「ブス」と「背骨」と「梅雨」

「雨だなぁ…。」

体育館に向かって渡り廊下を歩きながら外を眺めてぼんやりと呟いた。

「もう梅雨入りしたらしいよ。」

独り言のつもりだったが、隣を歩いていた沙耶香が言った。

「まじか。嫌だなぁ…。」

「ねー、これから雨ばっかりかと思うと嫌だね。」

「雨の良いところは体育が中になることだけだよ。今日みたいにね。」

「言えてるかも。」

散々という風に言うと、沙耶香は笑って答えた。

今日の体育も晴れだったら外の予定だったのだから、その点に関しては雨に感謝だ。

外でマラソンの予定だったが、おそらく体育館内でバスケットボールかバレーボールになるだろう。

その方が授業も楽しい。

体育館に入ると、係の人がバスケットボールをする準備をしていた。

心の中でガッツポーズをする。

バレーボールよりもバスケットボールの方が何となく好きだ。

私は何となくウキウキしながら整列した。


授業を終えて体育館を出ると、雨が上がっていた。

「あ、雨あがってるよ。」

沙耶香が嬉しそうに声を上げた。

「ほんとだ。これで帰りは雨に濡れずにすむなぁ。」

「帰り、雨降ってるとめんどくさいもんね~。」

自転車通学に雨は辛い。

なにせカッパを着ていても結局はどこかしら濡れてしまうからだ。

今日だけだとしても雨が止んでくれるのは嬉しい。

「お。水たまり。」

渡り廊下の外側に水たまりができていた。

沙耶香はそこに駆け寄り、水たまりに顔をのぞかせる。

体操服越しに背骨がボコボコと浮き上がっていた。

「あはは、ブス~。」

水たまりに映った自分を見て笑っている。

「水たまりなんだからブスに映るに決まってるでしょ。」

そう言いながら一緒になって水たまりをのぞき込んだ。

水面がゆらゆらと揺れている。

水たまりに映っている景色を見ると綺麗で、こういうのも悪くないと思ってしまう。

「ほら、そろそろ行こう。着替える時間なくなっちゃう。」

水たまりの中の景色に見とれる私に、沙耶香は声を掛けて歩き始めた。

すぐに後を追って歩き始める。

教室に戻りながら雨上がりの匂いを感じて、やっぱり梅雨も悪くないかもしれないと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る