第5話ヒエのバイト探しその1

 5万円……これは痛い。ヒエが落ち込んでいる、何とかしてあげないと。でもできる事あるかな? あれ? 二人共どうやってスマホを買ったんだ? 身分証明書がいるはずだよな。

「ヒエってさ身分証明書持ってるの?」

「あるわよ……ヤエと一緒に作ったこの免許証」

 確認すると……ほぼ偽造じゃねぇか! 何で二種免許と大型一種免許以外全部取ってるんだよ!

「確認するが実際どうなんだ運転できるのか?」

「それは勿論よ! 運転なら任せてよ!」

 ヒエが途端に元気になるが……ヤエの反応が微妙なのが気になる。

「ちゃんと車なりバイクを運転したのか二人共? 何処で?」

「深夜に勝手に京子の車で練習したわよ? ねぇヤエ?」

「おっまえら! 何で塚田さんの車を? って事は……塚田さんのとこにいたのか?」

「言ってなかったっけ?」

「初耳だよ! しかも勝手に車を動かしたって……まぁ良いか、今度三人で謝りに行こうな」

「それよりもバイトだなヒエ? スマホ見てみな」

「なにコレ? 街ワーク?」

「求人サイトだよ、これで探すんだヒエにぴったりなアルバイトをな! 何か得意な事ないか?」

「え〜何でもいいわよ、多分人並みにはこなせるだろうし」

「ほ〜う言ったな? 取り敢えず近所で検索するか……」

 近所で検索した結果、近所のスーパーやドラッグストア、コンビニに……おっと新聞配達もあるな。ヒエに見せてみるが

「健から見て私が客商売に向いてると思う?」

「舐めてんのか!? お前さっき自分で言ったじゃないか人並みにはって!」

「時給も安いし……」

「選り好みはするんだな……じゃあ新聞配達でもやるか? 接客じゃないし朝の3時から7時迄だってさ」

 意外と給料いいな配達だけで月8万円か

「ありかもね……ヒエにあってるかも」

 ヤエが夕食の支度を終えて運んで来ると俺の横からスマホを覗き込む。近い! 百年近く一緒に居たのに! 何でこんなにドキッとするんだよ俺……ヤエが人間だから意識してしまうのか……

「取り敢えず応募だな!」

「ちょっと! 私の意見は?」

「選り好みした罰と使い込んだ人は誰かしら……夕飯抜きにされたい? ヒエ?」

「ぐっ……分かったわよ受けるわよ健、応募しておいて!」

 連絡先は俺にしておいてっと……ヒエの応募を済ませるとようやく夕飯となった。早速いただくと

「「美味しい!」」

 ヒエと同時に声を上げる、本当に美味しい! これがヤエがアルバイトするお店の味か、上手くいくといいな人間関係とか……

「ヤエ頑張ってな! 後で仕事先の契約書見せてくれるか?」

「契約書? これの事?」

 どれどれ……ふむ……ツッコむべきか無視するべきか、これアルバイトじゃなくてフルタイム勤務じゃん! でもヤエ嬉しそうだしなぁ……

「大丈夫よ! 二人共期待してて!」

 そう答える笑顔に迷いは感じられず。何も言わずにそっと契約書をヤエに返した。今度ヒエと覗きに行くか……食後の後片付けをヒエが始めた、どうやら二人での役割分担が出来つつあるらしい。俺は風呂を洗い湯船にお湯を張る、その間にテレビを見ながら三人で雑談をしていると。急な錯覚に襲われる、こんな事が昔……あった様な……思い出せない。

「お風呂良いみたいよ?」

 ヤエの声で正気に戻る

「あっ……ありがとう、先に良いのか?」

「明日も仕事でしょう健?」

 ヤエの気を使ってくれる言葉に……あっ……また……頭を押えながら。

「ありがとう先行くね……」

「健?」

 湯船に浸かりながら今日も不思議な感覚になる、女神との百年の生活は別として41歳のオッサンの俺が懐かしい感覚、死んだと思っていた感情に戸惑う……いや今は戸惑ってる場合じゃない! 三人の生活の大黒柱にならなければ! 取り敢えず明日の事を考えよう、一歩一歩確実にだ。

 風呂を上がると交代でヒエが風呂に行った。ヤエと二人っきりなのが気恥ずかしくて少し距離を取って座る。気付いたのかヤエが近寄ってくると

「何か気になるの?」

「いや……あのさ……ちょっと恥ずかしくて」

「どうして?」

「ヤエとヒエが人間になって……俺の側にいてくれて……なんて言うかこう……上手く言えない」

「不便ね……ちょっと前なら健が何考えてるか丸分かりだったのにね」

 ヤエがオデコを合わせてきた

「やっぱり分からないわ……健!?」

 ナチュラルにされた行為にポカンときっと顔も真っ赤だったろう、ヤエから逃げる様に後ろにぶっ倒れた。

「健!?」

「何してるのよヤエ……お風呂良いわよ、健は私が見ておくから」

「うっうん、お願いね」

 ヤエが風呂に行くのを確認して起き上がる、ヒエがスマホでゲームしながら。

「どうせ意識しすぎたんでしょ?」

「ヒエはどうなんだよ?」

「私も好きよ健の事」

「そうなの? 嫌われてると思ってたよ」

 あれ? ヒエとなら普通に話せる。

「まぁそうでしょうね……私がヤエばっかりだと思った? そんな事ないのよ……」

「俺なんかとか言わないでよ? アンタは立派に救ったのよ、過去がどうあれね」

「二人共もしかして俺の過去を……」

「知ってるわ、ヤエが言ってたでしょう? 過去を精算するって言うなら付き合うって」

「私も付き合うわよ」

「そっか……向き合う時が来たら頼むよ」

「ちなみに私とヤエどっちが好き?」

「……」

「黙らないでよ」

「ヒエとは普通に話せるけど……ヤエとは何か緊張するんだよ正直」

「ふ〜ん……ヤエが一歩リードって事ね」

「いやお前に関しては好きだよ……」

「素行以外な!」

 急に怒りが湧いてきた。コイツは買ったばかりのスマホでゲームしていきなり5万円課金しやがったんだ。

「ちょっと良いかなヒエ様? 楽しい人間社会のお勉強会しようか」

 問答無用でスマホを取り上げると

「ちょっと何すんのよ、今イベントで周回中なのよ!」

「ふっざけんな! 何処で覚えやがったそんな言葉! 反省してないな?」

「アンタがお風呂入ってる間によ! ちょっと返して!」

 ヒエからスマホを取り上げようと取っ組み合って居ると、風呂上がりのヤエが仁王立ちで

「へぇ〜随分と仲がいいのね? 健、ヒエ?」

「「ヒッ!? 違います!!」」

 事の経緯を説明すると

「全く……ヒエ? 寝るまで人間社会のお勉強会ね」

「健にも話があるわよ? 誰が先に……」

「明日も仕事だから俺からお願いします!」

 逆らったらヤバい気配がするので、自ら火中の栗を拾う事にする。ヒエにはイヤホンを貸したこれでヤエとの会話は聴こえないはずだ。隣の部屋にヤエと移動すると

「健はヒエの方が良いの? 私より先にヒエと出会ったから……さっき見たいに取っ組み合って……」

 ヤエの肩が震えている怒りなのか何なのか

「あ〜ヒエの事も好きだけどちょっと違う」

「どう言う意味よ」

「戦友見たいな? 相棒見たいな感じ」

「ヤエの事は……一人の女性として……意識しちゃって……不安にさせたのならごめん」

「ヒエの事はハッキリと言えるのね」

「違う! ヤエにはちゃんと気持ちを伝えたいんだ! でも怖くてさ……」

「それぐらい大切なんだよ……だから怖いんだ……ヤエ」

「健の過去は私だって知っている、もう過去なのよ?」

 そう……だけど怖い失う事が何よりも怖い、自分の死よりも……ヤエを抱き寄せる。

「ずっと側にいてほしい」

 ヤエが優しく俺の背に手を回すと

「今回はその言葉で許してあげる……先に休んでいて、ヒエに社会勉強させなきゃ!」

 ヤエが俺から離れてヒエの元へと向かって行く、俺は結局未だに前を向いて生きて行けてないって事か……

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