135.おさらい

 船旅の二日目。

 うなされている自分に気づき、僕はベッドから飛び上がる。

 夢の内容は覚えていない。しかし、身体にまとわりつく寝汗が、ろくな夢でなかったことを証明している。

 何かを追いかけ、何かに追いかけられていたような。

 誰かと話し、誰かに責められているような。そんな夢だった気がする。


 首を大きく振って、余計な思考を振り払う。

 所詮は夢だ。現実には関係ない。


 部屋のカーテンを開け、朝日を全身で浴びる。

 そこで僕は異常に気づく。スキル『感応』が危険を感じ取り、僕に最適な行動を取らせる。

 『ディメンション』を展開して、その危険の元を探し出す。

 見つけたくないものを見つけてしまい、ため息と共に部屋の外へと出る。


 少し歩いた先で、顔を暗くしたスノウが笑っていた。


「えへ、えへへへへ……」


 引き攣った笑いが痛々しい。

 その様子から、全てを察する。


「あ、あー……、昨日の聞いてたのか……?」

「うん……。ちょっと気になって、振動魔法で話を聞いちゃった……」


 どうやら、ラスティアラとの会話を聞かれていたらしい。

 『ディメンション』を使って気を張っていないと、スノウの魔力が近くに潜んでいても気づけないようだ。1つ勉強になった。


「最後まで聞いてたのならわかるだろ。勘違いするな。あれは気の迷いだ……」


 搾り出すように、僕は僕とスノウに言い聞かせる。


「で、でも、少なくとも、私よりラスティアラ様のほうが、一歩リードしてる……?」


 正直、一歩どころではないのだが、僕は優しくオブラートに包んで答える。


「……大して変わらない。同じ仲間だ。昨日のは状況が悪かっただけで、ラスティアラのことを特別には想っていないよ」


 特別に想うことができたのなら、こんなに苦労はしていない。

 偽りない自分の考えをスノウへ伝える。


 スノウは悔しいような悲しいような表情を見せたあと、少しいじけたような顔を見せる。


「……もし、カナミがラスティアラ様のことが好きでも、私の気持ちは変わらないよ? ……諦めないもん」


 少し口を尖らせて、子供のように答える。

 それは身体の大きなスノウには不釣合いな仕草だった。


 うちの低年齢メンバーよりも幼い反応を見せるスノウに僕は困る。

 けれど、「諦めない」という言葉を使うスノウから成長も感じる。ようやく、彼女の止まっていた時間が動き出し、前へ歩き出せているような気がした。


「うん……、ありがとう……」


 感謝を二重にこめて、僕はスノウの頭にぽんと手を置いた。

 スノウが子供っぽいせいか、身体が勝手に動いてしまった。


 一瞬だけ、スノウは不思議そうにして、すぐに頬を綻ばせる。よく意味はわかっていないが、撫でられていることが単純に嬉しそうだ。

 その引き攣っていない笑顔を可愛いと思いながら――、同時に罪悪感が加速していく。


 昨日のリーパーの言葉、「たらし」とか「ろくな死に方しない」とかの単語が頭に思い浮かび、僕は手をすぐに離した。

 名残惜しそうなスノウの顔から逃れるべく、僕は違う話題を出す。


「……そうだ。その、スノウ。その振動魔法による盗聴行為めないか? あまりよくないことだと思うからさ」

「え? なんで?」

「なんでって、そりゃあみんなだって聞かれたくないことくらいあるだろ……。僕とリーパーだって次元魔法は最低限しか使ってないんだぞ」

「へ、へー……。ま、前向きに検討してみるよ……?」

「ああ、頼む……」


 目線を逸らし、卑屈に笑うスノウを見て、僕は確信する。

 こいつ、絶対にめない……。


 疑いを持って、じっとスノウを睨む。

 すると、スノウは慌てた様子で逃げ出す。


「それじゃあ、これで!」

「――あ、まて! 今から、甲板で話すことがあるんだ! できれば、誰か見つけたら呼んで来てくれ!」


 遠ざかっていくスノウに声をかける。


「うん、わかった!」


 去りながら、スノウは返事を返す。

 そのまま廊下を曲がり、姿が見えなくなる。


 それを見届けたあと、僕は甲板へと上がるべく廊下を歩く。

 その途中、丁度部屋から出てくる寝起きのディアと鉢合わせする。


 ディアは少し驚いたあと、目をこすって晴れやかな挨拶をする。


「おはよう、カナミ! 気持ちいい朝だな!」

「おはよう、ディア」


 表も裏もない純真な笑顔だった。

 昨日の夜、規則正しく就寝したディアの顔には曇り1つない。睡眠不足で隈のできている僕と違い、全身から活力が漲っているように見える。


「昨日は色々あったから、すごい腹減ったな! 昨日、マリアのやつが朝飯作るとか言ってたから、ちょっと楽しみだ。けど、ちょっとでも変な味だったら文句言ってやるけどな! ははっ!」


 余りにも眩しくて、目を閉じかける。


 今のディアに悪意や妬みの感情は欠片もない。

 初めて出会った頃の、天使のようなディアそのものだ。


「あー、ごめん、ディア。朝食の前にみんなで話したいことがあるんだ。悪いんだけど、甲板に集まってくれないかな?」

「ん? わかった、カナミがそう言うならそうする!」


 僕を信頼しきっているディアは、深く聞くこともなく素直に頷いた。

 そして、元気に廊下を走って、甲板へと向かっていく。 


 その後姿を見て、涙が流れそうになる。


 たった一言二言の会話だが――何事もなく終わった。

 胃が痛むどころか、心が洗われるかのようだった。


 なんでみんなディアのようにやれないのだろう。僕も含めてだが、みんなややこしすぎる。


 ただそのディアも、ちょっと切っ掛けがあれば、レイルさんの館を更地に返すほどの凶暴性を秘めているのだが……。

 今だけは、その事実を忘れ、感動に浸る。


 そしてその後、仲間全員に声をかけていき、僕も甲板へと向かう。


 そこには仲間たち6人が揃っていた。仕事の速いマリアが甲板中央に大きなテーブルを設置していたので、6人は仲良く円を囲むように座っている。


 僕は空いていた席へ座り、話を始める。

 もう二度と、すれ違うことのない様にと願いをこめて、


「えっと、朝食の前に話したいことがあるんだ。とても重要なことだから、みんなに今、聞いて欲しい……」


 僕の全てを――。



◆◆◆◆◆



 ――全てを話した。


 包み隠すことなく、自分の能力を全員に明かした。 

 もちろん、目的も素性も細かく話した。この世界の住人でないと、はっきり伝えた。


「そ、そうだったのか……。カナミは『異邦人』だったのか、通りで……」


 一番驚いていたのはディアだ。


「ちなみに、私は知ってました。妹さんのことも。ディアとは違って」


 なぜか、マリアとディアが隣同士に座っている。

 マリアの発言を聞き、ディアの魔力がうねる。呼応してマリアの魔力もうねる。間で恐ろしい密度の魔力が絡み合い、目に見えて空間が歪みはじめる。


 慣れてきた僕は見なかったことにして、各々の反応を窺う。

 ラスティアラは大して驚いていない。

 スノウは余り興味を示していない。

 リーパーは子供のように興奮している。

 そして――


 ――なぜか、セラさんはメイド服を着て、こちらを睨んでいた。


 漫画に出てくるヤンキーのように目を血走らせているので、僕は目を向けることさえできない。視界の端で観察する限り、今の格好は不本意そうだった。


 着ている理由は予想がつく。

 ラスティアラが面白がって着せたのだろう。昨日の忙しい時間の合間に、洋服店も寄っていたようだ。よく見れば、女性陣の服装が少し変わっている。


 僕はスキル『感応』の直感に従い、セラさんへ触れずに話を進める。


 もうほんと、ずっとスキル『感応』助けられっぱなしだ。

 ローウェンありがとう……。そして、ごめん。こんなことのために教えてくれたわけじゃないよね……。


「みんな、簡単に信じてくれてるけど……。異世界って、そう簡単に受け入れやすいものなのか?」

「え……、私は魔法を使えばありえるんじゃないかと思っていますが……」


 マリアは魔法という便利な存在がある限り、ありえないことはないと思っているようだ。

 科学の発展した世界ではなく、魔法の発展した世界で育てばそう思えるのかもしれない。

 しかし、ラスティアラは別のものを根拠としていた。


「私の場合、『異邦人』という文字が見えているから疑いようがないね。何より、レヴァン教に詳しい人なら、異世界の存在を薄っすらと知っているからってのもあるかな」

「レヴァン教と異世界に関わりがあるのか?」


 レヴァン教に詳しいディアとラスティアラが答える。


「ああ、ある。伝承の中に、異世界の存在を暗示している文が出てくるんだ……」

「もしかしたら、レヴァン教の始祖ティアラは異世界と関わりがあったのかもしれないね。今の私とカナミみたいに」


 初めて聞く話だった。

 フーズヤーズの図書館でも得られなかった情報だ。二人がレヴァン教において重要な人物であることから、その信憑性は高い。


「そうか……」


 ようやく、異世界の手がかりに近いものを得た気がする。今にも消えてしまいそうな微かな希望だが、前進はしている。

 レヴァン教の伝承に詳しい2人へ、異世界移動の可能性を問う。


「僕が元の世界に戻るためには、2人はどうすればいいと思う?」


 ラスティアラは大して悩むことなく軽く答える。


「私としては迷宮の最深部を目指す方針のままでいいと思うよ。それ以外ないし」


 自分の実益も考えて、こいつにこれ以外の選択肢はないだろう。

 ディアも同様に頷いている。二人にとって迷宮の最深部に奇跡的な『何か』があるのは当然のようだった。


 そして、マリアが素人考えながらも案を出す。


「あと可能性があるとすれば、カナミさんの次元魔法を研究するくらいでしょうか……」


 確かに僕の『ディメンション』や『コネクション』の力には、その可能性を感じる。


 現状では伝承を信じて迷宮を進み、自らを鍛えるのが最善かもしれない。

 もちろん、他の手段の情報も平行して集め続けるつもりだ。大陸本土へ辿りついたら、大国の図書館や賢人などを訪ねていこうと思っている。


 そこへ、独特な意見が挟まれる。


「ねえ、カナミ。このまま、こっちの世界で暮らすのは駄目……?」


 スノウがおずおずと中途半端に笑いながら提案する。

 全員の目線がスノウへ集中する。一瞬だけ静寂に飲まれる。誰も口を出さないが、ひどく好意的な視線だった。


 しかし、僕だけは首を振る。


「駄目だ。妹の陽滝を放っては置けない」

「う、うん、わかったよ……。言ってみただけだから、怒らないで……?」


 中途半端な笑いをひきつらせて、スノウは上目遣いでお願いしてくる。

 急に怯えだしたスノウを不思議に思いつつ、僕は笑顔になる。


「いや、全然怒ってないよ」

「いえ、カナミさん。凄い表情してますよ」


 スノウの隣に座っているマリアも、スノウと同じくらい顔をひきつらせている。


「そ、そうか?」

「私は身をもって知っていますが、改めて見ると凄い兄妹愛ですね……」

「ああ、兄妹の仲はいい方だと思う。だから、戻りたいんだ」

「いや、それどころじゃない気が……。いえ、カナミさんがそれでいいならいいのですが……」


 どうやら、僕の家族愛が物珍しいようだ。過去のマリアの家族の仲は余り良くなったのかもしれない。


 そして、異世界についての話をあらかた終えたところで、僕たちは次の話に移る。

 ステータスで確認できる『注視』能力についだ。


「あと、カナミの能力についてだけど……。カナミの『目』って、私の『擬神の目』よりも上だったんだね……」

「ああ、僕のほうが上だったな。逆かと思ってた」


 ラスティアラと能力を比べてみたところ、把握できる範囲が段違いだった。

 僕の場合、ステータスの数値が0.00と小数点第二位まで表示される。しかし、ラスティアラのは小数点まではわからない。さらに装備品やアイテムもわからない。モンスターといった生き物の情報はある程度見えるが、無機物の情報は得られないらしい。


「分析魔法の『注視』も凄いけど、異空間魔法の『持ち物』はもっとやばいね……」

「やっぱり、魔法なのかこれ……?」

「たぶん、次元魔法と古代魔法の応用だね。できなくはない……はず」


 僕はラスティアラの話で少しだけ安心する。

 当初は脳や網膜を弄られているのかと怯えたものだ。今となっては多くの理不尽な魔法を見てきたため、魔法という言葉だけで納得できてしまう。

 それはそれで逆に恐ろしいことであるが。


「でも、これ――」


 しかし、なぜか話を続けるラスティアラの顔色が悪い。よく見れば、隣のディアも同じだ。

 レヴァン教関係者から見ると思うところがあるようだ。


「どうした。何か気がかりなことでもあるのか……」

「……い、いや、そんなことないよ。特殊な魔法なのは確かだけど、それだけだよ。気がかりなのは、むしろ固有スキルのほうだね。よくわからないスキル『???ハテナハテナハテナ』? ってやつとスキル『異邦人』ってやつ」


 露骨に話を変えられたことに気づく。

 しかし、そこに悪意は感じない。僕を思っての配慮のようだ。スキルも反応していないので、大したことではないと判断して何も言わない。


 ラスティアラは説明を続ける。


「一応、レヴァン教の伝承では『異邦人』という存在は、『理』から外れてしまった来訪者と言われていて……。確か、『理』に至りやすいとか書かれてたはず」

「『理』から外れて、至る……? それは強くなりやすいってこと?」

「それだけならいいんだけどね……。伝承は曖昧だから、詳しくはわからないかな……」

「ふーむ……」


 抽象的過ぎて、余り進展はない。

 レヴァン教の文献が揃っていれば話は違うが、現状では何もわからなさそうだ。しかし、レヴァン教の現人神様がこう言ってるのだから、これ以上の期待は薄い。


「で、一番問題なのは、実害のあるスキル『???ハテナハテナハテナ』だね」

「ああ、スキル『???ハテナハテナハテナ』。これが一番厄介だ」

「……ねえ、なんか格好悪いから、そのスキルの言い方変えない? 言いづらい!」

「え、あ、ああ。別に構わないけど……」


 とうとう我慢できなくなったラスティアラが咆哮する。

 正直、僕も同じこと思っていた。そして、彼女にとってはポリシーに関わるほどだったようだ。


「んー、むー、うーん。……アンノウン? いや、ちょっと悪意を感じるスキルなのでぇ……、悪意イルウィル? スキル『???イルウィル』で行こっか!?」


 手をわきわきと動かして、自信満々な様子でラスティアラは宣言する。


 間髪入れずに拍手するスノウ――照れるラスティアラ。しかし、それ以外のみんなは苦い顔である。

 ラスティアラの提案したイルウィル。これも結構言いづらい部類に入る気がする。


 少しでも格好よさそうなものを選ぼうとするそのセンスが、ディアやマリアたちには受け入れられないようだ。ラスティアラに好意的なセラさんでも、満面の笑みとは言いがたい。

 どうやら、機能的な呼びやすさよりも語感を重視しているのはラスティアラと僕だけのようだ。


「いや、悪意だけじゃなくて、救われたときもあるんだけど……」


 僕が反対するのを見て、スノウはおろおろし始める。自分の意見を持たずに媚を売りまくるからそうなる。


「いや、悪意の塊でしょこれ。これのせいでカナミの感情の上限が減ってるんでしょ? 誰かを想う気持ちまで消されたことがあるんでしょ? そんなの絶対に許せない。悪いスキルに間違いないよ」


 ラスティアラは本気で怒っていた。

 ちなみに、スキル『???』についてだけは話をぼやかした。大したことでないかのように、少し気持ちを消されたことがあると説明しただけだ。

 誰への気持ちかは言っていない。言えば、昨日の話がこじれるのはわかっている。


 仕方がない判断とはいえ、心苦しい。仲間を信頼すると誓っておきながら、それを完全に実行することができていない。


 しかし、それでもラスティアラは無形のスキルを敵とみなす。

 他のみんなも同意見のようだ。口には出さないが、表情から察するにかなりの怒りを感じてそうだ。


「……そうだな。わかった、そうしよう」


 僕は頷く。元々、大して反対する気はなかった。

 ただ、僕の反応に一喜一憂しているスノウはおおげさに息をついていた。


 スノウは放置して、僕はラスティアラに聞く。

 今日の本題だ。


「それで、ラスティアラかディアの魔法で、スキル『???イルウィル』をどうにかできそうか? できれば消したいんだ」

「いや、流石にスキルを消すなんて話は聞いたことないかな……」

「そこをどうにかできないか? 多少無理をしてでもいい。ちょっとの代償くらいなら我慢できる」

「結構必死だね……。救われたこともあるとか言ってたのに……」


 僕自身のスキル『???』への怒りは話せていないので、ラスティアラは不思議がっている。


「なら……、封印。封印ならどうだ? パリンクロンのやつは封印できてたぞ?」

「封印もできないかな。おそらく、パリンクロンがやったのは魔法じゃなくて、『呪術』の応用。しかも『闇の理を盗むもの』ティーダの力を借りてだろうから、いくら私たちでも真似できないね……」

「……そうか。……なら、極力発動しないようにするしかないな」


 そう上手い話はないようだ。

 僕は歯噛みしながら、スキル『???』消去を一旦諦める。


「とりあえず、混乱が8.00を超えたらカナミは戦闘不可ね」

「え……?」


 唐突にラスティアラが制限を決め出す。

 僕は驚いたが、他のみんなは当然といった風に聞いている。


「当たり前でしょ。10.00になったら発狂するんだから。本当は0.00のとき以外は外出しないで欲しいくらいだよ?」

「いや、大丈夫だよ。10.00になりそうだったら、発動しないように気をつけるから」

「じゃあ、もしカナミが逆の立場ならどう思う?」


 ラスティアラは論破しにかかってきていた。僕は状況の不利を悟り、早々に諦める。


「そうだな……。たぶん、同じことを言うと思う。わかった、ラスティアラの判断に従うよ」

「うん。素直でよろしい」

「僕の話はこれで終わりだ。次はみんなの能力についても、詳しく聞かせて欲しい。これからの迷宮探索の参考にしたい。『注視』だけじゃあ、わからないことが結構あるからね」


 ステータスは見えているものの、細かいところまではわからない。特に習得している魔法が見えないのが一番困る。

 今現在、誰がどんな魔法が使えるかを把握しておきたい。特にマリアの魔法だ。


「はい、ストーップ!」

「はい、どうぞ。ラスティアラさん」


 自己主張激しいラスティアラの発言を許す。

 放っておいたらうるさいので、仕方なくだ。


「その『注視』というのも変えない? せっかくだから、それっぽい名前つけよう」

「またか……」

「だって、なんかわかりにくいし! そもそも、後々私の冒険は本にして売られるんだから、もっとわかりやすくしないと!」

「……好きにつけたらいい」


 ラスティアラのネーミングセンスに文句はないので僕は許す。


「やった。何かの名づけ親になるって、なんだかちょっと楽しいんだよねー」


 スキル『???』で味を占めたようだ。ただ、その考えには僕も同意だ。

 楽しそうに隣のディアやスノウと話し合い始める。

 こうして、話し合いは無駄に長引いていく。


「決めるなら、さっさと決めろよ……」

「カナミさん。私はこういうことに興味ありませんので、朝食の用意をしたいと思うんですが……」

「そうしようか。僕も手伝うよ」


 その後、なかなか決まらない名前の話し合いに堪えかね、僕とマリアは朝食を作りに席を立つ。


 しかし、結局、朝食が完成しても決まっていなかったため、僕の独断で名前は決定される。


 『注視アナライズ』『持ち物ディ・ポーチ』となった。

 ゲーム的な発想からの命名だったが、ラスティアラには好評だった。スノウの反応はもう見ない。


 そして、朝食をテーブルに並べたところで、迷宮探索のパーティー分けの話へと移っていく。



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