第8話 3日ちょうだい…いや、覚悟決めたわ。海行くわよ!!



 夏祭りの翌日朝、すみれからメッセージが飛んできた。



『あたしとあんたの仲だから正直に伝えるわね。あんたの胸元でもぐもぐしてたらあんた私の事意識していたでしょ?それ気づいたのチョコバナナ1本目の最後の方だったのよ。だから追加でもう1本食べてからかってやろうとしたの。でも目的を考えたら串焼きにすればよかったのよね…チョコバナナは卑猥なものをイメージさせたかなーって考えちゃったらちょっとあんたの顔見れそうにないわ。ごめん3日ちょうだい。立て直すから。あんたの顔見られるようになるの少し時間がいるわ。3日はクールタイムだと思って宿題か赤点寸前の教科の勉強でもしてて。』



 一晩たってもどんな顔をして会えばいいのかと思っていたが俺よりすみれの方がダメージが大きかったようだ。

 夏は海だったかプールだったかも連れて行けと言われていたがこれはもうチャラだろうなぁ。この状況で泳ぎに行くとか…友達と遊びにじゃなくて…別の意味になるだろうし。一応聞いておくか。



『海かプールに連れてけみたいな話は無しにするか?』

『………行く。』



 心臓に悪いのに心臓に心地いい刺激が入る。

 嘘だろおい、ガチで進展させる気か?…嬉しいか嫌かで言えば嫌じゃない。嫌じゃないけど心の準備がいる、ほんと待て、時間をくれ。



『泳ぎに行くのは夏休みの最後あたりでいいか?20日後くらい。』



 …既読はついたけど返事が来ないな。スケジュール確認しているのか?夏休みも野球部の練習はあるし、俺とすみれの自主練もあるし、観音寺も含めた友情タッグトレーニングもあるしな。俺の練習に観音寺が必死に食らいついてくる練習。お、すみれから返事が返ってきた。




『明日行こ?』









 ということで1日経過して海へ行く日です。

 恋人って肩書だけの親友を可愛いと意識したらすぐ海とか心の中がぐるぐるしている。

 待ち合わせ時刻(すみれが俺の部屋に突撃する時刻)なのに来ないので俺から迎えに行こう…として門の外にすみれが立っていた。


 顔を合わせるのも恥ずかしくて眼を逸らすがすみれの服装に違和感がある。

 服に詳しくない俺でも服装の種類が分かる。麦わら帽子と白いワンピース。人生で初めてかもしれない、すみれが制服以外でスカートを履いているのを見たのは。



「すみれ…スカート、どうしたんだ?」

「き、昨日買ってきたのよ!」

「そ、そうか…」



 待って、海へ行くために。俺と2人で遊びに行くためだけに服買ってきたの!?えーっと、あーっと、トモダチ…?コイビト…?頭は混乱するが何かしらの決意が伝わってくる。



「あんた頭真っ白みたいだからストレートに聞くけど、に、似合っているかしら?女の子っぽいでしょ!」

「…あ、ああ。に、似合っていると、思う。」

「こういう服すすす好き?」

「あーーー……よし!電車乗ろうぜ!!」

「あ、こら、勇気出したのにこのヘタレ!!」



 なんですみれと顔を真っ赤にしながらこんな会話をしているんだろう。顔は赤くて頭は真っ白、なんだよこれこいつもう服装より行動っていうか反応っていうか…中身が可愛いじゃんかよ…



「口に出せないくらい頭の中では高評価しているから電車乗ろうぜ!」

「口に出しなさいよヘタレ!まぁ…高評価ならいいわ。」




 電車はまだ座れるところがあったので並んで座り、すみれに腕をとられ横から幸せな重みをかけられた。



「海に行くって返事をしたときに色々と覚悟を決めたわ。今日のリードは攻めを意識するから覚悟しなさい。」

「…分かった、覚悟する。…俺はお前のリードに首は振らねぇからさ。」

「ふふっ、そうね、バッテリーだものね。」



 これから大きく関係性が変わりそうな気がしたが。『ついてこい』『全力で応えてやる』そんな相棒としての関係は変わらない気がした。







「おー!海!」

「海水浴とか久々だなぁ。」



 電車で1時間。隣県のビーチに来た。さてここからが問題だ。すみれはこういう時にオシャレな水着なんて着なかった、いつも学校指定の水着、俗にいうスク水だった…が、今日は流れ的に違う水着を持ってきているのではないか?



「…着替えてきたわよ」

「…へそ」

「うっさい褒めろ」



 へそが丸見えだった。服なんて詳しくないけど上と下の水着が完全に分かれていてひらひらがいっぱいついている赤い水着、上手く言えないけど褒めろと言われたので素直な感想を口にする。へそは腕で隠された。



「その、すみれ…情熱的なドレスみたいですごく、いいと思う」

「ーー!ーー!?」



 すみれは驚きながらも顔はだんだん蕩けていった。こんなすみれの顔は初めて見るかもしれない。喜んでもらえたなら俺も頑張って言って良かった。腕をばっと広げて俺に飛び込もうとしてそのまま固まる。たぶん電車みたいにくっつこうとしたけどお互い半裸なのでハードルが高かったんだと思う。でも手を繋ぐくらいなら大丈夫だろうとすみれの手を手に取る。…なぜかいつもより小さくて華奢に見えてくる。そんなことを考えたら俺の顔も更に熱くなってきた。



「ほら、行くぞ。」

「…はい、じゃなかった、うん!」



 しおらしいところとか見せるな、ギャップで死ぬ、自分の破壊力に気づけ。うっかり出た一言だけでどうしてこんなに心を揺さぶられなきゃいけないのか。俺はもうダメかもしれん。


 広い場所で準備体操をする。体に刻み込まれているので違うことに心を奪われぼんやりしていようが問題なく出来た。

 さて、準備体操もしたし海へ来たのでまずは砂浜ダッシュから



「へー水着の彼女を残して走り去るんだ?誰かさんが情熱的でいいって言ってくれた彼女を放置するんだ?」

「すまん、お前と海に来たら無意識にまずダッシュって印象が強くて…」

「親友や相棒としての思い出を大切にしてくれるのは嬉しいんだけどねぇ……じゃあ肩車して砂浜ランニングする?」

「おう、じゃあそれで。」



 俺はこの時、すみれがとんでもなく攻めたリードをしていることに気づかなかった。ビーンボール並みにえぐい提案だった。

 水着で肩車するとどうなるか知ってるか?顔が生の太ももで挟まれて、頭の上にノーブラの胸が乗るんだぜ?あ、むり、社会的に死ぬ



「あの、すみれさん、ギブしてよろしいでしょうか。」

「んー?何?どうしたのかなー?」

「筋肉じゃない所に血液が集中しそう」

「……ばーか。」



 不思議とその声はどこか嬉しそうだった。肩車でしがみついてくる手も少しだけ積極的な抱きしめ方になった気がする。

 肩車で不安定なまま海パンが隠れるよう海へ行き、波に耐える体幹トレーニングなどをしつつ、まあ、その。浮き輪でのんびり恋人みたいな時間を過ごしたりしました。




「ねぇあの子たちみたいのやってよ」

「やってるの高校生くらいだろ?ヨユーよヨユー!」

「「「ぎゃー無理!!」」」


「うわおもったより波強っ!」

「わー!あんた全然ダメじゃん!」

「つーか何人も真似ようとして肩車あちこちでコケてんな…何者だよあの高校生カップル…」

「めちゃくちゃガタイいいよねあの男の子…」

「「「ほんと何者だよ」」」

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