第10話 秋大会ダイジェスト
モブside
俺は盛部。大蛇南中出身で今は大蛇商業高校の野球部1年生だ。
3年生は引退したけどレギュラーもベンチも2年生ばかりで俺は夏も秋も応援席だ。
秋大会は2回戦で地元の大蛇高校と当たる、地元同士のぶつかり合いが早すぎる。
「さて、秋の大会1回戦は勝てたな。次の相手は順当にいけば夏県ベスト4の大蛇高校か。」
「大蛇の試合次だから見ていこうぜキャプテン!」
「大蛇の1回戦は1年生が投げるみたいッス、2年生ピッチャー3人くらいいましたよねあそこ?」
1年生で先発ピッチャーとか相当すごい奴なんだろう。あれ?でもどこかで見たような…
ズバーン!
「…誰かあのえげつないストレート投げる1年生知ってる奴いる?武田浩二だってよ。」
「あ、同じ中学ッス。ガタイ違いすぎて気づかなかったッスけど…滅茶苦茶化けましたね…」
「知ってる限りの情報出せ」
武田浩二。タメで元南中の丁寧な投球が持ち味のエース。平均以上のピッチャーではあったけど平均以上止まり。3年の夏に部活を引退してから上杉さんと激しいトレーニングをしていたのは知っている…だけどここまで化けるか?身長も肩幅も体重も知っている姿とスケールが2周りくらい違う、成長期が来たのか?
「えーっと武田はですね…平均以上くらいのピッチャーだったんですけど、彼女のほうが有名でしたね。」
「彼女?」
「イチャイチャしながら他校を煽って凡打を打たせるえげつない捕手が彼女でした。」
「「「上杉さんとイチャイチャしてた奴か」」」
ガタイの違いで思い出せなかった地元野球部出身たちがそろって声を出す。女子と軽口の叩きあいしながら野球するとか十分イチャイチャ判定だ。
「なんでここまで化けたのか分かりませんけど、中学時代は並みのストレート、良いコントロール、良いスタミナ、並みのカーブってピッチャーでしたね。」
グォォッ
「あんなクソえぐいシンカーは知りません。」
「あー、うん。中学時代の事が当てにならないのは分かった。」
「そういや大蛇の監督は今年から元プロって聞いたな、監督が凄いのと成長期が重なったのかもしれないな。」
武田が7回無失点の奪三振ショーをした試合後会いに行った。成長の秘密を聞きだしてやる!
ふんふん、監督がコーチとしても滅茶苦茶有能で、彼女が練習に付き合ってくれて、彼女がお弁当を作ってくれて、彼女が朝も起こしてくれて、最近デートで東京まで行って、観覧車からの景色が凄かったと。なるほどな!誰が惚気ろと言った!!!
2回戦で大蛇高校と当たった我が大蛇商業は武田が出てくる前に2年生投手を打ち崩して勝利を収めた。後から出てきた武田のボールは誰も前へ飛ばせなかった。なるほどな。俺が出来るのは3年間ウチと戦う時に武田が出てこないよう祈るだけだ。打てる気がしねーよあんなの。
★ 武田side
自分が出ていない部分で負けが決まってしまった…体力的には全然余裕があったんだ。なんなら全試合完投だってできそうな気がする。
でも監督から「お前がいくら頑丈でも壊れるリスクを無視してまで勝ちを狙いに行くなんてことは絶対にしないぞ。」と言われている。
練習では結構な量を許してくれるけど、練習と試合は消耗の仕方が違うから練習に比べて過保護にしたいんだとか。
でも俺はプロ野球選手になりたいんだ、そのためには勝ってスカウトの目に止まるようにしなきゃ…勝たなきゃ…
負けた日は眠れずにずっとそんなことを考えていた…翌朝、寝不足の俺がベッドで仰向けのまま悩んでいたらすみれが俺の部屋に来た。
「あ、もう起きてたんだ。あんたなんか思いつめてない?そんなに負けたのショックだった?」
「勝たなきゃプロスカウトの目にとまらないだろ…」
俺は今本当に恵まれた環境で大きく成長できた自信がある。でも3年以内にプロスカウトの目にとまらないと…そのためには…
「いやちょっと信じられないんだけどさ…なんか年内に監督がプロのスカウトを呼ぶらしいわよ?頑張って良い所見せなさいよ。あたしも傍にいてやるから気負わずにね。」
そう言い俺の頭を撫でてくる。
…え、マジで?マジでスカウトの方から高校まで来るの?なんだか思いつめていたのが馬鹿らしくなってきた…監督が凄すぎる、監督の為にも甲子園行きたいな…今できることは…よし、とりあえず休日だし二度寝しよ!
数分前より狭くなったベッドでとても気分よく二度寝して英気を養った。
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