橋の上の出来事

 皆さん、心霊スポットはお好きでしょうか?

 私は大好きです。一人で行く気にはなれませんけど、友達や恋人と行くのがとても楽しいんです。

 ただ、ノリノリで「心霊スポットに行こう!」なんて言うのは、ちょっと引かれちゃいますよね。

 ……いい口実があるんです。

 それは、「運転免許取ったから行こう!」……です。

 やっぱり、高校を卒業したら暇な時間が増えるんですよ。実際、私も友達も高校を卒業してすぐに免許を取りました。中には在学中に取った友達もいます。

 免許を取ったら、ドライブに行きたくなりますよね? そこで、目的地が心霊スポットになるというわけです。

 これからする話は、三年ほど前に友達が免許を取った際、私と友達の二人でとある県の心霊スポットに行ったときの話です。


 目的の心霊スポットは、山の中に架かる橋でした。橋の下には湖が広がっていて、湖から橋までの高さは大体150メートルくらい。人影少ない暗く寂しい雰囲気と、この150メートルが何人もの命を奪っている、というわけです。

 山の中というだけあって、橋の近くには走り屋が好みそうな峠があり、山中からはイカした車の走る音が聞こえてきます。

 峠道の騒がしさとバランスを取るかのように、橋の周りは、しん、としています。その対比が独特の雰囲気を醸し出しているのです。

 夜の峠道を初心者マークを付けたシルバーの乗用車で走り、走り屋たちが曲がらない道をしばらく進むと、お目当ての橋が目に映りました。

 橋の近くのなるべく邪魔にならないところに車を寄せ、私たちの心霊スポット探索が始まりました。

 橋の欄干は飛び降り自殺ができないように高く補強されていてましたが、それだけでは足りないのか、一番上には有刺鉄線が張られていて、簡単には飛べないようになっていました。

 深夜というのも相まって、橋の欄干一つで、ここは普通の橋ではないと感じさせられます。私には霊感がありませんが、ずっと誰かがそばにいるような不気味な感覚に、背筋が少し寒くなりました。

「なんか、雰囲気あるよな。ここ」

 友達が腕をさすりながら言いました。夏だというのに、どこか寒そうな面持ちで言うので、友達も私と同じような感覚に襲われているのかもしれません。

「とりあえず、せっかく来たんだから橋の動画撮るか」

「そうだな」

 ジャンケンの結果、私が動画を回すことに。スタート地点は車。橋を一往復して車に戻るまでの間に何も無ければ、そのまま山を下ろうということになりました。

「お、いえーい。映ってる?」

「映ってる。道路照明あるからなんとかって感じだけど」

「サンキュー照明! 今、俺たちは〇〇県の××大橋に来てまーす! ……あれ? なんでお前着いて来ないんだ?」

「気にすんな。引きで撮ってる」

「テレビみたいなことしてんじゃん」

「普通に撮ってたら飽きるだろ」

 それからしばらくの間、友達と距離を離して動画を撮っていました。

「なあ、もし幽霊がいたとしてさ、こういうところに来る俺らみたいのってどう思ってんのかな?」

「そうだな、『静かに死ねたのにうるせえよ』って思ってんじゃね?」

「だとしたらやべえよ!」

 そうこうしている間に、車を駐めていた場所に戻ってきました。

 道中、特に何か起きたわけでもなく、ただ静かな橋を散歩していただけになってしまいました。

 なんの起伏のない探索。何かが起こるとすれば、ずっと回していた動画だけ。私たちは車の中で、何かが映っていないか期待をしながら動画を再生しました。


『なあ、もし幽霊がいたとしてさ、こういうところに来る俺らみたいのってどう思ってんのかな?』


『そうだな、「静かに死ねたのにうるせえよ」って思ってんじゃね?』


「そうそうそう」


『だとしたらやべえよ!』


 動画には小さな声が入っていました。友達の大きな声の隙間、『静かに死ねたのに……』という私の冗談を肯定するような、携帯のすぐそばで囁かれたみたいな小さな声が。

 つまり、橋の上で二人で動画を回しているとき、この世のものではない三人目誰かが私のそばにいたということです。

 私たちは一目散に山を下りました。心霊スポットは大好きですが、もう二度とあの橋には近づきません。

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