第3話 あーんと美味しいご飯
「フハハハハ武田よ!昨日ぶりだな!」
「おう、観音寺おはよう。」
翌日の教室、今日から通常授業が始まる。昨日の部活?入学式だけど普通にやってたぞ。
俺に声をかけてきたのは大蛇西中出身の観音寺。クラスで一番身長の高いゴリマッチョだ。
暑苦しい顔と無駄に強いメンタルが持ち味。
「しかし武田よ。やはり上杉と付き合っていたのだな。大蛇の東西南北全ての中学野球部でアイドル扱いされていたあの上杉すみれが恋人だと…!良かったなぁ!お似合いだぞフハハハ!」
「おい、あまり大声で…え、アイドル扱いって何だ?南中はそんな気配無かったぞ?」
「思い出してみろ。お前の対戦相手はキャッチャーに笑顔で挨拶をしてその後お前を睨みつけていなかったか?」
「すげぇ心当たりあるけど普通じゃないのかそれ?男女で扱いが違っただけだろ?」
はーこいつ分かってないなーとでも言いたいかのように失笑する観音寺。
そこに参戦してくる聞きなれた親友の声。
「あれね。『俺たちのアイドルがこんな男にご執心だなんて!』って思わせていたのよ。それで短気にさせて打ち損じを狙っていたわ。懐かしい話ねー。」
「お前…妙に他校と絡む時だけ猫かぶりしていると思ったらそんなことしていたのかよ…」
「勘違いするのは自由よ。正確には『付き合っていると勘違いされた』が最初で、面白そうだからそういうムーブしていたらそんな感じになっていたって流れだけど。」
「武田は『軽口で気安く接される唯一の男』だったからな。昨日の恋人宣告は地元の新入生達はやっぱりなーという感じであったぞ。」
「ま、こいつとも付き合い長いからねー♪」
そう言いながら俺と肩を組んでくるすみれ。お前は全部わかっていたのか。
俺は周囲からそんな風に思われていたと今初めて知ったぞ。
俺ももう少し周囲を見渡す癖をつけたほうがいいのかもしれない。そう思いふと周囲を見渡してみると女子の姦しい目線と男子の憎しみの目線がこちらを向いていた。そうだな…観音寺の声デカかったからな…
事件はお昼に起こった。
俺は母さんの作ってくれた大きな弁当を持ってきた、すみれは親から学食で食べてくれとお金を渡されていたのだが…
「浩二…どうしよう……ここの学食、やる気の出ない味よこれ…」
絶望に染まった顔で定食のから揚げをつまみ、俺に差し出してくる。
口で受け取ると…まあ、うん……俺は無言で弁当のから揚げをすみれの口に近づける。匂いからして違うのか死んだ目に光が戻り食らいつくすみれ。
「あああ美味しい…武田ママの料理美味しい…学食ぅ……」
「その、なんだ、どんまい。」
「決めたわ!あたし武田ママから料理習って自分のお弁当作る!!美味しいお昼ごはん食べたい!!」
この学食で3年は耐えられないと強い意志を感じる。なんかのミスなんじゃないかと思うくらいの味だしな…
本当にただの調理ミスだったと分かるのはずっと後の話。
「くそう武田めぇ…彼女とあーんし合うとか…」
「全学年が集まる学食でしやがって…人目に付かない所でやれよ…」
「明日は俺も彼女とやろうかな。」
「段々と練習量を上げるつもりだったが武田は無理のない範囲でめっちゃ練習増やしてやる…」
「「「おい、今裏切者がいたぞ」」」
モテるはずの野球部で彼女がいない奴が多いほうが悪いんだと謎の悲鳴が学食に響き渡った。
放課後、俺が野球部に行っている間にすみれは俺の家に居た。
★すみれside
あたしはお昼のうちに武田ママにお弁当を自分で作りたいとメッセージを飛ばしておいた。あたしが家につくまでに買い物を終えて待っていると快い返事をいただけた。嬉しい、頑張ろう。
放課後、家に帰り手洗いうがいに着替えをして隣の武田家に行く。徒歩10秒のお料理教室とか神立地。
「武田ママ!料理教えてください!」
「ああ、弁当作りたいんだって?しっかり叩き込んであげるからね。」
ウチは共働きだけど武田ママは専業主婦。どっちの家が正しいなんてことは無いけれど親のような人から料理を教えてもらえることは純粋に嬉しい。
両親が忙しくてあたしはよく武田家に預けられていた。浩二も親友であり家族みたいなものだ。
「そうだねぇ、今からやる料理は…冷蔵庫に入れておいて明日のお弁当に詰める前提で作りましょうか。何か食べたいものはある?」
「あたし武田ママのから揚げを覚えたい!」
「から揚げは材料が常にあるからできるわよ。じゃあ作っていきましょうか。」
時間を割いて教えてもらえるんだ、しっかり覚えて武田ママの味を再現できるようになろう。全ては私のお昼のために…!!
「練習には量がいるから…そうだ。明日から浩二の分もすみれちゃんに作ってもらおうかしら。練習量が3倍に出来るわよ。」
明日、お弁当が急に不味くなったとか言われたらどうしよう……
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