第15話GW a gogo!その4

「健、ちょっとこっちに来て!」

 いつもより真剣な声でヒエに呼ばれた、夜景でも一緒に見るとしますかね。二人に近づいて行くと、ヒエの細い腕が俺の首に回りキスしてきた。ヤエは黙って見ている、俺は混乱していた、そこまで長くないキスを終え離れると。

「ヤエから聞いたわ、ずるいわよ二人共勝手に両想いになって」

「ごめんなヒエ、俺はヤエの事が好きなんだ」

「私だってアンタが好きなのよ……愛してる」

「ありがとう、ヒエの気持ちは嬉しいけど……」

「私達は健を受け入れる事にした……どっちがどうとかじゃなくてね、私達は八神健を愛してる」

 今度はヤエからキスしてきた、最後に二人から頬にキスされた。

「「私達は……健が人として死ぬまでずっと一緒、死んでからも一緒」」

「「私達は愛してる」」

 おっ重い……

「いや俺はヤエが好きなんだよ……」

「私だってそうよ……でもねヒエと話したの」

「アンタがヤエが好きなのは聞かされた時はショックだったでもね……」

「最後が一緒ならそれで良いじゃない?」

「は!?」

「そう、最終的にはまた神の座に帰るでしょ? だから私達は一緒に居ましょう」

「まぁヒエの事も好きだけど……」

「ならいいじゃない! 私達を全力で愛して!」

「さぁ東京タワーをもう少し楽しみましょう!」

「おっおう……」

 二人に手を引かれメインデッキまで降りると

「ここにねタワー大神宮って言うのがあって恋愛成就の効果あるらしいわよ? お参りしましょ」

「そして3人で絵馬を書きましょう!」

「元女神が?」

「良いじゃない人間らしい事をしても」

 土産屋で絵馬をヒエが買って来て渡されると、早速ペンを取りヤエと何やら書き込んでいる。敢えて何も聞かなく二人から離れて絵馬に書き込む。


『ヤエとヒエの願いが叶いますように!』


 最後に自分の名前を書き込みこっそりと掛ける。

「おーい俺は終わったぞ!」

「ちょっと待ってて!」

「今書き終わるから!」

 トップデッキよりも低い窓から夜景を眺める、ここからでも充分綺麗だ。二人は満足してくれただろうか? ぼーっとしていると両腕を組まれる。

「お待たせ!」

「健!」

「何で腕組むのさ、俺は悩んでいるのに……」

 そして当たってる、何がとは言わないが二人のふくよかな部分が当たってる。

「もうね我慢しないって事にしたのヒエと」

「きっと私達は上手くいくって!」

「何が? 俺の気持ちはどうするんだ、ヤエ」

「大丈夫よ、私達は2人で1人の女神だったでしょう、愛する男が一緒でも良いかなって」

「それはどうなの?」

「つべこべ言わないの!」

「「私達はもう離さない!!」」

「うん、わかったよ。とりあえず離れてくれる?」

「嫌よ!」

「人前じゃ恥ずかしいし、このまま街を歩けるか!」

「じゃあここで、もう少しこうしていたい……」

「ヤエ……わかりました、でもここから出たら……」

「わかってる……好きよ……」

「ヒエもいいな?」

「嫌よ! 私に黙ってヤエに先に告白した罰よ、ホテルまで腕組んで行くの!」

「健……お願い、ヒエの気持ちも本気だから。私とは手を繋いでね?」

「その状態でホテルに入るって絵面的に不味いんだけど……」

「もう! 覚悟して!」

 ヒエに腕を引かれ東京タワーから駅に向かう間そして電車の中……ホテルまでの道中、周りからの稀有の目で見られ続けた。恥ずかしい……きっと俺は、赤面して死んだ魚の様な目をしていただろう。ホテルの直前で手と腕を離してもらう、ホテルの部屋へ戻ると21時を過ぎていた。どっと疲れが出たようで二人ともベッドに座り込む、間に一人分の隙間を開けて。あえて無視して椅子に座る。

「ちょっと折角場所を開けて上げてるのに!」

「お気遣いなく」

「ヒエ、健はね何もしないのよ……」

「ヤエは何かされたかったのか?」

「そっそれは……人間だもの……今は」

「ふぅん、先にシャワー浴びてくる」

 そう言うと俺は、キャリーケースから着替えを出すとシャワールームに向かった。ドアには鍵を掛けた……深い意味はないけど。シャワーから熱いお湯で汗と疲れを流す、本当は湯船に浸かりたいけど……諦めてシャワーカーテンを開けると鏡に裸の俺の姿を見る。おっさんだな……この腹の傷痕以外は、『呪い』との戦いで自害した時の傷だ。誰にも見せられない、特にヤエとヒエには俺の過去以上に絶対に見られたくない。もっとも見せるつもりもない……この傷痕は戒めだ、もし二人が見たらきっと……

 不意にドアをノックされる。

「ごめん〜トイレ! 開けて!」

「今出るよちょっと待ってて」

 着替え用のTシャツと下着を履きドアを開けるとヒエと入れ替わる。

「さっぱりした?」

「したけど、シャワーだけってのは疲れは取れないね」

「お風呂ないの?」

「あるけど面倒くさいんだよ、ホテルのは洗い場と湯船が一緒なんだ」

「ヒエがトイレから出たら使い方教えてくれる?」

「ヒエが出て少し経ったらね」

「?」

 ヒエがトイレから出て3人でテレビを見ながら頃合いをはかり、シャワールームの使い方を二人に教える。

「ヒエ先に行くわね」

「良いよ! 健、一緒にテレビ見よう!」

「オッケー」

 ヒエがベッドの上で横になりながら、俺は椅子に座って、テレビを見てチャンネルを変えていると。

「新潟とテレビ番組結構違うね」

「新潟は地方局だからね、つまらないなら今日買ったレトロゲームでもやるか?」

「ううん平気」

「結構疲れただろ?」

「疲れはしたけど楽しかったよ、五泉では見れないものが沢山あって……また来ようね。今度はディ……」

「今度ね、行くとしたら冬かな」

「どうして冬なの?」

「それは今度一緒に行ったら教えてあげるよ」

「なあヒエ……本当いいのか? 俺の事」

「うん、どうせ健が死ねば私達も一緒だから」

「あっそうなんだ?」

「忘れたの? 今は消えているけど私達の繋がりは絶対よ、健という存在があるから私達も人間になれたのよ」

「そっか……じゃあ俺が死ぬと、道連れって事か?」

「言い方は悪いけどそうね。お願いだから長生きしてね! 人間も楽しいし」

「そうだな! まだ楽しい事一杯あるからな」

「お待たせ!」

 シャワールームからヤエが出て来た。ヒエが立ち上がりシャワールームへと入って行った。

「ヤエは良いのか俺の事?」

「色々と思う所はあるわよ……でも愛してくれるんでしょう?」

「いや……うん、まぁ……今は気持ちの整理が追いついてないけど」

「良いのよ、私達の気持ちは本当よ。健を愛してる」

「健には私達が幸せを教えてあげる」

「そっか……うん、幸せねぇ……今でも充分幸せだよ?」

「本当に?」

「ヤエとヒエが居るだけでね」

「そっか本当は私達ね、お互いに健の事を独り占めしたがっていたんだ……」

「本気でヒエとやり合うべきかしらってね」

「でも気がついたの」

「繋がりの事か?」

「うん、私達は何処までも一緒何だってね」

「ずっとね……そう考えたら私達の気持ちがスッと楽になって、健への気持ちが今迄よりも溢れて……ヒエも一緒に……」

 何だろうヤエの表情が女の顔になりつつある、ヤバいな。話しを逸らそう。

「ありがとうヤエ、少し俺にも時間をくれないかな? ちゃんと二人と向き合う為にも……」

「おっ待たせ〜!」

 ヒエがシャワールームから出て来た。


 どうか今夜何も起きませんように……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る