「苦手」と「旅行」と「大切」

「ねえ、次はどこに旅行に行こっか?」

そう言うと、彼女は嬉しそうに旅行雑誌を広げる。

「うーん…どこがいいだろうねぇ…」

曖昧に返事を返す俺を気に止める様子もなく、彼女は嬉しそうに旅行雑誌をめくり、「ここ良さそう!」と感想を言う。

彼女は大の旅行好きで、月に一度は必ずどこかへ旅行に出掛ける。

日帰りだったり泊まりだったりそれは時々で違うが、その毎月の旅行をとても楽しみにしている。

それに付き合わされている俺はというと、実は旅行が苦手だ。

土地勘の分からない場所で歩くには不安だし、方向音痴の俺は大概道に迷う。

そんな回り道も楽しいのだと彼女は言うが、正直、目的地にすんなりたどり着けないことには苛立ちを感じてしまうし、回り道を楽しもうという気持ちにはなれない。

「やっぱ冬と言えばウィンタースポーツかなぁ〜」

ウィンタースポーツ特集のページを見ながらそう彼女はつぶやく。

「ウィンタースポーツねぇ…」

ウィンタースポーツなんてしたことないし、楽しいのだろうかと思ってしまう。

新しいことに挑戦することに億劫さを感じずにはいられない。

「ねえ、どう!?」

目をキラキラと輝かせ、俺に意見を求める彼女だが、様子から察するに次の旅行地はウィンタースポーツができる東北地方に決まりなのだろう。俺の意見なんて聞くつもりもない。聞いたところで行きたくないという返答があるのがわかっているからだとは思うが。

「ウィンタースポーツなんてした事あるの?」

「中学生の時にスキーしたことがあるくらいかな?大丈夫!道具も貸してもらえるみたいだし、やってみればできるって!」

その自信はどこから来るのだろうか。

「そんなもんかな〜」

どことなく興味なさげな反応になっても、彼女は全く気にする様子は無い。

「宿はどこがいいかな〜やっぱりホテルじゃなくて旅館かなぁ〜」

意気揚々と早速プランを考えている。

億劫な旅行の計画も、それすら楽しいという彼女に全任せだ。

旅行が苦手な俺は、ただ彼女に付き添って着いていくだけ。

苦手なら行かなければいいのにと友人には言われた。

だけど、楽しそうにしている大切な彼女を見るのが好きなのだ。

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