第71話 目指せ! 国家治癒師免許試験短期合格

「皆さん、朗報があります! 今朝、聖女様の決裁を取得しまして……国家治癒師免許試験を臨時開催していただけることが決定しました!」


 午後、いつもの講義室にて。

 俺は教壇に立つと、開口一番みんなに今朝の収穫を報告した。


「日程についてはまだこれから正式決定するところですが、最短だと一週間後に試験を実施いただけるそうです。なので皆さん、それを目安に合格できる実力を身につけましょうね!」


 激励の意も込めて、俺は軽くガッツポーズしながらそう続ける。


 がーー隊員たちの反応はというと、俺の思いとは裏腹に、ほぼ全員が青ざめてしまっていた。


「あれ……皆さんどうしました……?」


 もしかして、今日の午前中の間に何か新しい任務が入って、しばらく試験勉強に専念できそうにないとかだろうか。

 それならそれでモルデナさんにリスケをお願いするだけなので、そこまで青ざめなくてもいいのだが。


「い、いやその……い、一週間ですか⁉︎ 治癒師見習いが年単位かけて勉強してやっと受かる難関試験を⁉︎ 申し訳ないですが、とてもできる気が……」


 と思いきや、どうやら隊員たちは準備期間の短さが不安なだけのようだった。

 なんだ、それなら余計心配はいらない。


「ご安心ください。皆さん、習得に通常数年かかる魔法を一週間で覚えたばかりじゃないですか。勉強だって、同じことですよ! 今回も様々なサポートを用意してますので、スケジュール感はこれで何も問題ないです!」


 言いながら、俺は説得力を出すために、ここ一週間で準備した魔道具を三つほど取り出し、机の上に置いた。


「例えば……こちらをご覧ください。これは『ヒーリングフィールド』という、一定範囲にて治癒魔法効果を継続発動する魔道具です。これで皆さん全員の前頭前野と海馬に、収束度を上げたパーフェクトヒールと同等の効果をかけ続ければ、皆さんの学習能力と記憶力が尋常じゃないくらい上がります」


「お、おお……」


「次にこちらは、映像学習用立体投影装置です。再生速度を自由に変えられるため、学習能力上昇状態の自分の限界にあわせて授業を爆速視聴すれば、膨大な内容も短期で詰め込むことが可能です!」


「ほお……」


「そして最後に、これが個別指導用人造妖精です。これは過去問周回時に使うもので、答えに詰まった時に適切なタイミングで必要最低限のヒントをくれるので、最高効率で演習を進めることができます。何周もするごとにどんどんコイツに頼る率が減っていって、自分の成長も実感できるでしょう!」


「おおお……!」


 魔道具を三つ紹介し終える頃には……さっきまで青ざめていた隊員たちの表情が、希望に満ち溢れていた。


「ここまで手厚くお膳立てしていただければ、なんだか行ける気がしてきました! いえ、必ず達成して、期待に応えます!」

「同じく私も!」


 俄然やる気を出し、次々とそう宣言してくれる隊員たち。


「ありがとうございます! では一分一秒も無駄にできないので、早速始めましょう」


「「「お願いします!」」」


 こうして、短期集中講義の第二弾が始まることとなった。


 ◇


 一週間後。


 俺は勉強を終えた隊員たちを連れ、治癒師会が用意してくれた試験会場に到着した。


 勉強開始から四日目くらいに全員の進捗を確認したところ、皆あと三日で合格ラインに十分達しそうなところまで来ていたので、俺はモルデナさんに伝えて今日を試験日として確定したのだ。


 なので全員、実力は余裕で足りているはずなのだが……隊員たちはと言えば、不安と緊張が混じったような表情で会場が開くのを待っていた。


「皆さん、昨日教えた『お守り』は覚えていますね?」


 緊張をほぐすべく、俺は皆にそう声をかける。


「困ったら、収束度を上げたパーフェクトヒールを自分の海馬にかけてください。万が一回答に詰まっても、それをすれば必ず思い出せますから。まあ皆さんのことなら、使うまでもなく試験が終わると思いますけどね」


 この「お守り」は、俺自身が試験を受けた時にも使ったものだ。

 一夜漬けの定着度でさえ有効だったんだから、一週間もかけて勉強した内容なら、100%これで思い出せると断言していいだろう。


「もちろん覚えてます!必ずや合格いたします!」

「私もです!」

「「「ハダル先生に誓って!」」」


 うん、なんだその掛け声は。

 さてはお前ら、見た目以上に余裕だな。


 まあ、それならそれに越したことはない。


「行ってらっしゃい!」


 俺はそう言って会場入りするみんなを見守った。

 さて、あとは朗報を聞くだけだな。


 ◇


 それから更に四日が経ち。

 ついに……試験結果の発表の日がやってきた。


 今俺たちが集まっているのは、営内の郵便受けの前。

 皆結果が気になりすぎて訓練に身が入らないとのことで、ロニー隊長の計らいにより、一番早く結果が届く場所で全員で待とうということになったのだ。


 通常であれば国家治癒師免許試験の合否発表は全国各地の会場で掲示板を用いて行われるのだが、今回は受験者数の限られた臨時開催ということもあり、試験結果が直接郵送で(合格であれば免許証も含め)届くこととなっている。


「お願いです……どうか合格しててください……」

「これで落ちてたら、ハダル先生と聖女様に合わせる顔がありません……!」


 皆それぞれに、良い結果をこれでもかと祈る隊員たち。

 そんな中……待ちに待った郵便配達員が姿を現した。


「うおおっ、凄い人だかりだ……!」


 郵便配達員は、届け先に人が集まっているという異常な光景に驚いてかそんな言葉を口にした。


「ちょっと失礼します」


 隊員たちは、配達員がマジックバッグから中身を取り出す時間さえ待ちきれない気分だろう。

 そう思った俺は、送付元が治癒師会となっている荷物のみを対象に亜空間干渉型念動魔法を発動し、全員に郵便物を配ってあげた。


「あれれえ、マジックバッグの中身が……」

「お邪魔してすみません。他の荷物には手を出さないので、お仕事続けてください」

「え、てことは今のって君が……? いったいどうやって……」


 ぽかんとしている配達人……は申し訳ないけど一旦置いとくとして、みんなの結果確認の様子に目を向ける。


「き、緊張するな……」

「ああ、まったくだ……」


 隊員たちはといえば、震える手で封筒を開けているところだった。


 それから数秒後。


「免許、あったぞー!」

「俺もだー! やったぁぁぁ!」

「ハダル先生、やりましたあぁ!」


 隊員たちが、次々と喜びの叫び声をあげだした。


 結果はーー全員合格だった。


「皆さん、本当におめでとうございます。これで増えた分の魔力の有効な使い道ができましたね!」


「はい、これからはより一層救命活動で成果を出します!」

「このご恩は一生忘れません!」

「「「ありがとうございました……!」」」


 隊員たちは感動で涙ぐみながらお礼を言ってくれた。


 ひとまず、これで最初の仕事は一件落着だな。

 ここから更に「ゼルギウス・レンジャー」に別の何かを教えることになるのか、それとも存在自体が秘匿された方の精鋭部隊への指導の話が出るかは不明だが、とりあえずアミド人事部長に成果を報告しないとな。






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