第10話サクラサク季節 その1
あれから4月になりヒエが作った5万円は無事支払う事ができ、それぞれのバイトも順調だったある週末
「日曜日ヤエもお休み貰ったから3人でお花見よ!」
「村松公園で桜が満開になったってシゲコさんが言ってたのよ、だからお弁当作るから3人で行きましょうよ」
「良いんじゃない? 俺も休みだし……天気も良さそうだしな」
「何かイベントもあるらしいわよ!」
「そっちはどうでも良いや」
「ノリが悪いわね……ヤエも料理がどんどん上手になってるし、後はお酒……」
「却下だ!」
「健、私お弁当頑張るからね!」
「あのさ……茉希ちゃんも誘っちゃ駄目か?」
「なんでよ!」
俺の勝手な我儘なのは百も承知だが。
「放っておけないんだよ……今さ茉希ちゃん独りぼっちだろ、せめて楽しい思いをさせてあげたいんだよ」
「アンタねぇ……」
「良いわよ、健がそう言うなら私は……もともと抜け駆け無しの約束だしね」
「じゃちょっと言って来る」
「それは駄目! ヤエ言って来て!」
「しょうがないわね、断られたら放って置くからね」
「頼むよ」
ヤエが伝えに行くとヒエが聞いてきた。
「茉希に何か拘りすぎてるところが気に入らないわ」
「俺はお前達の方が大事だよ、でもさ茉希ちゃんも可哀想じゃないか……望みがあれじゃ」
「茉希の望みね……あれが1番歴史を変えたかもね、アンタと居たいってだけの純粋なネガイで」
「でも俺には茉希ちゃんは選べない……だからせめて楽しい事はみんなでさ」
程なくしてヤエが戻って来ると、喜んで参加するとのことだった。
「よっし明日頑張るか! 日曜日は皆でお花見だ!」
「しょうがないわね……まったく! 4人前ね、お弁当代は健のお小遣いから引いておくわ」
「そうしてくれ、ヤエに任せる」
そして日曜日の朝二人に叩き起こされた、駄目なんです仕事がない日の朝は逆に辛いんです。二人に急かされて支度をしていると茉希ちゃんがやってくる。
「おっはよ! 師匠にヒエ、ヤエ。今日は誘ってくれてありがとう!」
支度を整えると荷物持ちを買って出る、早く行かないとお花見シーズン日曜日の村松公園はシャレにならないほど混み合う、3人を引き連れて循環バスに乗り込み村松公園を目指す……
多少の渋滞が始まりつつあったが、早く公園に付くことができた。4人で桜を眺めながら園内を歩く。
「結構咲いてるね……」
「こうして人間として見る桜は綺麗ね……」
「桜か……そう言えば! この公園には有名な八重桜があるんだよ! そこで場所取りをしよう!」
流石に有名な八重桜なだけあって混み合っていたが、何とか場所を開けてくれる親切な人がいたのでビニールシートを敷くと4人でお礼を言う。
「綺麗だろうヤエと同じ名前の八重桜? みんなで見れて良かった! 俺、場所取りをしておくから3人で見てくると良いよ」
「じゃあ茉希、ヤエ行くわよ!」
「お土産買ってくるね健!」
「二人のボディーガードは任せておいて!」
「行ってら〜」
不思議な感覚に襲われる……別の歴史ではこの桜が咲いた時、俺は女神と一緒に茉希ちゃんと戦って死んだんだっけ。誰にも見せていないが、俺の腹にはその時の傷跡が残っている……これは消えなかったか。何か意味があるのだろうか? 今度白山に行ってみるか、会えるか分からないが大女神様に聞いてみたい。ビニールシートに大の字に寝転んでいると。
「八神さん!?」
「塚田さん? 奇遇ですね?」
先程場所を開けてくれた人は塚田さんの義父だったらしい、これも縁か……
「ヒエさんとヤエさんは?」
「茉希ちゃんと公園内を散策中ですよ」
「そうですか……不思議ですね、桜がこんなにも明るく見えるのも御二人のおかげですかね」
「どうでしょ? あっ! 今月の収入報告ヒエを行かせるので宜しくお願いします」
「わかりました、それでは失礼します」
塚田さんは家族の元へと戻って行った、夫婦仲は良好なようだ。塚田さんの顔が歳相応に優しい表情で幸せに溢れている。良かったな……見ているとホッコリしてくる。不意にスマホが鳴る着信か、画面を見ると鷲尾さんだった……嫌な予感がする。
「もしもし八神ですが」
「おう久し振り! と言いたい所だが運営事務所まで来てくれねぇか?」
「……何かやらかしたんだな? 俺の身内が」
「まっそういう訳だ! お茶を用意しておくからさっさとこい!」
しょうがない……行くか……場所と荷物は塚田さんに頼んだ。心配そうにしてくれるのが余計心に刺さる。
桜を眺めながら運営事務所に付くと鷲尾さんが外で待っていた。
「おう八神!」
「はぁ……んで何があったの?」
「まぁ、中に入ってくれ」
案内されて中に入ると警官から茉希ちゃんを庇うヒエとヤエがいた。
「健!!」
「一体何があった? 大体予想つくけど……」
事務所の隅っこにボッコボコにされた男が4人縛り付けられてる。
「思ってる通りの事だよ八神、茉希はアイツらに絡まれてな」
「茉希は私達を守ってくれたのよ!」
「本当に絡まれたんだな?」
「ヒエがナンパされてしかもしつこくって、ヒエが平手打ちしたらキレやがってね」
「ヒエになにかしたのかコイツら?」
「ヤエが庇って頬をちょっとね……アタシはそれでキレてね」
「ありがとう茉希ちゃん」
「ヤエ? 見せてみろ」
ヤエが隠すが少しだけ右の頬が腫れている
「鷲尾さん? 俺を呼んだのは失敗っだったかもよ、コイツらに今から地獄を見せてやるから」
「いいぜ、たっぷりやってくれ」
「全員表に出ててくれるかな?」
「了解だ! 女神様にした事を思い知らせてくれ」
「全員表に出ろ! 茉希も御二人も」
全員が出て行くと入り口に鍵を掛けた。
「お前らよくも俺の家族に手を出しやがったな……」
男共がなにか喚いているが聞く耳など持たない、ゆっくりと近づいて行くと男共が悲鳴を上げ始める……
「終わったよ鷲尾さん」
「良いのか?」
「人は人が裁くべきじゃない?」
「わかったよ男4人はぶち込んでやるよ」
「そうしてくれると助かる、もし街で見つけたら……」
「おっかねぇこと言うな!」
「それじゃ3人は連れて行くよ」
「ちゃんとケアしてやれよ八神……」
「わかってる」
3人を連れて塚田さんの元へ戻ると、塚田さんが慌ててヤエの傷を手当してくれた。幸い傷痕になるような傷じゃなくて良かった……
「それにしても茉希ちゃんちょっと強すぎない?」
「アタシの力は誰かを守る為にあるんだ、間違っていない」
「わかってる、二人を守ってくれてありがとう」
「ヒエは大丈夫か?」
「うっうん……無事、ちょっと浮かれすぎた見たい……ごめんなさい」
「ヒエは悪くないよ、ごめんな人間の嫌な部分を見せて……」
ヤエの元へと向かうと塚田さんが頬を冷やしてくれていた。
「八神さん……腫れはすぐに引くと思います」
「ありがとう塚田さん、ヤエ?」
「大丈夫よ……」
「悪かった、俺も行くべきだった……気が緩んでた……」
「健が謝る事じゃ無いでしょう? 茉希も守ってくれたし……」
ヤエの腕が震えている、そっと掴む
「なあ……これが人間だ……自分勝手で欲望に塗れた、帰ってもいいんだぞ神の座に」
「嫌よ……帰らない、それでも……それでも健の傍に居たい! だから今度はちゃんと守ってね!」
「辛気臭いのはもう辞め! 折角作ったのよ! お弁当を食べてもう一度4人で散歩しましょう!」
「ヤエがそう言うならそうしようか!」
満開の桜の下でヤエの見事な手作り弁当が広がる。
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