「手を繋ぐ」と「スマートフォン」と「家」

学校が終わり、一緒に家路に着く。

他愛の話をしながら、一緒に歩いて…だけど、僕の頭の中は彼女と手を繋ぎたいという気持ちでいっぱいだった。

そう。実はまだ彼女と手を繋いだことがないのだ。

手を繋いでいいですか?なんて恥ずかしくて聞けなくて、さりげなく手を繋ぎたいのだけど、その勇気が出ずにタイミングを逃してしまっている。

(こんな暑い中手を繋ぐだなんて嫌かな…)

なんてモヤモヤ考えてしまう始末。

だけど、僕はこんな暑い中でも彼女と手を繋ぎたいのだ。

彼女が友達の話を嬉しそうにする間も、僕は必死に自分自身を励まし続ける。

(今だ!そう、今!勇気をだして彼女の手を握るんだ!)

でもなかなか勇気は出ない。

時々コツンと当たる手にさえドキドキしてしまう。

僕は気持ちを切り替えたくて、彼女の話のキリがいいところで提案した。

「ジュースでも飲んでちょっと休憩しない?」

「いいね!暑いもんね〜。」

彼女の賛同を得て、通りがかった自動販売機で缶ジュースを買い、近くのベンチに二人で腰掛ける。

飲み切って手が空くように、ペットボトルではなく缶ジュースにするという抜かりなさだ。

ジュースを飲んでいる間も彼女は楽しそうにおしゃべりを続けてくれる。

(ジュースを飲み終わったら、さりげなく手を差し出して、手を繋ごう。)

そう心に決めた。

ジュースを飲み終わり、立ち上がる。

「そろそろ行こっか。」

(さりげなく!さりげなく!!)

そう心の中で叫びながら手を差し出す。

「あ、ありがとう。」

そう言って差し出されたのは、彼女の手ではなく空き缶だった。

(そういうことじゃない!!!いや、全然捨てるけども!!)

心なしか虚しく感じながら彼女から渡された空き缶をゴミ箱に捨てると、また二人で歩き出した。

(こうなっては仕方ない。歩きながらさり気なく手を繋ぐしかない。)

と思っては見たものの、相変わらずそう簡単に勇気は出ない。

(今だ!今だって!!)

ようやく勇気をだして彼女の手を握ろうとしたその時、彼女のスマートフォンが鳴った。

「あ、ちょっとごめんね。」

彼女は立ち止まりスマートフォンを手に取ると、電話に出る。

「もしもし?…うん、そうだよ。…うん。…うん、わかった。…はぁい。じゃあねー。」

(くそー!なんてタイミングなんだ!やっと勇気を出せそうだったのに!!)

「お父さんからだった。今日焼肉食べに行くから寄り道せずに帰ってきなさいって!焼肉だって〜!やったー!」

電話が終わって早々、彼女が嬉しそうに報告してくれる。

「焼肉?やったじゃん!」

一緒に嬉しそうに話す反面、寄り道せずにということはチャンスが少ないということを思い知る。

また二人で歩き出しながらも僕は手を繋ごうと必死に自分を励ます。

そうこうしているうちに、いつの間にか自分お家の方向へと向かう分かれ道を通り過ぎてしまった。

彼女も離れがたく感じているのか分かれ道を通り過ぎたことに何も言わない。

もしかしたら、家まで送ることもあるから今日はそういう日だと思っているのかもしれない。

でも僕の頭の中は、家まで送ろうとかそんなことじゃなく、手を繋ぎたいという思いでいっぱいだった。

(さあ、出すんだ!勇気!今だ!)

勇気を振り絞って、彼女の手を取る。

びっくりしたのか、彼女の会話も不自然に止まった。

それから無言で少し歩いて、彼女が口を開く。

「お家…着いちゃった。」

そして、立ち止まった。

気づけば彼女の家の前だった。

そんなに長い間、僕は勇気を出せずに思い悩んでいたのだろうか。

「残念。もっと…手を繋いでたかったな…」

恥ずかしそうに彼女が言う。

(僕も)

とは恥ずかしくて言えず、心の中で呟いた。

彼女は照れくさそうに笑うと、にこやかに言う。

「次は学校から手を繋いで帰ろうね!じゃあね!」

そして、僕の顔を見ずに頬を赤く染めたまま家の玄関の向こうへと消えていった。

僕は思わずその場にしゃがみこみ、ため息を長くついた。

「…次は、もっと早く手を繋ごう。」

でも彼女のことだから、次は彼女の方から手を差し出すのだろう。

情けないようで、でもそれがすごく楽しみでもあった。

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