その“アイ”の先にあるもの

穏やかに賑やかな喫茶店の中、ただぼんやりと外を眺めている女性がいた。

もうどれくらい経つだろうか。

1時間は経つだろうか。

かくいう私も、彼女と同じくらいの時間をこの店に滞在している訳だが、私はパソコンで仕事をしながらコーヒーを飲んでいた。1時間など珍しくもない。

しかし彼女は何をするでもなく、すっかり冷めてしまっているであろうコーヒーを時々飲むだけで、ひたすらぼんやりと外を眺めていた。

私は彼女が気になって仕方なかった。

彼女は何を見つめているのだろうか。

それとも何も見つめていないのだろうか。

しかし、視線の先に何もなく1時間以上も過ごせるものだろうか。

彼女のその視線の先に何があるのか、あるいは何も無くても彼女が何を考えてそうしているのかが気になった。

私は仕事をしながら、何度も彼女の様子を見てしまっていた。

そうして時間が過ぎ、2時間程経っただろうか。

彼女は突然すくりと立ち上がり、店を後にした。

何を言うでもなく、何をするでもなく、彼女は突然店を後にした。

少しして、私も仕事のキリがいいタイミングで店を出た際に、彼女の視線の先であったであろう場所をチラリと見た。

しかしそこは何も無い道で、彼女が何を見つめていたのかはついに分からずじまいになってしまった。

やはり何も見つめてはいなかったのかもしれない。

その後もなかなか彼女のことが頭から離れなかった。

「いつか会うことがあれば尋ねてみよう。」

そんな叶わないであろういつかを口にした。

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