二十九日目・夜~三十三目・夜

 洞窟を進むと、金属製の大扉に出くわした。魔動機文明のもののようだ。

 おそらくこれが件の扉だろう、ということで合言葉を唱える。……開いた。そのまま先を目指す。


 扉の向こうには、ドーム状の空洞が広がっていた。奥に見える地底湖から漂う潮の香りが、ここが外海と繋がっていることを表している。海底洞窟をアジトにするとは、なかなか趣のある海賊どもだったようだ。

 ふらふらと歩き回っていると、床に転がっていた白骨死体───スケルトンガーディアンがおもむろに立ち上がり、こちらに襲いかかってきた。ただでお宝を渡すつもりはないということか。

 いいだろう、かかってくるがいい。……特殊能力による命中補正をきちんと考えながら、適切なタイミングで妖精を召喚するのは忘れないようにせねば。


 虎の子のAの〈マテリアルカード〉を使っての【ヴォーパルウェポン】を乗せて、《魔力撃》と〈ブレードスカート〉で削っていく。

 無傷のままそれを続けていると、何度目かの攻撃で敵のHPが32に。特殊能力によって命中が+2される。回避するのに出目5、〈ブレードスカート〉を発動させるには出目9が必要になった。ここからが本番だ。

 まずは一回目───自動失敗ファンブル。ここへ来て運が悪くなりだした。

 被ダメージは9点と大したことはなかったが、今後も更に敵の命中力は上がっていき、最終的には必中になってしまう。一気に攻め切らなければ、ダメージレースに負けてしまう可能性が十分にある。

 ならばやるしかない。【サモンフェアリー】で水の妖精・ヴァンニクを召喚し、【アイスボルト】でダメージを稼いでもらいつつ、あわよくばデコイになってもらう。まずは4点与えた。

 敵の手番、エルとヴァンニクのどちらを狙うかダイスを振って───ヴァンニクになった。回避は当然失敗、ダメージダイスはまさかの6ゾロ。召喚1ラウンド目にしてHP1という事態に。

 だがデコイとしてはそれでいい。その間に《魔力撃》を叩き込み、最終的にエルもヴァンニクも生存しての勝利となった。必中化された攻撃を一発もらってしまったが、命に別状はなし。でぇじょうぶだ、【ヒールウォーター】を飲めば治る。


 ガーディアンが落とした〈レテ鳥の帽子〉を拾い、治療を終えて、アジトを探索する。……判定、失敗。嘘だろお前。何のためにここまで来たんだよお前。もしかしてこれのためだけに〈叡智の腕輪〉買ってこないといけなかった感じですか。

 ……嘆いていても仕方がない。しょんぼりしながら空洞を後にする。三十日目、昼は5のマスへ移動、夜に6のマスへ移動。途中で遭遇した毒蛇の群れに危うく殺されかけるなどした。なんでHPフルから2まで減ってるんだお前。

 一晩明かして、三十一日目。微妙に減っていたHPを【ヒールウォーター】で治してから、ハルーラの聖堂内部へ。


 崩壊した、と言っても過言ではない有様の聖堂内部で、瓦礫の山と化したハルーラ像の影からナズラックが姿を表した。まあぶっちゃけ、クソザコナメクジもいいところだ。触手をガン無視して頭部を殴打し、瞬殺。〈アビスシャード〉は落としてくれなかった。役に立たねえタコだな。

 気を取り直して、内部の調査。クエスト目標であるハルーラの聖印を回収し、鐘楼へ続く階段を駆け上がって、“奈落の魔域”の目の前にやってきた。念のために〈魔香草〉を一つ使ってから、攻略を開始する。外郭域に選ばれたのは───【タウトゥミの魔域Ⅰ】。


 ◇ ◇ ◇


 見るも無残な姿の聖堂から一変して、花が咲き乱れる庭に放り出された。

 すぐ側の小さな家に近づくと、リカントのショタが姉に激烈なラブコールを送っていた。済まないが、私にもエルシオンさんにもおねショタ趣味は無いぞ。

 冗談はさておき、チェミュエと呼ばれた姉は警備用の魔動機を起動させ、無理やりショタを家から遠ざけようとする。どうやら姉弟の仲はよろしく無いようだ。

 これを壊して欲しい、というショタの要望に応えるべく、〈ラピスラズリのお守り〉からアレクサンドラ様を呼び出して戦闘開始。


 相手はグルバルバが二体。炸裂弾が非常に痛いため、二体ともこれを使用するまでは《魔力撃》の使用を控えて、通常攻撃で削ることに。初手は8ダメージ入れた。

 そして敵の手番、どちらのグルバルバも早速炸裂弾を投下してきた。〈月光の魔符Ⅰ〉を一枚破りつつ、どちらも抵抗したが、それでも計16ダメージを受けた。だが、お互いがお互いの爆発によってダメージを負ってしまうため、あちらにも結構な被害が出ているのは嬉しい誤算。

 炸裂弾を使われた後は、ほぼ消化試合だ。《魔力撃》で一体を叩き落とし、もう一体は〈ブレードスカート〉で切り裂いてやった。ちなみにこの戦闘(4ラウンド)の最中に、アレクサンドラ様は三回のスカウト運動判定を行っていた。楽勝だったからいいけどもうちょっと何かしませんか。


 魔動機を破壊したところで、チェミュエ宅の扉を開けようとしてみる。……結構しっかりした鍵がかかっていたので、《魔力撃》キックで蹴破った。獲得した疲労度は即座にノマリ印のお薬で回復。感動の再会を果たした姉弟は、仲良く手を繋いでどこかへ行ってしまった。

 ……で、あのショタは一体何トゥミだったんだ。遺物を回収していなければ情報も収集していないので、わたしもエルも彼のことはさっぱりである。

 まあアレクサンドラ様さえいれば、あとの守人のことは割とどうでもいいのだが、と思いつつ、魔域の中央域へと進むことにした。


 ◇ ◇ ◇


 再び場面は一変して、今度は雪深い谷底に到着した。クッソ寒い。

 こんな寒い中でもご苦労なことで、人族と魔神の部隊が争っている。どうやらここは戦場のど真ん中らしい。

 どいつをしばけばここから帰れるんだ、と品定めしていると、ノマリと同じ民族衣装を纏った少女が突然頭上に向かって叫びだした。少女の視線の先にいるのは、顔に私がクソ野郎です、と書いてありそうな雰囲気をした緑髪のエルフの男。

 そんな奴の「お前の犠牲は無駄にはしないからな」という、あまりにもお似合いなセリフと共に、突然崖上で大爆発が起きる。

 雪の降り積もった谷でそんなことをすれば、当然雪崩が発生するわけで───幸いエルと少女は助かったが、戦っていた者達はほとんど全員雪に飲み込まれた。

 我々と同じく無事だった魔神・ザルバードの怒りの矛先が、自然とこちらに向けられる。 濡れ衣です、という抗議も虚しく、戦闘開始。


 先制判定───自動失敗。アレクサンドラ様は槍の素振り。この流れ、結構頻繁にやってないですかね、エルシオンさん。

 先手を取ったザルバードは、早速得意技の炎の息吹を放つ。これの何が辛いって、達成値が割と高いのもそうだが、連続した手番でも使えるという点だ。抵抗に二連族で失敗して、期待値より少し上振れたダメージが出れば、それでエルは焼け死ぬ。

 魔符の枚数に余裕はあるが、そう長くは耐えられない。これは【ウォータースクリーン】をするべきか、と作戦を考えながら、一回目は無事に抵抗成功。それでも10点食らう。

 こちらの一手目、作戦通り【ウォータースクリーン】を展開。これで息吹のダメージは-3されてかなり楽になる。アレクサンドラ様は【キュア・ウーンズ】をしてくれて、先程受けたダメージも全快できた。いい立ち上がりだ。

 

 しかしその後、行動決定表で6の目───『自らを含む、もっとも多くの仲間を強化する魔法か特殊能力を使用する』を引いたことで、事態は急変する。私の中にいるもうひとりの私・PC絶対殺すマンGMが、この状況で最も刺さる補助魔法、【ヴァイス・シールド】を選択してきたのだ。

 エルの魔力ではザルバードの抵抗はまず抜けないし、そもそもMPにそこまでの余裕がない。アレクサンドラ様に至っては物理攻撃手段しか持っていない。結果、1ラウンドで与えられる平均ダメージが一気に6点低下。長期戦になることが確定し、私とエルの額に冷や汗が流れる。まずい、出目が悪いと普通に負けるぞ。

 起死回生の一手として、エルがここで【サモンフェアリー】、ウィルオーウィスプを呼び出す。スケルトンガーディアンの時同様、デコイが欲しい、というのもあるが───特殊能力『癒やしの空間』によって、【キュア・ウーンズ】と【プライマリィヒーリング】の回復量を底上げできる、ということに気がついたのだ。

 これによって回復量がダメージ量を追い越し、無事形勢逆転。息吹を顔面で受け止めながら《魔力撃》を連打し、なんとか撃破できた。デモンズラインを始めてから、一番の強敵であったと言える。


 やはり【ヒールスプレー】の習得は急務だな、と再確認したところで、戦いを傍観していた少女に話しかけられる。君も【キュア・ウーンズ】飛ばしてくれて良かったんやぞ、という言葉はスルーされて、「いいから雪に埋もれた人たち助けてくれないですかね」と鞭を打たれた。手厳しい。

 発掘作業を終えると、あのクズ男への復讐心に火が点いた彼女は、お礼としてターバンをこちらに渡した後、いずこかへ去っていった。流血沙汰になる予感がする。

 さて、やることもやったし私も帰ろうかな、と核を破壊。ついでに、守人・カティアのフェローデータを確認。……【キュア・ウーンズ】の枠が二つもある。最強だこれ。このプレイのフェロー二枠目はカティアさんに決まりです。


 ◇ ◇ ◇


 無事に現世に戻ってくると、丁度日が暮れた頃だった。平原でやることは全てやったので、急ぎ足でイーサミエを目指して移動を開始する。

 毒蛇の群れをしばいたり、ノマリ族と遭遇したりしながら平原を北上し、三十三目の夜、無事に港町・イーサミエに到着した。


 魔域や主のことを報告するために、まずは冒険者ギルドに向かう。すると、レテ鳥の帽子を必要としていることが判明。他に使いみちも無いので譲渡して、大量のガメルと★を獲得できた。おまけで剣のかけらの清算をしつつ、成長処理に入る。


 能力は、ようやく器用度が成長。技能成長は、フェンサーを7に、フェアテを4に、アルケミを2にして【ヒールスプレー】を習得。戦闘特技は《マルチアクション》を取って、魔法戦士らしさがようやく出てきた。9で《変幻自在Ⅰ》を取ってさらに手数を増やしていく予定。《頑強》はカティアさんと【ヒールスプレー】があり、将来的には【バーチャルタフネス】も実用ラインまで魔力が上がるはずなので、まあなんとかなるか、と習得しないことに。


 買い物は……かなり色々と買い込んだので、要キャラシ確認。目立つところでは、魔法ダメージ対策の〈セービングマント〉と〈消魔の守護石〉、そして【サモンフェアリー】を始めとした妖精魔法連打のための大量の〈魔晶石〉あたりか。

〈ヘビーマレット+1〉も、専用化するための名誉点が僅かに足りなかったが、それでもダメージが+1されるのでとりあえずで買っておくことに。適当にかけら持ちを倒して、次の街に着いたらここを補強しよう。


 キャラシの更新を終えた所で、ここからタイムリミットまでの四十日余りをどう過ごそうか、と作戦会議を行うために一旦中断。故に次回の内容、未定。たぶん湿地に向かうと思う。



 ─────────────────────────────────────



 主討伐や魔域攻略を行えるようになって、ようやくスタートラインに立てたんだな、と実感。逃げ回っていたあの頃のエルシオンはもういない。

 一方で、魔域での出来事を書き起こすと、ものすごい勢いで文字数が増えていくので、一更新あたりの日数の進みは緩やかになっていきそうだ。完結までに何話書くことになるんだろうか、これ。

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