第68話 みんなで治癒師資格を取ろうーー1
その後、ロニー隊長からも正式に指導に移行することへ合意してもらった俺は、営内の講義室にて、早速午前中に考えていたカリキュラムを展開することとなった。
アミド人事部長が応接室を出ていった後……俺は彼に教えてもらった「ゼルギウス・レンジャー」の活動内容をもとに、どうすればこの部隊が三倍の魔力を活かし、より一層活躍できるかについて思考を巡らせていた。
その中で……俺が着目したのは、「人道支援」そして「災害救助」の部分だ。
おそらく彼らの仕事の中には、「けが人を安全な場所に移す」であったり、「応急処置を施した上治癒師に引き渡す」であったりといったものもあることだろう。
だとすれば、その仕事をよりスムーズに行えるようにしたり、あるいは隊員の裁量を増やせるような魔法を教えれば、魔力の有効活用に大きく貢献するのではないか。
そんな仮説を立てつつ、俺は(合同訓練の予習も兼ねて)彼らの訓練の様子を「見学」しに行ったのだが……そこで俺は仮説が正しいことを確信することとなった。
というのも……その時の訓練内容、「治癒師に帯同して身辺警護を行いながら、負傷者が多発している危険地域まで誘導する」というものだったからだ。
その訓練では、治癒師が「普段体力向上のトレーニングなどは行っていない、身体能力的には一般人レベル」であることを想定して、険しい道をゆっくりと、治癒師役を補助しながら進んでいた。
また、治癒師が敵に攻撃された場合を想定した立ち回りも訓練内容に盛り込まれていた。
正直ーー素人の感想ではあるが、俺にはそれが非常にやりにくそうに見えた。
そこで俺は考えたのだ。
「ゼルギウス・レンジャー」の隊員自身が治癒魔法を身に着けた方が話が早いんじゃないだろうか、と。
というわけで、今想定している特別講義の内容は以下の二点だ。
まず一つ目は、怪我の治癒を目的とした各種治癒魔法及び「パーフェクトヒール」の習得。
そしてもう一つは、国家治癒師免許試験に短期間で合格することを目指した集中講義だ。
一点目に関しては、「ゼルギウス・レンジャー」が赴く現場が主に被災地や紛争地帯である以上、病気より怪我の治癒の方が頻出かと思いそのような魔法のラインナップとした。
ちなみにその類の魔法の術式はだいたい「パーフェクトヒール」の魔法陣の一部を切り出したようなものなので、とりあえず俺は「パーフェクトヒール」だけ教えてあとは自習してもらうつもりだ。
二点目に関しては、法令上免許がないと業務として一定以上の重傷者を治癒できないのでそのしがらみをなくそうってだけのものだ。
これが”戦術戦技”指導かと言われれば怪しいところかもしれないが……怪我した一般人の安全確保が効率化されれば取れる戦術の幅も自ずと広がるので、全く当たってないということは無いだろう。
もっと直接戦いの技術に焦点を当ててほしいという要望があれば、後でそういう内容を追加すればいいし。
「皆さんお疲れ様です! それでは早速、特別講義に入らせていただきますね」
「「「よろしくお願いします!」」」
教壇に立って授業開始の挨拶をすると、皆声を揃えて返事を返してくれた。
体力調整運動終了直後の雑談の時はタメ口だった隊員たちも、ここからは敬語で来るようだ。
俺としてはどっちでもいいのだが。
「講義内容はかなり自由に決めさせてもらえる感じでしたので、何をお教えするか迷ったのですが……参考にするために、実は空中から午前の訓練を見学させていただいてました。皆さん、『治癒師を危険区域まで安全に誘導する』という任務を請け負うことがあるようですね」
まずはこれからやる内容を決めた経緯の説明から入ろうと思い、こっそり偵察していたことを話す。
「「「な……え……?」」」
すると……隊員たちはお互いに顔を見合わせたりしながら、少しざわめきだした。
「あの……早速すみません。一点よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「いったいどこからどうやって観察されていたのですか? 訓練内容がそこまで詳細に分かるほど近くで見られていたなんて、全然気づかなかったのですが……」
ああ、なるほど。
何にざわめきだしたのかと思えば、周囲を警戒してたのに全く俺に気づけなかったからか。
「あ、いや全然近くからとかじゃなくて結構な高高度からですよ。会話も集音魔法で聞かせてもらっただけで、全然声が聞こえる距離にお忍びで隠れてたとかじゃないです」
「な、なるほど……。すみません、説明されてもよく分かりませんでしたが、とりあえず人間業じゃなかったことは理解いたしました」
「ええ……」
それは理解したと言うのだろうか。
まあとりあえず、見学方法を理解できたかどうかはここからの内容と全く無関係なので、先に進めさせてもらうとするか。
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