彼女の“アイ”

それは、どうやって満たされるんだろう。

そう思っていた。

あなたに出会うまでは。


私の世界は空っぽだった。

親は仕事に忙しくて、ほとんど家にいない。

みんなは家族が参加してくれる学校行事に、私の親が参加してくれたことは無い。

いつも家にひとりだった。

友だちはいたけど、特別な感情を抱く誰かはいなかった。

当たり障りない人間関係。

私の家庭の事情とか、私の悩みだとか、そんなことを共有する人はいなかった。

だけど、それを辛いと思うことはなかった。

何も困ることは無かったし、問題に感じたことも無かった。

特に刺激もなく、平穏な日々が淡々と過ぎ去っていくことを苦痛だとは思わなかった。

あの日。

そう。あの日、あなたに出会うまでは。

あなたは何もかも違った。

価値観も、考え方も、生まれ育った環境も、生き方も、何もかもが私と違った。

私はそんなあなたに強く惹き付けられた。

あなたの全てを私のものにして、私の全てをあなたのものにしたい。

そんなことを初めて誰かに思った。

初めての感情だった。

激しくて、キラキラしていて、だけど暗い部分が燻っているような表現しがたい感情だった。

あなたが欲しいのに、私はあなたに相応しくないとも思って、私のいない世界で幸せに生きて欲しいと願う日もあった。

私は私の中のあらゆる矛盾と戦っていた。

だけど、それでも、一番に願っていたことはあなたの幸せだった。

私はようやく気付いた。

そうか。これを愛というのね。

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