第59話 上級生の不満
「じゃ、君は大将として選手登録しておくね」
出場を表明すると、校長先生はそんなことを言って、何やら書類に書き始めた。
……大将?
「大将って、どういうことですか?」
言ってる意味が分からなかったので、質問してみることに。
すると校長先生は、こう説明してくれた。
「ああ……そういえば、大会のルールを説明していなかったね。この大会は、勝ち抜き戦方式の団体戦なんだ。各校は先鋒、中堅、大将を決めておいて、試合では先鋒から順に出場する。こちらの先鋒が勝てば、こちらの先鋒が敵の中堅、大将へと挑んでいけるし、こちらの先鋒が負ければ中堅を出して、それも負ければ大将を出して……となる。要は、君にはトリを務めてもらいたいんだ」
えと……要は、俺は最終手段として温存されることになる、ということか。
「ありがとうございます」
俺はそう返事をしておくことにした。
自分がトリにふさわしいなどとは全く思わないが、この配置には先生側による配慮の意図があると思ったからだ。
おそらく、「俺が『逸材』戦までに消耗しないで済むよう、『逸材』以外を上級生に片付けてもらおう」という作戦なのだろう。
どうせ「逸材」と戦うならベストコンディションで挑みたいので、俺としてもありがたい。
と、思ったのだが――。
「よ、良かった。他の先生方から、ハダル君は時々過度に謙遜するフシがあると聞いていたからね。『僕なんて先鋒でいいです』とか言われたらどうしようと思っていた。もしそんなことになりでもすれば、先鋒が一人で三人とも倒しちゃって、『不適切な人員配置で必要以上にメトロキャピタルの体面を汚した』などと批判されてしまっただろうからね」
なんか校長先生、とんでもないことを言い出した。
だからなんでさっきからこの人は俺が全員に勝てる前提なんだ……。
ま、いっか別に。
かなり期待されてるっぽい以上、もし負けたら校長先生にはかなりがっかりされるかもしれないが、少なくとも「出場選手の就職先は一般的な卒業生より良い傾向にある」以上、仮に負けても就活に不利になることはないのだ。
俺は俺にできることをやろう。
人事を尽くして天命を待つ、だな。
などと思いつつ、俺は校長室を後にした。
◇
数日後。
なぜか俺は、再び校長室に呼ばれた。
行ってみると、そこには思いつめた表情の校長先生が。
「どうなさったんですか?」
様子を変に思い、聞いてみると……校長先生はこう答えた。
「その……とても言いにくい話なんだが、実は上級生の出場選手の中に『自分が大将じゃないなんて納得がいかない』とゴネる子がいてね……」
ああ、そういうアレか……。
俺は校長先生の話を聞いて、何とも言えない気分になった。
まあ、気持ちは分からんでもない。
その上級生は去年の段階で「来年の大将は君だ!」みたいに言われてたかもしれないし、だとしたら選手発表の日は梯子を外されたように感じただろうからな。
全ては「逸材」とやらのせいなので不可抗力っちゃ不可抗力なのだが、なんかいたたまれないような。
などと思っていると、校長先生はこう続けた。
「説得のために、我々教師陣が知る限りのハダル君の功績を話しても、『話盛るならもうちょっと現実的なラインでやれよ。どうせお前らグルだろ?』の一点張りでね……」
あ、なんかちょっと同情しなくていい気がしてきたな。
「どうせお前らグルだろ?」って、明らかに教師陣が俺に忖度してると決めてかかってる態度だもんな。
俺の親は貴族でも財閥でもないので、そんな権力はないんだが。
……ドラゴンに育てられてはきたけど。
「そこで一つ、できればお願いしたいことがある。学園対抗武道大会に先立って、学内大将決定戦を開くので、そこの勝者を大将にする、という形にさせてもらえないだろうか?」
最終的に校長先生は、そんなお願いで話を締めくくった。
たしかに、それが一番手っ取り早く円満解決できそうだな。
説得現場にいなかったので、「盛るならもうちょっと現実的なラインでやれよ」というのがどういう話の流れから出た発言かは分からないが、本当に先生方が話を盛っている可能性はゼロではないし。
入学試験や授業中のことなど、先生が直接関わった話については、事実がそのまま伝えられているだろうが……インターン関係の話とかだと、尾ひれがついた話を先生が鵜呑みにしてしまって、そのまま上級生の選手に伝えた可能性もある。
その辺の整理のためにも、お互いの実力を確認し合って、納得の上で出場順を決めるというのは悪い話ではないだろう。
もしそれでその上級生が俺に勝つようなら、「逸材」と戦うのもその人の方が適任って話になるしな。
まあその場合は、俺が今年出場する意味がなくなってしまうのだが。
「分かりました。ではそれでいきましょう」
「本当にすまない。聞き入れの悪い上級生のせいで、君の手を煩わせることになってしまって……」
「いえいえ。学内大将決定戦はいつやりますか?」
「君さえ良ければ、今日の放課後にでも」
「俺はそれで大丈夫です」
というわけで、俺は大将を決めるために上級生と戦うことになった。
どんな人が来るんだろうな……。
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