第6話ヒエのバイト探しその2
その日の夜は暫く忘れられないだろう。ヤエの怒声とヒエの悲鳴が安アパートに響いていた。ヒエに貸したイヤホンを耳にはめて何とか眠りについた。
翌日、目覚ましのアラームで起きると二人共グッタリと寝ていた。一体何時までやり合っていたんだよ……もう人間なんだぞ? きっと限界までやり合っていたんだろう、そのままにして御飯だけ炊いておいて仕事に向かう。取り敢えず栄養ドリンクを駅ビルのコンビニで買って飲んで仕事に向かう。
昼の休憩時間にスマホをチェックすると着信履歴がヤエで埋め尽くされている。その中に知らない番号から着信履歴があった、もしかしてと思いかけ直すと。ヒエのバイト探しで応募した新聞配達の会社だった、驚いていたが詳細を説明すると面接してくれる事になった。わざわざ今日の19時に面接をしてくれるらしい二人で行く事も伝えて電話を切る。さてと……ほら来た。
「ヤエ仕事中は電話出れないからな」
「ごめんなさい健、私寝坊しちゃって……」
「気にするなって、それよりもヒエは居るな? 電話変わらなくて良いから伝えてくれ」
「今日の19時からバイト先の面接だって伝えてくれ、30分前に五泉駅に集合な。それじゃまた帰るとき電話するよ」
「うん分かった! 仕事頑張ってね」
通話を終えると本日2本目の栄養ドリンクを飲み干して休憩時間は終わった。
本日の研修も無事終わり、電話で今から電車に乗る事をヤエに連絡すると乗り込んだ。程なくして五泉駅につくとロビーに二人が待っていた。
「おかえり健!」
「ただいま! このまま向かうけど良いよなヒエ?」
「まっかせなさい!」
「ところでアパートの玄関の鍵を掛けてきた?」
「「??」」
ヤッパリな……帰ったら会議だな、作ってて忘れてた合鍵渡さなきゃ。駅から歩いてすぐに新聞配達の会社が見つかった。猪口新聞ここか……会社の玄関が明るい。中へ入ると社長らしい人が見えたので声をかけると、挨拶をして俺達三人を社内へと迎えてくれた。
「はじめまして社長の猪口です面接をご希望の方は?」
「私です! ヤハタヒエと言います、宜しくお願いします!」
あれ? 何かヒエの雰囲気が違う……
「八幡ヒエさんね、貴方が八神健さんですか?」
「はい」
人の良さそうなお爺さんだった。ヤエは事務所の椅子に案内されてちょこんと座って待つことになり。俺とヒエは応接間へと案内されて行った。椅子に座るように促されるがヒエだけ座らせた。
「さて早速ですが……履歴書はありますか?」
しまった! 肝心な事を忘れていた! ヒエに履歴書? 学歴とか考えて無かった! どうする!?
「これです!」
「拝見しますね……」
はぁ!? 思わず覗き込むとちゃんとした履歴書だ。いつの間に……まさか……塚田さんの顔が脳裏に浮かぶ、あの人なら二人の頼みを断り切れずやりかねない……会議の議題がまた一つ増えた。俺の頭は混乱中だが面接は進んでいた様だ。
「では早速ですが明後日の午前2時に来てください」
「ありがとうございます!」
「は!?」
いつの間にか採用が決まって、駐輪場へと社長に案内されたヒエがバイクを乗りこなして戻って来て契約書を書いていた。運転出来たのか本当に……そのまま猪口新聞を後にした。
「はっ!? いつの間に終わった?」
「しっかりしてよ健……ねぇヤエ?」
「まぁ……帰ったら話しましょう」
二人に手を引かれアパートに帰ると案の定施錠はされていなかった。中に入り早速合鍵を渡し、施錠の徹底を説明した。
今日の夕飯はヤエがバイトをする予定のお店の惣菜だった、うん美味しいね! って違う!!
「あの履歴書は何だよ?」
「京子に……」
「だと思ったわ!! 塚田さんはド○えもんじゃあないんだぞ!」
「でっでもバイトの面接を相談したら、喜んで心構えから履歴書の書き方まで教えてくれて……」
「絶対にやけくそ気味だったろう? 学歴どうした?」
「きょ……」
「捏造してんじゃねぇか!! ヤエ! スマホかせ! どうせ塚田さんの番号知ってるんだろう!?」
「いやよ!!」
「何で!? じゃあヒエ!」
「お断りよ! バイト決まったんだから良いじゃない!」
「安心して健……きっとこれも大女神様がいずれ修正してくれるわ」
「ヤエ!? お前だけは……違うと思っていたのに……俺の気持ちを返せ!」
「京子が喜んでいたわよ……私のバイトが決まって収入が安定したら……いずれって」
「それが狙いかぁあああ!!」
健康福祉課の職員で家の内情知ってりゃそりゃ協力するわ! くっそ色々問題だらけじゃあないか! 思わず頭を抱えるが……いやバレなきゃ……ヒエもバイクを乗りこなしていたし。きっとヤエも上手くやって行ける……と思いたい。が! しかし今回の件で二人に対する好感度が下がった。
二人の気持ちはとっても嬉しいでもね……俺だけおいて二人で超特急で勝手に進まないでほしいな! いや俺がのんびり過ぎるのか? だとしたら反省すべきは俺の方だ。夕飯を食べ終えると。
「二人共アルバイト決定おめでとう!」
「頑張って働いて美味しい御飯を健の為に作ってあげられる様になるから!」
冷静に聞いてみるとヤエはちょっと想いが重いかなぁ……
「私も市内の配達に気合入れていくわ! 皆で稼いで乗り切りましょう!」
ヒエお前が原因何だけどな……
「二人共……何度も言うが身体には気を付けてくれよ? もう人間なんだから」
「健……ちょっと過保護すぎない? もう少し私達を信用して!」
「そうだな! 少し過保護過ぎたな悪い……でもこれだけは伝えたい! 聞いてくれるか?」
「良いわよねヤエ!」
「うっうん!」
「ありがとう……あのな、二人共俺にとって凄く大切な存在なんだ。これから先もずっと一緒に居たい。死んで神の座に戻ってもずっと」
「だからこれからも宜しく!!」
「「言質取ったわよ健!!」」
「へっ!?」
ヒエが俺の目の前にスマホを見せると画面には録音中の文字が……涙を浮かべヤエは抱きついてきた。
「今のが健の本心なのよね? 私への愛の告白なのよね?」
「えっ? えっ? ヒエ? ヤエ?」
「違うわよヤエ、今の熱い告白は私達に向けたものよ……でしょ健?」
「ちゃんと録音させてもらったわ、流石に私もドキッとしたわよ。健! ありがとうこれからもよろしくね」
「そのつもりだったんだけど……いだだだだだ!! クッ苦しい!! ヤエちょっとそんなにキツく抱きしめないで!」
あたってる! 何がとは言わないがあたってる! それもハッキリとヤエって意外と……クッ苦しい! それどころじゃない!
「ヤエちょっと聞いて! お願いだから! 緩めて! ヒエ助けて!」
「ちょっと離しなよヤエ! そして変わって!」
「嫌よ!」
「健は絶対に渡さない……誰にもヒエにも……私だけの……アレ?」
俺は既に気絶していた……
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