「虹」と「偽り」と「夏」
その日は、雨が降っていた。
「あれ、君の仕業だよね。」
「違うよ。」
二人きりの空き教室で、問い詰められた彼女はそう答える。
だけど、僕には彼女が偽っているとわかる。
彼女は嘘が下手だからだ。
その証拠に、今も僕と目を合わせようとしない。
「そう?じゃあちゃんとこっちを見て言ってみてよ。」
「違う。あれは私じゃないよ。」
そう彼女はこちらを見て言うけれど、明らかに目が泳いでいる。
「そうかな?あの包み、見覚えあるんだけど。」
「気のせいじゃない?」
ついと視線を逸らす。あくまで白を切るつもりらしい。
「僕があれを好きなのを知ってるのも君くらいじゃない?」
「そんなことないと思うけど。」
「最近、そろそろあれの季節だって話をしたからじゃない?」
「そんなの偶然よ。」
彼女はまた目を合わせようともせずに答える。
「そういうけど、去年も作ってくれたよね。」
「そうだったっけ。」
とぼけたふりをして彼女は答えた。
「去年のも美味しくてお陰で元気に過ごせたから、今年のレモンのはちみつ漬けもきっとそうなんだろうね。」
「…私、じゃないけど!これから暑くなるんだからちゃんと体調管理気をつけて部活頑張りなさいよね!」
そう言い捨てて彼女は空き教室を走り去って行った。素直じゃない彼女らしい。
いつの間にか、雨が止んで虹がかかっていた。
もうすぐ、夏が来る。
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