第11話 辱めの文化祭



 大蛇高校文化祭



 俺とすみれはクラスの出し物ではなく、野球部の出し物に参加した。

 野球部は無難に手作りストラックアウトを複数用意して持ち回りで実況などを担当。



「来場の皆さん!1年生エースの武田浩二投手によるストラックアウト模範演技を始めます!実況は私、恋人の上杉すみれが務めさせていただきます♪」



 恋人が思いっきり牽制している。牽制の必要があるくらいカッコいい所見せたいけど難しいんだよなぁストラックアウト…なんせ甲子園を沸かせたスーパースター達がプロ入ってから3枚以下しか抜けなかったなんて複数あったらしいし。



「さあ!振りかぶって第1球…9番!見事右下の9番を打ちぬきました!これは『とりあえず真ん中の5番狙ったけど端の方行っちゃったぜ、当たってよかった』って所ですね。」

「次は…2枚抜き!!2枚抜きが出ました!『9番抜いたから隣の8番を狙おうとしたけど行き過ぎて運よく7番8番を抜いたラッキー』って顔ですね、頬が緩んでいます、分かりやすい男です。やーああいう所可愛らしいですよねー!」

「はい、2球連続枠の外。どうして急に崩れたんでしょうね?不思議ですねー。じゃあ観客の皆さん私に続いて言ってみましょう『武田君かわいいー!』…はい、ありがとうございます!プロ野球選手目指すならこれくらいで動揺しちゃいけませんよね、さあもう一度私に続いて言ってみましょう『武田君かわいいー!』…はい、ありがとうございます!さあ、コントロールの良さを見せてもらいましょうか!」





 野球部の出し物はストラックアウトです。なぜか出し物が夫婦漫才って広まった。解せぬ。

 辱めが終わり、すみれと2人で文化祭をうろつく。



「いやーあんたを煽る実況って楽しいわねー。私天職かもしれない。」

「そんなに実況が楽しいならアナウンサーにでもなったらどうだ。」



 少しだけふてくされ気味に俺は言う、マジで恥ずかしかった。

 でもすみれがアナウンサーか…そういえば猫被る演技もまあまあ上手いし、ノリでペラペラ喋るし意外と向いているんじゃないか?

 そんな考えすらも顔に出ていたのかすみれにぐいっと肩を引きずり下げられ、耳元でもじもじと呟かれる。



「…天職はあんたを煽る方よばーか。」



 かわいい、終身雇用したい。






 たこやきを食べさせあい、段ボール迷宮を突破し、サーターアンダギーを食べ、お化け屋敷をスルーして自分たちのクラスへ来た。

 クラスではメイド喫茶をやっていてメイド服のギャル子と…黒スーツ黒サングラスの巨漢マッチョ、メイド喫茶護衛の観音寺がいた。

 すげぇ怖い。観音寺がヤバいヤツにしか見えない。あいつ俺のシンカー7割打つので実際ヤバい奴だと思う。カーブはくるくる観音寺なのに。



「おう武田に上杉、お前らクラスの方に出ない代わりに1つ頼みがあるんだがいいか?つーかクラスの女子からの要望なんだが。」



 どんな頼みか知らないけどヤ〇ザにしか見えない大男からの頼みは断れない。最近は身長差も埋まってきたけどまだ差がある。



「OK?ありがと!武田とすみれっちで『カップルインタビュー』出てきてねー☆」

「「え」」



 また辱めを受ける気がする…





 文化祭で放送部のやっている企画というのが『カップルにインタビューして恋バナしよう』という企画らしく。

 文化祭中にインタビューが生で流れ、後日編集されたものが学校内からのみアクセスできるサイトにUPされるらしい。



「野球カップル武田さんと上杉さん、今日はよろしくお願いします!」

「「よろしくお願いします。」」

「ずばりお聞きします…告白はどちらから?告白の言葉は!?」



 ………あ、してない。俺達告白してない。やべぇどうしよう。



「実は私たちって告白していないんですよ。」

「ええっ!そうなんですか!?じゃあどうやってお付き合いを!?」

「野球部の最初のあいさつで私が『彼女です』って言ったら否定しなかったのと都合が良かったのでそのままなし崩しに。今は恋人で幸せですけどね。」



 すみれが全部言ってしまった。放送部の人ポカーンってしているぞ。すみれが不安になるくらい良い笑顔をしている、嫌な予感がする。



「えっ、浩二なに?ふんふんなるほど~」



 妙な小芝居を始めた。耳に手を当て、体を俺に傾ける。もちろん俺は何もしゃべっていないので何かを捏造されている。



「だから今日は全校放送で私に告白してくれるって?いやー嬉しいなー!」

「お前何してくれてんの!?」

「「「おおー!!」」」



 インタビュアーもカメラ役も収音役もみんな反応しちゃってるじゃん。これ学校内でも相当反応されてそうなんだけど

 すみれにクイクイと袖を引かれ、耳打ちされる。



「浩二、こういうのもちゃんとこなせればプロ野球選手になった後、バラエティに呼んでもらいやすくなるからやってみせなさい」との事。

 すみれさんや、それよほどの大選手にならないと…あ、はい。なれって事ですね。頑張ります。なんだろ、将来を見据えた話だと絶対に勝てない気がする。



「あーすみれ、真面目な話…告白をしていなかった事に関してはすまなかった。勢いで恋人の肩書ができてしまってタイミングが無かった。結構無理やりな流れだったと思うけど…俺に告白をさせてくれる口実を作ってくれてありがとう。」



「小学校の頃から相棒として傍にいてくれて、今は友人以上の…魅力的な女の子として俺の傍にいてくれて本当に嬉しい。大好きだ、これからもずっと一緒に居て欲しい。」



 言っているうちに感極まって告白を終えると同時に俺はすみれを抱きしめた。



「ずっと、ずーっと一緒に居てね。」



 カメラから見えない俺の頭の影で返しの言葉と唇が届いた。














「この映像フルバージョンと編集版の動画頂戴ね。結婚式とこいつが有名プロ野球選手になれたら全国放送で流すから。」

「「「結婚式!!」」」


 結婚式発言もぜーんぶ動画内に収まってしまった。将来全国放送はさすがに冗談だろう。忘れよう。

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