「声」と「額縁」と「部屋」Part2
その男は質素な部屋で写真を見つめ、唸っていた。
「うーーーーーん...」
両手には柄の違う額縁。
男の周りにも、様々な額縁が置いてあった。
この写真は、今度展覧会に出すものだ。
写真には、田園風景の中で一人の女が佇んでいるものだった。
右手の額縁を写真に当てはめてみたり、左の額縁を写真に当てはめてきたり、はたまた別の額縁を手に取ってみたり...見比べてみては悩んでいる。
「うーん...黒がいいか、白がいいか...いや、木目調の方が溶け込むか?だとすれば明るめとダークな色調どっちがいいのか...」
うんうん唸りながら男は考えていた。
男にとっては、額縁も作品の一部だった。
額縁が合わないものならば、それだけで写真も見劣りしてしまう。
「うーん...」
様々な額縁を当てはめながら、唸り声を上げ、悩み続ける。
そこに、女の声が男の名を呼ぶ声がかかった。
そして部屋に顔をのぞかせる。
「なあに?まだ悩んでるの?」
呆れたように言うその女は写真に写っている女だった。
「だって、下手な額縁を選べば、この風景も、写真に写った君の魅力も半減してしまうんだよ。」
男は眉を下げ、少し悲しげな表情をして言った。
「そうは言ってももう明日に迫っているのよ?搬入の時間もあるし、そろそろ決めないと。」
「でも...」
急かすように言われても悩ましげにつぶやき、またこうでもないああでもないと額縁を写真に当てはめてみる。
「ねえ、これは?」
そう女に声を掛けられ男が振り向くと、女は部屋の隅にある額縁を指していた。
長いこと置かれていたのか埃を被っていて、柄も遠目にはわかりにくい。
「この色いいんじゃないの?」
女はそう言いながら額縁についた埃を払ってみせ、埃を吸ってしまい咳き込む。
「おやおや。大丈夫かい?」
「ゴホッゴホッ...うん、大丈夫。ほら、この額縁なら田園風景と合いそう。」
そう言って女は男の前で写真に額縁を当てはめて見せた。
その額縁は木製で、ライト目な色彩で木目柄だった。
彼が合わせていた他のシンプルな額縁やシックな額縁と違い、写真の風景に溶け込みつつも風景をより鮮やかに見せているように感じた。
「これ!これだよ!」
男もようやく納得いった様子で嬉しそうに声を上げた。
「じゃあ、これで決まりね。ようやく決まって良かったわ。」
女も安堵の息を漏らした。
「ああ。ありがとう。君のおかげだ。」
男は嬉しそうに女に微笑んで言った。
「いいえ、どういたしまして。作品もこれで最後よね?さあ、額縁に入れて会場に搬入しましょう。」
そうして、写真を額縁に収め、搬入に取り掛かった。
男は、明日の展覧会を晴れ晴れとした気持ちで迎えられそうだと感じながら額縁に入った作品を見つめていた。
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