「苗」と「醜い」と「箱」

その田んぼは、醜いと言われていた。

田んぼが醜いのではない。

なにも知らない人が見たら、その田んぼも他の田んぼと変わらず目に映っただろう。

それでも人々はその田んぼは醜いと言った。

苗の植え方に原因があるのでもない。

植えている人に問題があるのだと人々は言う。

その人は、同じく田畑を営む人達に嫌われていた。

その理由は、醜い容姿にあった。

その醜い容姿ゆえに蔑まれ、蔑まれているがゆえに人々と上手く関われずにいた。

その人に届く荷物の箱も乱雑に扱われた。

時には届け物の荷物のダンボールの箱が泥だらけになっていることもあった。

その人は、その状況にただただ耐えていた。

打開することは出来ないと、そう思い込んでただただ耐えていた。

そんなある日。

村に新しく移住してきた人が声を上げた。

「あの人の田んぼは醜いだなんてどうしてそんな酷いことを言うんだ!田んぼにも、この人にも、何にも罪はないのに!」

その言葉を聞いて、その人は目から鱗が落ちたようだった。

私に何の罪もないだって?こんなに蔑まれているのに。私はこんなにも醜いのに。

その人はそう思った。

だけど、移住してきた人は断固として言った。

「あなたは何も悪くない!悪いのは、容姿が人と違うというだけであなたを蔑む村の人々だ!」

その正論に、人々は反論が出来なかった。

人々もその事実には気づいていたのだ。

それでも、自分たちと違うその人を蔑む以外にどうすればいいのかわからなかった。

「今こそ考えを改めましょう!今からでも手を取り合えるはずです!」

移住してきた人の言葉には不思議な力があった。

それは紛れもない正論で、本当なら受け入れ難いものであるはずなのに、人々はその言葉を受け入れようとしていた。

ただ一人、その人を除いては。

これまでのことを思えば、たった一人の人の呼び掛けで何事もなかったかのように手を取り合おうとしてくることがその人には理解できなかった。

その様子に、移住してきた人が声を掛ける。

「許すのは難しいと思います。だけど、許さずにいて苦しいのはあなた自身です。」

その通りだ。

そう思っていても素直には受け入れ難い。

村の人々が口々に「今まですまなかった」と言う。

打開できないと思っていた状況が、今打開しようとしていた。

それなのに、その人自身が一歩踏み出せずにいた。

その人は自分に言い聞かせた。

ここで許すことが出来なければ、私は本当に醜い人になってしまう。やっと状況を打開できるのだから、塞ぎこまずに一歩踏み出そう。

その人は、一歩踏み出し、手を取り合った。

それからの村は、誰もその人の田んぼを醜いを言うものはいなくなった。

届け物の荷物の箱が荒らされることも無い。

住民は手と手を取り合い、協力して田畑を営んでいった。

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