第61話 逸材、登場

 それから二週間が経ち、俺は学園対抗武道大会の当日を迎えることになった。


 武道大会が行われるのは、王都の隣町にある闘技場。

 ゼルギウス王立魔法学園とメトロキャピタル魔法学園のほぼ中間に位置し、収容人数もそこそこ多いため、毎年この闘技場で大会が行われているのだそうだ。


 双方の学園生はこの大会を観戦できることになっていて、ゼルギウス王立魔法学園の生徒たちは皆、三日前から会場に向かって移動しているのだとか。

 ……「のだとか」というのは、俺は先生に許可を取って別行動をしていたのだ。


 どうせ三日も授業が空くなら、別のインターンにでもいくか、フランソワに稽古をつけた方が時間を効率的に使えるからな。

 ちょうど日程の合うインターンが見当たらなかったので、俺はインフェルノ大陸に行ってフランソワに戦術指導をしていた。


「じゃあな、フランソワ。また来る」


「アニキ〜、オラも行っちゃだめなんっすか〜?」


「お前もついてきたらいったい誰がアシュガーノ岬を守るんだ」


「それはそうっすけど……。アニキが『逸材』と認めるような相手との試合、見たいに決まってるじゃないっすか〜!」


「……分かった。じゃあこの中継魔道具を置いていくから、これで我慢してくれ。臨場感は抜群なはずだ」


 フランソワがどうしても試合を見たそうだったので、俺はフルダイブ仮想現実投影型中継魔道具を作って渡しておくことにした。

 この中継魔道具なら、何なら俺視点で見ることさえできるので、普通の観戦者以上に臨場感を感じることができるだろう。


 あと、俺は「逸材」に関しては認めたというより伝聞でしかないんだがな。

 ま、そこは訂正しなくてもいいか。


「これ……『モード1』って、アニキ視点っすか?」


「ああ、そうだ」


「ちょっと動いてみてください!」


 ……それは魔道具の性能を試したい、という意味か?

 俺は身体強化を用い、そこら中を縦横無尽に飛び回ってみた。

 すると……。


「す、すげえっす! まるでアニキに憑依しているかのような臨場感……!」


 フランソワはそんな感想を口にした。


「気に入ってもらえたか?」


「もちろん! じゃ、オラはここで魔物を見張りながら、試合を楽しみにしときますね!」


 どうやらフランソワに満足してもらえたようだ。

 一件落着、などと思いつつ、俺はグレートセイテンの雲(魔力温存のため今回は竜化魔法で飛んではいかない)を用いて試合会場に飛んでいった。



 ◇



 闘技場に着くと、俺は足早に選手控え室へと向かった。

 控え室に入ると、そこにはリヒトやもう一人の選手の他に、イアン、ジャスミン、セシリアもいた。


「選手の緊張を和らげ、ベストパフォーマンスが出せる一助となるように」という理由から、控え室には選手本人の他、その友人も入れるようになっているのだ。

 なので当然、リヒトやもう一人の選手の友人もちらほらいる。


「遅いじゃないか、ハダル。もう先鋒の選手、試合場に上がったぞ?」


 イアンは俺と目が合うなり、そんなことを言ってきた。

 もう一人の選手、いるのかと思ったら、もうここにはその友人しかいないのか。

 顔も知らないから分からなかったな……。


「いや、俺もほんとはもう5分前に来るつもりだったんだけどな。フランソワが試合を見たいってワガママ言うから、中継魔道具を作ってたらこんな時間になってしまった」


 とりあえず、イアンの発言に対してはそう言い訳しておく。

 いや、言い訳というか、5分前集合をするつもりだったのは事実だ。

 地図を見て、ちゃんと所要時間と出発時刻は計算していたからな。


「5分前て……開会式は元々出ないつもりだったのか……」


 イアンが更にツッコミを重ねる中、ジャスミンは魔道具の方に興味を持ってこう尋ねる。


「フランソワって、あのインフェルノ大陸のドラゴンよね? いったいどんな魔道具を渡してきたの?」


「フルダイブの仮想現実投影型の中継魔道具だ。視界全体で現地に没入する、って感じだな」


「へえ……面白そうね。私達もそれで観戦しようかしら?」


「じゃあ、作ろっか」


 というわけで、俺はみんなの分も魔道具を作りながら観戦することに。


 しかし……1個作り終えたところで、俺は作業を中断せざるを得なくなってしまった。


 というのも……ウチの先鋒の選手が、メトロキャピタルの先鋒、中堅をあっさり撃破してしまったのだ。


 つまり、次からは「逸材」戦。

 みんなには申し訳ないが、ここからは俺も対戦相手の分析に入らなくてはならない。

 試合がどれくらい長引くかにもよるが、みんなには代わりばんこでこの一個を使ってもらうとしよう。



「最初の2戦、圧倒的だったね……」


 試合を覗ける窓のところに移動すると、セシリアがそう言って話しかけてきた。


「まあ、ウチだけワクチンを打ってるからな」


 正直、ここまでの展開は俺も予想していたことだ。

 ゼルギウス王立魔法学園側は全員フルワクチンなのに対し、メトロキャピタル側は、Sランク冒険者の職域接種で受けた「逸材」のみがワクチン接種済みとなっている。

 ゆえに、最初の2戦は魔力増加の恩恵を受けている者VS受けていない者、となるのだ。


 そのことを考慮すれば、ここまでの流れは予想通りだ。


 と、思ったが……そこでイアンが、こんな補足を入れだした。


「もちろんそれもあるだろうけど、ここまでは正直、例年通りの流れだよ」


「例年……通り……?」


 俺はイアンの言葉に疑問を抱いた。

 今年のような事情があるならいざ知らず、普段の年に先鋒間、中堅間で実力が開く理由が分からないのだが。


 イアンはこう続けた。


「メトロキャピタル魔法学園の入学式ガイダンスの有名な台詞、知ってるか? 『1%の天才さえ見つかれば残りの99%の人は不要です。単位あげるので早く卒業してください』なんて言うんだぜ? そんな学園だけあって、だいたい毎年メトロキャピタルの編成は先鋒・中堅が99%の”その他”、大将が1%の天才で組まれるんだ。対してウチの学園は、粒ぞろいだがみんな平均的な傾向にある。だからたいてい、『先鋒で2人削って、3人がかりで天才の体力を削る』的な展開になるんだよ」


 ……なるほど、選手間の実力のバラつきがデカいのか、メトロキャピタル。

 にしてもその入学式のガイダンス、言われた側は結構ショックだろうなあ……。


「その意味じゃ、今年はウチの方がメトロキャピタルね」


 ジャスミンよ、それはどういう意味だ。

 と心の中でツッコんでいると、イアンは更にこんなことを口にする。


「特に……今年のメトロキャピタルには『イケメンパラダイス』のアフロディーテが控えてるからね。多分、ウチの先鋒と中堅は全く歯が立たないよ」


 おっとあぶねえ。

 すんでのところで、「ウチの先鋒と」までの間にリヒトの周辺に防音結界を張るのが間に合った。

 一応こちらの戦力なんだから、士気を削ぎかねない発言は聞こえない声量でしてくれよな……。


 まあ、それはそうとしてだ。

 イアン、「逸材」の正体を知っているのか?

 校長先生でさえ、名前とかまでは言ってくれなかったんだが……王族ゆえに、特殊な情報網でも持っているのだろうか。


「『イケメンパラダイス』のアフロディーテ?」


 俺はそう聞き返した。

 対戦選手に関する事前情報は、あるに越したことないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る