこの森を守るだろう』……よし、役に立つ情報だったな!!

 おまけの★1つを回収しつつ、改めてフィルイックへの報告。すると地下の空間へと案内され、「この魔方陣で中洲まで飛ばしてあげるよ」と伝えられた。準備は出来ているので、そのまま転移をしてもらう。

 程なくして、中洲に移動成功。周辺を調査すると、展望台を思わしき建物へと上るための階段を発見。上がった先には、聞いていた話の通り“奈落の魔域”。

 ノンストップで内部へ突撃。外郭域に選ばれたのは、カティアのまいk……あれこれもう終わったぞ。……もう一回振るか、さすがに。

 再抽選の結果、【タウトゥミの魔域Ⅱ】が当選した。アレクサンドラ様の魔域、ワンチャン最後まで出ないかもしれん。


 ◇ ◇ ◇


 今までの魔域とは一風変わって、豪華な調度品が飾られた食堂の中に投げ出された。一回目の時と言い、タウトゥミ君の魔域はやけに平和だな。

 さて、部屋の中央に置かれたテーブルを確認してみる。五人分の料理と食器が並べられているが、肝心の出席者は銀色の髪の少女……タウトゥミの妹・ツィオネイしかいなかった。その妹ちゃんさえも、「誰も来ないんでもう部屋に戻っていいすか?」と言ってくる始末。家族仲ひえっ冷え過ぎて見てるのが辛くなってきたよ。平和なんて言ってごめんなタウトゥミ君。

 しかしタウトゥミ少年、ここで諦めない。どうにかして両親と、主役であるチェミュエ姉さんをこの場に連れてくるのだ、と宣言してみせた。よく言った、君だけがこの家の希望だ。


 なお、道中は特別障害となるようなものはなかったので割愛する。バイオレンスなお姉さんが前回同様に魔動機を差し向けてきたが、それもブレスカさんが全てなんとかしてくれた。


 無事に家族全員が食卓に揃って、さあ夕餉の時間だ───と思ったら、最後の最後に「なんか演奏してくれない?」と無茶ぶりされた。そういうのってS○riとかAl○xaみたいな機械の仕事じゃないんですか?魔動機文明時代さん??

 ……結果はまあ、お察しの通りだ。バード技能もなければそれらしい一般技能も取らせていないので、ノマリのお薬で疲労度を帳消しにして、外郭域攻略は無事終了……とその前に、お礼の品として家族写真入りのロケットをいただいたので、フェローデータを確認しておく。

 ……プラーらしい純物理アタッカーな構成だ。打点の期待値もアレクサンドラ様よりも明らかに強い。だが、肝心の命中力が少々苦しいのであった。今後のご健闘をお祈り申し上げます。


 ◇ ◇ ◇


 室内から一転、今度は煌びやかな大広間にいた。確か転移の魔法陣があった場所、皇宮跡とか書いてあったな。つまり滅ぶ前のトゥリパリンナの姿か、これは。

 貴族か王族か、といった風貌の人々が周囲を埋め尽くす中、隣にいた一人の女性───ナナリィが、険しい顔で「この光景は」と呟いた。

 聞けば、今この場は、魔神との戦いに備えて、たくさんの国々と"壁の守人"達が協力関係を結ぶための式典を行うところであるらしい。しかしその中に、他国の使者に化けた魔神が紛れ込んでいて、それによって彼女の母親が暗殺されてしまい、その混乱に乗じて他の魔神たちも襲撃、国は滅亡した───というのが、史実となっているそうだ。

 ここまで聞いて「はぁ、そうですか」で済ませられるほど、わたしもエルシオンさんも鬼ではない。アレクサンドラ様もやる気でおられるし、なにより今回はナナリィ本人をフェローとして召喚している。


 というわけで、使者に化けた魔神を───見つけた。ボコった。〈悪魔の血〉おいしいです。

 ……まぁ、うん。これに関しては来るのが遅すぎた我々サイドに非があるだろう。どう考えてもレベル9(回避固定値17)で挑むようなところではなかった。


 なにはともあれ、式典は終了、女皇も王国も無事のままとなった。ナナリィからお礼として、なにやら怪しげなメガネを頂く。妖精が見えるようになる、らしいが、あいにくエルにルーンフォークの知り合いはいないので、おしゃれアイテムとしての価値しか無さそうだ。

 ……それはさておき、遺品をゲットしたので追加の行動表を見てみよう。……えっなにこの達成値。威力こそ20しかないけどやってることヤバいぞこのお姫様。さてはコルガナ生まれの女の子、戦闘力高めの子しかいないな??

 6の目でしか発動できないので、使用率はそう高くは無いが……これは思わぬ収穫だ。エースアタッカーとして存分に活躍してください、姫。


 ◇ ◇ ◇


 魔域から脱出、と同時に魔法陣によって帰還。フィルイックに詳細を報告してやることに。……えっ、毒の沼?……あぁうん、レベル4とか5で来たら危険だったかもね……めっちゃ元気に深呼吸してましたとは言いにくいねエルシオンさん……


 報告を終えた翌日・五十二日目。二日くらい寝ずに活動している気がしたがそのまま山岳地帯へ特攻。

 さて、ここは主も魔域も健在だ。少し忙しくなるぞ……と意気込んでいると、マドマニと名乗ったレプラ男子の探検家が、「面白そうだから」という理由で勝手についてくることになった。……本当にこいつレプラか?ぐららんではなく?

 まあいいか、と受け入れることにして、流石に一旦野営を行う。翌朝、ノマリのお薬を服用して疲労度を0に。これで今日も元気にかつどうできるぞ。


 まずは魔域に向かうことにして、2のマスへ。以前は逆立ちしても倒せなかったラングカーグナーも、今のエルにとってはただの歩く経験点……とか思っていたら、「風の砲撃」でトータル20点くらい喰らった。卑怯だぞクールダウン無しの魔法攻撃を持ってくるのは。

 気を取り直して、坑道内の調査開始。隠し扉を発見したので、先程のカーグナーがドロップした鍵で道を開けておく。

 その先へ進むのは一旦保留にして、まずは目の前にある魔域の攻略だ。外郭域、【アレクサンドラの魔域Ⅰ】。待ってましたアレクサンドラ様。


 ◇ ◇ ◇


 降り立ったのは、先程の式典会場のような大広間……かと思ったが、どちらかと言うと闘技場、と言ったほうがよさそうな場所だった。

 円形に張り巡らされた高い壁の上では、場内の我々に対して、民衆が歓声を上げている。アレクサンドラ様に状況説明を頼むと、「イリーチナ様の護衛騎士を選出するための競技会の日の記憶のようだ」とのこと。見れば、確かにフィールドの反対側には、初めて攻略したあの魔域で見た少女───イリーチナ公爵令嬢がいらっしゃった。

 そして我々とイリーチナ様の間には、武装した戦士が一人……いや待て、なんであいつ楽器持ってんだ。まさか前衛バードとかいう希少生物は魔法文明時代から存在していたのか??

 「あの敵を突破すれば、護衛騎士に叙任されるのだ。さあ行くぞ!」とアレクサンドラ様はやる気満々だが、どう考えても王国側はアレクサンドラ様の力量を見誤っている。なんであのネタビルドマンに相手が務まると思ったんだ。バードメインのナナリィさんも流石にこれには苦笑いしてますよ。


 戦闘内容はやはり言うまでもなく、エルの《魔力撃》とアレクサンドラ様の刺突、そしてナナリィさんの【フレイムアロー】による一方的な虐殺ショーで終了となった。そりゃそうだ、この人3ラウンドに一回しか攻撃できないもん……

 ……まぁでも、アレクサンドラ様が楽しそうだからいっか。


 ◇ ◇ ◇


 所変わって、中央域の開始地点は、狭苦しそうな石造りの倉庫の目の前であった。

 扉に鍵が掛かっていることを確認しようかと歩み寄ろうとしたのと同時、前より少し成長した姿のタウトゥミ少年が現れた。「これからその倉庫に侵入して、魔動部品を盗み出す。オーケー?」と問うてきた。オーケーじゃないが。何当然のように人に犯罪の片棒担がせようとしてんだ。

 我々の主張は無視されて、扉の確認作業が始まる。まあどうせやるつもりだったしいいか……と罠を発見した所で、ページの少し下に書いてある内容が目に入った。

 「討伐特典:★1つを獲得する。」…………あーーーっと手が滑って折角発見した罠を起動させてしまったなーーーこれはもう出てきた敵を倒すしかないなーーー!

 ……はい。罠を意図的に起動させて★1つを獲得しました。許してくれ、経験点カツカツなんだ。


 茶番を終えた後、急いで倉庫の物色、即撤収。……と行きたかったが、仕事の早い警備兵二人が、既に駆けつけてきていた。やむを得ないので、こいつらも黙らせてやることになった。

 ……窃盗、器物破損、暴行・殺人未遂と、罪がどんどん重なっていってるのだが、これって裁判になったら勝てるんだろうか。それとも魔動機文明時代って世紀末社会な感じだったんだろうか。


 文明考察は置いておいて、戦闘開始。特別脅威となる能力もないので、べしべしと《魔力撃》を叩き込んでいく。ナナリィさんが【終律:蛇穴の苦鳴】で42点を叩き出した結果、錬金剣士BくんのHPが-38になるという凄惨な事件も起きたりしたが、どうせ殺すんだ。死体が原型を留めているかどうかなんて些末事というものよ。

 そのままAも流れ作業でバラしてやろう、と思ったのだが、瀕死になったと同時に魔神・アルガギスへと姿を変貌させた。どうやら人の姿に化けていたらしい。なんと姑息な。

 ……でも君、化けたままの方が強かったと思うよ。【ポイズンニードル】で毎ラウンド4点食らうの地味に鬱陶しかったよ。


 戦闘終了後、二つの死体を放棄して、チェミュエの元へ帰還。彼女は我々が持ち帰った部品を用いて、ナックルガードに似た魔動機を完成させると、満面の笑みでそれをタウトゥミに手渡した。……この遺品書いてあること強すぎねえか。そりゃタウトゥミくんも伝説の守人として名を馳せることになる訳だよ。

 後に量産されて、世界中のグラップラーの手に行き渡る、なんてことにならなくて良かったなぁ……と安堵しつつ、お先に撤収させてもらうことにした。


◇ ◇ ◇


 魔域から脱出して、ログを確認する。……アラクルーデル、ちょうど6のマスにいるみたいだな。このまま会いに行ってやるか。

 坑道を駆け上がり、山の頂へ。待ち構えていたアラクルーデルと目があったので、有無を言わさず抜刀、もとい抜縋。序盤はよくも無駄に日数を消費させてくれたな、死んで償うがいい。


(例によって回避がピンゾロチェック、魔法ダメージも飛んでこないので割愛される戦闘描写)


 主との戯れを終えると、近くにまだ蛮族の群れがいることに気がついた。ので、そいつらもメイスの錆にしてやった。返り血に服が染められているかもしれない。

 その後、蛮族どもがたむろしていた建物に入ってみると、中ではなにかの魔動機が稼働したままの状態であった。そういえばこの山、鉱毒がどうとか言われてたな。この機械が原因か。

 アルケミを上げたお陰で僅かながら見識判定の固定値を得ていたため、実行。……〈叡智の腕輪〉が砕け散った。街に着いたら補充しよう。

 ともあれ、無事に装置を停止させることができた。これで鉱毒に悩まされることはなくなるんじゃないだろうか。ついでに傍らに積み上げられていた屑鉄をいただいて、この場を後にする。


 ……と、このタイミングで、なんかマドマニとかいうのが着いてきていることを思い出した。時間経過した分だけダイスを振ってやることにしy……おい初手で1引くな。何しに来たんだこいつ。


 そんなこんなあって、五十六日目・昼。久しぶりにトゥルヒダールに戻ってきた。

 パルアケを出てから六日か。……六日か。そろそろタイムリミットも近いので、いくらかのタスクに見切りをつけて、オクスシルダ到着のタイミングを調整しておいた方がいいんだろうか。


 街に着いたので、諸々のクエストの報告を終えた後、いつもどおり成長処理に入る。

 能力値はついに筋力が伸びて、〈剛力の指輪〉がお役御免となった。ありがとうヤルノさん、なんだかんだで仕事したよこいつは。

 続いて技能成長、今回の獲得経験点は6000点。思い切ってフェアテを6に、エンハを2にして【ガゼルフット】を習得。

 フェアテを上げたことで、自爆覚悟にはなるが【ファイアブラスト】という範囲攻撃手段を獲得できた。【ミストハイド】も魅力的だが、いかんせん効果時間が短すぎるので、【サモンフェアリーⅣ】でフラウを呼べるようになるまで運用するのは難しそうだ。

 そもそも、そこまで経験点の余裕があるかは分からないが。ここからフェンサーを11にするまでに必要な経験点・約9600点を稼がないことにはどうにもならないので、引き続き魔域と主の攻略を行っていこう。 


 最後にお買い物パート。ようやく手の装備枠が空いたので、欲しかった〈正しき信念のリング〉を購入。これで精神抵抗に+2、かなり余裕を持って抵抗判定を行えるようになった。《魔力撃》のデメリットも多少は気にしなくてよくなるだろう。

 あとは、〈ひらめき眼鏡〉とナナリィ召喚用の〈フェアリーグラス〉が枠を取り合っていたので、〈スマルティエの銀鈴〉を買って一枠確保。

 資金的にも、おそらく装飾品はこれ以上いじる余地は……あったわ。〈巧みの指輪〉と〈カースレベリオン〉を交換したいので、もう三万ガメル頑張って貯めよう。「Sカード買わなきゃもう手に入ってただろ」は言わない約束だ。


 やることを終えて、ロープウェイ乗り場へと向かう。ここからエルヤビビ→凍原→雪森→リイネス→オクスシルダ、という、おそらく一方通行のルート取りをすることになるので、この街に戻ってくることはもう無いだろう。

 そろそろ旅の終わりも近い。なんとなくそう感じながら、ロープウェイに揺られるエルシオンであった───といったところで中断。次回、凍原地帯の攻略から。

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