第9話3人の生活サイクル 健編

 俺の朝は6時半に起床する。こう見えて朝は昔から強いほうだったりする、今では歳のせいもあるかもだが……起きるとヤエが朝食を用意してくれている、ヒエもバイト先から帰ってくると3人で一緒に朝食を食べる。もう1週間過ぎだのかあれから……二人共大分馴染んで来たようだ、ヤエの作る御飯も日を追うごとに上手くなっていく。ヒエは後片付けと掃除を担当する様になった、おかげで俺は黙って仕事に集中出来る。

 ヤエから今日のお弁当を渡されるとカバンに入れて

「行ってくる、留守を宜しくヒエ!」

「まかされたわ」

「ヤエ、今日も夕飯楽しみにしてる。じゃあね!」

 職場までの電車は混むのを避けるため一本早い電車に乗り早くついた分、朝マッグでコーヒーだけを飲んでから出社する。

 座学の研修期間が終わりOJTが始まっていた、先輩スタッフが1人脇について電話のやり取りを聞きアドバイスをくれる。今の俺の業務はこれだけだ。午前中に3件対応を済ませ、お昼休みになると休憩所でヤエ作のお弁当を広げ食べて見ると明らかに美味しくなっている。ありがとうヤエ……何かお土産でも買って帰るかな、さて栄養ドリンクも飲んで午後の業務に励みますか!

 今の所順調に応対していると先輩スタッフに

「八神さんって経験者だったんですよね……結構喋れてますしタイピングも早い……」

「まぁ一応経験があるってだけですから、俺なんかまだまだですよ」

「あんまり順調だとOJTすぐ外されますよ?」

「それは困ります! まだ分からない事が沢山あるので」

「じゃあ小休憩入れましょう、受電取りすぎてもアレですから」

「ありがとうございます」

「一緒に上に上がりましょう」

 上とは休憩所の事だ、先輩の大西さんと一緒に向かう、缶コーヒーを2本買うと

「これ飲んで下さい」

「そんなに気を使わないで良いですよ八神さん」

「もう買っちゃたんで置いておきますね」

「頂きますね」

 特に喋ることも無く缶コーヒーを飲み干して降りていく。大西さんか……人当たりの良い人だ。歳は俺より下だけど、人当たりの良さは尊敬出来る人だ。大西さんと適度に会話しつつ時間を調整して行く……別に終了時間を調節してる訳ではない。一応ね!

 本日の業務も終わり帰り支度をしていると、同期達から飲み会に誘われたが丁重にお断りした。コールセンタースタッフは激務だいつでも人が足りない、故に続く人間と辞めてしまう人間がハッキリと分かれる。今日飲みに行った同僚が、次の日には来ない事なんてザラだ。だから俺は断る様にしている。

 さて二人にお土産でも買うか……何を買おうかな? ケーキでも買うか? 俺も甘い物が食べたいしな。電車の時間までは余裕がある、ケーキ屋をスマホで探し出すとすぐに向かう。幸い営業中だったのでケーキを見繕って居ると、フルーツロールケーキがあったので店員さんに聞いてみると売れ残りだそうで、値引きもしてくれるらしい。ふと思い付きメッセージプレートをお願いした。

 帰りの電車は空いていた、荷物を抱え座っていると少しだけ幸せだった頃を思い出す。あれはいつの頃だったか……何も知らなかった青二才だった……勢いだけで生きてその場のノリと感情を優先して生きていた結果……本当に幸せだったのかな、電車は駅へと着く。雪が降っているもう3月も近いのに、まさか『呪い』なんてね。さぁ早く帰ってアイツラの顔が見たい、雪が降りしきるなか家路を急いだ。

「ただいま〜」

「おかえり健!」

「おつかれ〜」

「今日はお土産買ってきたから夕飯食べすぎるなよ?」

「気が利くわね健! さぁ私とゲームしなさい素材が足りないのよ!」

 そう言えばヒエにゲーム機を見付けられて最近遊ぶ様になったんだった……

「ヒエ、もう準備出来てるからさっさとご飯にするわよ」

 それに比べて良く出来た女ヤエである、いやヒエも凄いんだけどね掃除に洗濯もしてくれるし。夕飯を3人で食べて二人の話を聞く、新聞配達の最速記録を出したとか、新人コーナーが完売したとか。二人共順調に馴染んでいるようだ。食事を終えて後片付けをしたあとに。

「これ俺から二人に」

 買っておいたケーキを見せると

「へぇ〜ケーキね……ん!」

「どうしたのヒエ?」

「これ見てみてヤエ」

 メッセージプレートを二人が見ている


『俺の所に来てくれてありがとう

             ヤエ

             ヒエ』


「一応ね! お礼なだけなんだからね」

「ありがとう健……写真とっても良いかな?」

「撮ってあげるよ、二人共ケーキ持って!」

「「うん!」」

 スマホで撮影するとヤエとヒエに送る、俺のスマホにも保存しておくか……ヤエが何か言いたそうだが、ヒエが

「早く食べようよ! ヤエ包丁貸して私が切ってあげる!」

「上手く3等分に出来るかなヒエに?」

「馬鹿にするんじゃないわよ! それっ」

 意外と言ったら失礼かも知れないが綺麗に3等分に分けられたケーキが並んでいた。

「はぁ……全くヒエは、折角健が買ってきてくれたのに……」

「食べてくれた方が嬉しいよ俺は?」

「でしょ! さぁ食べましょう!」

 ケーキを食べ終わると、ヒエが風呂に入って行ったのをみてヤエが

「何で3人で一緒にケーキの写真を撮らなかったの?」

「何で? いる?」

「いるわよ! 記念よ記念!」

「じゃあさ今度、村松公園で桜が咲いたら3人で一緒の写真を撮ろうよ!」

「約束だからね! 破ったら……」

「そんな事はしないよ」

 安心させる為にヤエのオデコと俺のオデコを合わせると、ヤエが黙って目を閉じた。アレ? これってもしかして……伝わった? 訳ないよな……まさか待ってる!? しまったナチュラルにやってしまった! ヤエが

「健……」

 目を閉じたまま呟くのを聴いて、唇に吸い寄せられていく

「ちょっとまったぁあああ!!」

 デスヨネー、ヤエから慌てて離れる。ヒエが怒りの乱入だそれも半裸で

「ばっ馬鹿! 服着ろよ!」

「うっさい! そう言うのは私かヤエをちゃんと選んでからよ!」

「ヒエごっごめんね! でも服を早く着て!」

 ヒエのお怒りを俺とヤエで鎮める為に平身低頭土下座した。ヒエが着替えると。

「まったくヤエ……私達やり合うべきかしらね」

「ごめんなさいヒエ! でも止まらなくて……」

「まったくもう! 健はしっかりしてよね?」

「はい……気をつけます……でも何でわかったんだ?」

「そりゃ急に話し声が聞こえなくなって、静かになればおかしいと思うわよ!」

 女の勘ってやつか? でも助かった。あのまま行ってたら今の関係が壊れるかも知れない……それは俺の望みじゃない。


俺の望みは……




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