第11話サクラサク季節 その2

 ヤエが作ったお弁当が広がる、何故か塚田さんも覗き込んでいる。

「なんで塚田さんが……」

「いえヤエさんがどんなお弁当を作るのか興味があったので……凄いですね」

 確かに凄かった……これお店に出せるんじゃないか?

「ヤエお前……凄くね? 茉希ちゃんもヒエも見てみろよ!」

「……」

「ヤエ張り切ってたもんね……」

「もうお前らは! 安心しろアイツらには俺が呪いをかけておいたから!」

「どんな?」

「もう一生『モテ』ない呪いをな!」

「何よそれ、そんな力無いくせに」

「良いんだよ! 茉希ちゃんにボコボコにされるぐらいの男共だ大した事ないよ!」

「とにかく食え! 折角のヤエ手作りだ、ヒエとりあえずこれでも飲め」

 塚田さんのご家族から買った物を飲ませる。

「ぷっっはぁあ! 身にしみるわねぇぇえ!」

「ほれまだあるぞ!」

「師匠それ……酒ッ! ヒエは禁酒だったんでしょ!」

「そうッ! ヒエは飲まずにはいられない!!」

「嫌な事は飲んで忘れる! 俺達は食って忘れる!」

「と言う訳で……いただきますヤエ!」

「いただくねヤエ」

「どうぞ二人共!」

 うん美味しい! 3人で食べる、お腹が空いていたいた事もあるが、1ヶ月半でここまで上手くなるなんて。ヤエって凄く努力したんだろう……そう思うと……アレ? ヒエが居ない、探すとヒエは塚田家の義父さんと酒を交わしていた。

「ちょまっ! そこまで許可してない!」

「まぁまぁ八神さん、今日はもう楽しんだ方が良いですよ!」

「健! 茉希! ヒエの分は気にしなくていいから食べちゃって!」

 俺も切り替えるか……ヤエと茉希ちゃんとお弁当を食べまくってやった。

「本当にヤエの料理って日増しに美味しくなってくよね!」

「日増しに?」

「ちょっと茉希!」

「うん、師匠知らないの? ヤエって結構お裾分けしてくれてたんだよアタシに」

「初耳だよ!?」

「まっまぁ茉希の食生活が酷いのと新人コーナーの売れ残りをね……」

「そっか……そんな繋がりが出来てたんだな……ちなみにヒエとは何か?」

「バイト先が一緒」

「はっ!?」

「私が作った配達最速記録を入って1週間でぶち抜かれたよ……あと最近はよく一緒にゲームしてる」

「あの狩猟ゲームを!? 今度俺も混ぜて!」

「それはヤエに聞いて……ほら」

「ふんっ!」

 ご機嫌斜めになってしまった……ヤエって難しい。でもこれで良いかな、嫌な事を忘れて楽しむ事も生きる上で必要だ。そうだ! 折角だし4人で写真を撮ろう。この俺の好きな人と同じ名前の八重桜を背景にして。

 提案を塚田さんにお願いすると旦那さんが得意との事でカメラマンをお願いする。ヒエはすっかり出来上がっていたので茉希ちゃんに連行させて、ヤエの頬も冷したおかげですっかり目立たなくなり。4人で八重桜の前で並ぶとヒエ達のスマホがカメラの機能が凄いらしいので塚田さんの旦那さんにフル活用してもらい。

「はいチーズ!」

 こうして思い出が一つ形になった、後は伝えないと……結局塚田家のご好意により宴会となってしまったが、時は過ぎて夕暮れになっており桜のライトアップが始まり美しく照らしている。

「ヤバっ! 帰りのバス!」

「良ければ送りますよ?」

「いや流石にそこまでされると……」

「実は八神さんには妻共々感謝しているんです」

「はぁ? なんかしました俺?」

「実は……二人目の子供が……」

 その言葉に一瞬思考が止まったが

「マジで!? おめでとうございます!」

「あの時八神さんに言われなければ、今の幸せはありません」

 何だろう我が事のように嬉しい、良かったなぁ……これで歴史は完全に変わった。お言葉に甘える事にするか……厚かましいとは思ったが旦那さんに一つだけお願いした、既に出来上がってるヒエは置いておくとして……茉希ちゃんは塚田さんにお願いする。夜もふけていき、後片付けを終えると周りに花見客は居なくなっていた。車までヒエを運び塚田さんに合図すると。茉希ちゃんに話しかけ始めた。俺も覚悟を決めるか!!


「ヤエごめん、忘れ物した一緒に来てくれないか?」

「何してるのよ、もう」

 上手く二人っきりになれた……ヤエの手を握り八重桜の前まで来ると

「楽しかったか今日?」

「えっ? 楽しかったわよ、それより忘れ物は?」

「きっと今日みたいな事はこれからもあると思う……もしかしたら俺がその場にいなくて守れなくなる事も……」

「どうしたの健?」

「それでも俺の見える所、手の届く場所にヤエが居るなら守る」

「健……」

「今日ハッキリとわかったよ。ヤエが傷つけられた姿を見た時に……こんなにも大事な人だったんだなって……」

「だからしっかり伝えたい」

 ヤエから手を離し少し離れて向かい合う……

「ヤエが好きだ……きっと愛してる」

 ヤエが俯いて表情が分からない、右手で左腕を抑えている。

「何で……じゃあ何で今手を離したの……」

「……」

「答えてよ……健」

「ヤエはどうなんだ?」

「そんなの決まってる……好きよ愛してる……だから何で手を離すのよ……好きなら愛してるなら離さないでよ!!」

 良かった……不安だったんだよでも……好きでいてくれて……愛してくれて、ヤエを抱き寄せる。ヤエが背に手を回す。


「「もう離さない」」


 抱き寄せたヤエの顔を見ると泣いていた、いつも何かしらで泣かせていたっけ……でも今日は……そのままヤエが目を閉じヤエの唇にキスをする。貪るような事はしなかった、ただ離したくなかった。……がヤエのスマホが着信を知らせる。二人共名残惜しそうに離れて、ヤエが電話に出ると、塚田さんからだったらしい。

「もう限界、早く戻って来いですって!」

「行こうかヤエ!」

 黙って頷くヤエと手を繋ぎ二人で車まで戻る。

「おっそいよ師匠! んっ? 何か師匠から桜の花の匂いがする!」

「八神さん満喫したんじゃないんですか? 昼間寝転んでましたしね!」

「そうね健には勿体ない匂いね!」

「お前ら!」

「さぁ乗ってください! 帰りますよ!」

 塚田さんの旦那さんの車に乗り込み送ってもらう。アパートに付くと、ヒエが酔い潰れているのでおぶって部屋まで運ぶと布団に寝かせる。塚田さんに改めてお礼を言い荷物を降ろすと塚田さんは帰って行った。

「師匠聞いた? キョーコに赤ちゃんが出来たんだって!」

「どっちかな? 今度賭けようか?」

「師匠は知ってるの未来の事?」

「いや知らないよ……もう俺の知ってる未来じゃない。大体、茉希ちゃんが大人の姿ってだけでもう……」

「そうなんだ〜じゃあチャンスはまだあるよね?」

「いやっそれは……」

「女の勘……舐めないでよね師匠、ヤエ」

「「うっ」」

「アタシは執念深いんだよ……ヤエ、アタシは諦めないから覚悟して!」

「良いわよ、絶対に渡すもんですか!」

「まっ今日はこれぐらいにしておいて上げる、お弁当美味しかったよヤエ」

「当たり前よ!」

「じゃあね〜おやすみ!」

 茉希ちゃんは部屋へと入って行ったのを見送ると。

「行こうかヤエ?」

「うん! ヒエが心配だしね」

「また当分禁酒だな……」


 その夜ヤエはヒエの看病に付き合わせられることになる。

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