「雪」と「椿」と「ヘビ」

しんしんと雪が降った夜が明け、眩いばかりの光を受けた雪がキラキラと輝く中、庭の椿が一層綺麗に見えた。

「はぁ…」

庭の椿を見ながら白い息を吐いた。

こんな雪深くキラキラと輝く中を椿を見ると、一緒に同じような景色を見た彼女のことを思い出す。

彼女は、とても気さくな人だった。

人見知りで引っ込み思案な私に話しかけると、他愛のない話で盛り上がり、みるみるうちにまるで幼い頃から知ってる仲のように仲良くなった。

出会って数ヶ月経ったある出かけた日、雪の中で咲く椿を見て彼女は言った。

「きれいだね。まるで君みたい。」

そんなことを恥ずかしげもなく笑顔で言う彼女に、その笑顔こそ美しいと思ったことを覚えている。

でもそれも、過ぎ去った過去の話だ。

思い返せば、そんな言葉と笑顔すら彼女の罠だったのだから。

彼女の本当の狙いは、私の兄に近づくことだった。

それだけならまだ良かったかもしれない。

彼女は、ヘビのような狡猾さで兄を追い詰め、ついには殺したのだ。

警察は突き止められなかったけれど、兄の死は決して自殺ではなく彼女が追い詰めた結果だと私にはわかる。

そして、すっかり彼女に心を許してしまっていた私のせいである事もわかっている。

目的を果たした彼女は以来、私の前に姿を現していない。

それこそが兄の死が彼女によるものだという最大の証拠だった。

彼女がなぜ私に近づき、兄を殺したのか。

その理由をついぞ知ることは出来なかった。

「綺麗…」

雪の中で咲く椿を見ながらつぶやく。

その片隅に、もう会うことの無いあの笑顔を思い出しながら。

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