第31話3人との付き合い方

 惣菜キッチンサイトウにつくと、ヤエと二人で店内に入るとキッチンから声が聞こえてきた。

「ヤエちゃん! 大丈夫なの?」

「美穂さんすみませんでした……ご迷惑おかけして」

「良いのよ、そっちが?」

「はい、紹介しますね! 私の住む家主の……」

「八神健です、ヤエがお世話になっております」

 お辞儀をして顔を上げると、店の店員さんが全員揃っていた。何で……

「八神さん昨日地震に巻き込まれてって」

「はい、今朝やっと帰ってこれました」

「どう言う御関係で?」

 あーそこから話さなきゃいけないのか……

「ヤエの事はお互い大切な家族だと思っています、とてもね……だから一緒に住んでいます」

「だから私は昨日心配して……すみません美穂さん」

「ふーん結婚とか考えているの?」

 この際だハッキリ言っておこう、今の正直な気持ちを……

「ヤエとは結婚も考えています、歳は離れて見えますがね……本気です」

「えっ!?」

 何でヤエが驚くんだよ……前にも言ったじゃん『もう離さない』って、ヤエの挙動がおかしくなり顔が真っ赤だ。

「そっか……ヤエちゃん、こんなオッサンで良いの?」

「おい、あって十分位しか立ってないのにオッサン呼ばわりすんな」

「良いんです! オッサンだろうが健は健何です!」

 さり気なくディスられてる気がするなぁ、オーナーさんとヤエが何やら話し始めているので見守っていると、高校生? 位のこの前レジに立っていた娘に

「ヤエさんとは、そんなにお付き合いしてるんですか? 歳は随分離れてそうですけど?」

 そうだった……迂闊だったヤエとヒエと過ごした時間……実際俺達にとっては100年ちょっとぐらいだっけ……そんな事は言えないよなぁ、アレ? 俺ってもしかして今凄い変な人扱いされてないか? 俺は40代、ヤエはどう見ても20代、茉希ちゃんと並んでいても違和感がない見た目だ。

 やっちまったなぁ俺、そんな感覚忘れてたよ。でも実年齢聞くとキレるんだよな二人共、ガチで! 実際に神の座にいた時に聞いたら洒落にならない位だった。今思えばあの時から俺はヤエに……ヤエだけを……

「まっまぁ愛の形は人それぞれって事で……」

「そー何ですか? へー、ふーん」

「文句ある?」

「そうだよ、私にはあるね」

 今度は誰だよ! ってこの間のおばちゃんか……シゲコさんだっけ

「八神さん、結婚してたんじゃないのかい?」

 そう言えばそうだっけ……昔の話だ、思い出したくない甘っちょろく世間知らずで、自分の事しか考えていなかった頃の……

「ちょっとシゲコさん! その話なら私はとっくに承知してます、それでも私は健を選んだんです!」

「若気の至りって事もあるわよ?」

 このおばちゃんすげぇな、ヤエの実年齢どころか正体も知らないとはいえ若気の至りって。

「大丈夫です! 私は……私は……」

「シゲコさん? 確かに彼は結婚してたかもよ、でもそれ以上踏み込むのはどうかと思う」

「別に悪気があった訳じゃ……ヤエちゃんが心配でねぇ」

「まぁ実際バツイチですからね~まぁ色々あったんですよ」

「でも……八神さん、あんたはヤエちゃんの事を?」

「本気ですよ、こう見えてもね」

「ちゃんと幸せに出来るの?」

「少なくとも今は幸せだと思っていますよ?」

「私も健と同じ気持ちです」

「そっか、何だろうね……貴方達は随分長い事付き合っている様な雰囲気だしね何故か」

 そりゃね、ヤエと目を合わせると笑ってしまう。最後に夕飯の買い物と挨拶だけして店を出るとヒエと茉希ちゃんは居なかった。

「待ってられなくて先に帰ったか……」

「悪い事しちゃったね」

 どちらかともなく手を繋いで歩き出すと

「健と結婚か……それも良いわね」

「出来ればな、その前にヤエの最愛の人は誰? ヒエ? 俺?」

「どっちもかな……ヒエの事も大切なのは当然だけど健は特別、それはきっとヒエも」

「そっか、元を辿ればヒエから始まったんだよな」

「ヒエが女神に戻ったとき言ってた、変な人間だったって」

「変ってさぁ、俺頑張ったと思うんだけど」

「知ってる! その後よね……ちゃんと健との付き合いが始まったの」

「そうだね、ヒエが終わったと思ったらね茉希ちゃんが……」

「思えばその時からかな? 頼りなくヘタれたかと思うと、どうにかしたりしちゃってて」

「ヘタれた理由知ってるくせに」

「でも、あの最後だけは今でも絶対に許せない」

 そう言うと繋いだ手に力がこもる

「でもさ、それも1つの結果に過ぎないじゃないか」

「わかってるけど……目の前でも死なれて見なさいよ、本当に……」

「もうそんな事も無いよ、俺だって痛かったし」

「そこじゃないでしょう!?」

「冗談だよ……でもそのおかげで今こうして一緒なんだよな」

「そうね、あの時で自分の中で健を愛しているって自覚したもの……凄く悲しくて苦しくて」

「へー?」

「今でも夢に見るぐらい……だから昨日私……また……」

「ごめんね、辛い思いさせて……でもこれからはな!」

「離れないからね、どうせ死んでも一緒だし……でも結婚って信じていいの?」

「そのつもりだよ、だからさ今度一緒にね」

「うん……わかった」

 アパートに着くとやはりと云うべきか……エアコンをガンガン効かせて、既にシャワーも浴びて涼んでいる2人が待っていた。

「エアコンは28℃だって言ったろ! 20℃にするな!」

「「チッ」」

「何で舌打ちするんだよ、ってか機嫌悪いな!」

 ヤエが夕飯の支度で台所に行くと、2人に抑え込まれた!

「いだだだだだだ! 何すん……」

 茉希ちゃんに口にタオルを突っ込まれ猿轡にされた。2人に冷たい目で見下される。

「健……アンタ……ヤッたね?」

「師匠……ゴミはちゃんと捨てないとね……」

「ホントよ……私達も健が好きなのよ」

「ふごごっ!」

「茉希抑えておいて……ヤエ! ちょっとこっち来て!」

「何よヒエ? ゆうは……健!?」

 茉希ちゃん力強いし上手く関節決められて動けない、ヤエ助けて!

「ヒエ、茉希……今すぐ健を離して」

「そうはいかないわ、私達も健が好きなのよ分かるわよね?」

「知ってる……わ」

「じゃあ何で怒ってるかも……」

「私と健が……その……」

「そうよ! 私達二人で一人よね! なのに……なのに……」

「アタシだって! 初めては師匠が良い! ずっと我慢してたのに!」

「「だから!! もう我慢しない!」」

 2人の目が本気だ! これって……

「やめて!! 健に酷いことしないで!」

「アタシ達に隠れてしてた方がよっぽど酷いよ!」

「ヤエ……私は……健の事を愛してる」

「アタシだって!」

「知ってる……でも……」

 ヤバいこれが修羅場か……? 何とか猿轡を吐き出すと。

「皆ちょっとまってくれ!」

「何を待つっていうの? 師匠」

「俺の気持ちだよ!」

「「関係ない」」

「はっ? じゃあ何で」

「私達を……捨てないで……」

「そんな事する分けないだろう!! バカか!!」

「だってこんなにも好きなのに……」

「ヒエ達は良いよ、師匠が死んだら3人で神の座だっけ? に帰って暮らすんだから!」

「まぁそれは……」

 茉希ちゃんには反論出来ない……どうなんだろう? 俺の心にはヤエが……じゃあこのままではいられない、でも俺にとって皆が家族だと思ってる。

「健……私は平気よ、正直な気持ちを聞かせて」

「ヤエ……わかった」

「ずるい事だとは思うけど……ヤエを愛してる、でもさヒエも茉希ちゃんも好きなんだ」

「そういうのって……」

「別に捨てたりなんかしないよ、だからさ関節キメルのやめてくれない? 茉希ちゃん」

「逃げない?」

「どこへ行くっていうのさ、俺達の家だろここは!」

 ようやく解放されると、3人の目を見たあと

「こうなるのが怖くて今まで俺は……」

「アタシとヒエもちゃんと見てくれる?」

「えっ? 当たり前だよ」

「ずっとだよ! ずっとずうぅっと!」

「ヒエ……」

「健……私は別に良いわよ、ヒエと茉希なら」

「はい!? 何いってんだよ!」

「余所で浮気されるより、私と同じ位にアナタを一緒に住んで愛してる2人なら」

 何やら勝ち誇った顔をしてるのが気になるが……

「4人で暮らすべきよ」

「ヤエ……私はこれから全力で健を愛して見せる、奪うつもりも無い……ただ捨てられるんじゃないかって茉希と……」

「誰も捨てないよ、ヒエも茉希ちゃんも! 俺の事が嫌いじゃなければね!」

「嫌いになるわけないよ師匠の事を!」

「そっか……ヤエ?」

「私だってヒエは勿論、茉希とも一緒に居たいのだから……頑張ってねアナタ!」

「呼び方ァ!」

 ヒエがヤエに飛び掛かって取っ組み合っいを始めた。

「師匠ぅ、アタシの初めて貰ってくれないの?」

「成人式を迎えたらね」

「本当に!」

「うん……良いよ」

「やっほー! 聞いてよヤエ! ヒエ! 師匠が!」

「ちょっと茉希ちゃん!? やめて!」

「「ああぁん!!?」」

「アナタ!」

「健!」



「もう勘弁してくれ!」

 本当に……ちゃんと3人と向き合って付き合っていく! 良いですよね大女神様?


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