第57話 社長の反応

 建物周辺に着くと、竜化魔法を解いて人の姿に戻り、社長室へ。


「ハダルです。戻りました」


 ドアをノックしてそう言うと、中から「入ってくれ」と声が聞こえてきたので、開けて中に入った。


「お疲れ様。どこへ行っていたんだ?」


 開口一番、ヒセロ社長からそんな質問が飛んでくる。


「インフェルノ大陸です」


「い……インフェルノ大陸!?」


 行った場所を告げると……社長は目を丸くした。


「確かに、ハダル君があの大陸を攻略したという話は噂レベルでは聞いている。しかし君は出発前、弊社の営業用の資料を作ると言っていたはずだ。いったいどこにインフェルノ大陸なんかに行く必要性があるというのだ!?」


「ちょっと知り合いに協力を仰ぎたくて」


「インフェルノ大陸に知り合いだと……」


 目的を伝えると、社長は頭を抱えてしまった。


「まあいいや。それで……どんな資料ができたんだ? 見せてくれ」


 まるで「考えるのをやめた」とでも言わんばかりに、社長はしきりにうなずきながら、俺に本題に入るよう促した。


「その前に、こちら用が終わったので返却します」


「あ、ああ。そうだったな」


 まずN2ブラスト4基を再納品してから、映像再生用魔道具を取り出し、説明に入ることにした。


「これは映像を再生できる魔道具です。インフェルノ大陸には、再生するための映像を撮影しに行っていました。これを見た客は、火災保険の購買意欲が掻き立てられることでしょう」


 などと言いつつ、魔道具を起動する。

 フランソワの竜の息吹とN2ブラスト4基が拮抗する様が、テロップ・音声入りで大々的に映し出された。


「な、ななな何なんだこれは……」


 映像を見たヒセロ社長は、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「こんな衝撃映像が用意されるなんて、一体誰が予想できるというんだ……」


 映像の再生が終わっても尚、しばらくの間、彼の硬直状態は解けなかった。

 かなり時間が経ってから、ようやく我に帰った社長は……ふと気づいたように、こんなことを聞いてくる。


「ところで……もしかして君の言う『インフェルノ大陸の知り合い』って、このドラゴンか?」


「はい。撮影協力として、迫力のあるブレスを吐いてもらいました」


 答えると、社長は再度頭を抱えてしまった。


「ブレスを『吐いてもらいました』……。もう一生聞くことの無さそうなフレーズが出てきたぞ……」


 ……あれ。大丈夫かな、この反応。

 もうちょっとこう、「これなら保険も飛ぶように売れるだろう!」みたいな反応を期待していたのだが、思ってたのと違うような。


「で、これ使えそうですか?」


 少し不安になり、俺はそう尋ねた。

 するとヒセロ社長は、斜め上の回答を返した。


「そ、それはもちろんだ! こんな見た人の感覚を麻痺させられる衝撃映像があれば、一気に契約までたたみかけることができるだろう!」


「ええ……」


 いや、俺あくまでN2ブラストの魅力を引き出そうとしただけなんだけどな。

 そんな洗脳みたいな心理効果を狙ったんじゃなくて。


 ま、商品自体に自信があるんだし、映像のショックで契約する人が増えて顧客満足度が落ちる……なんてことにはならないだろうからいいか。

 思っていたのとは違ったものの、とりあえず採用はしてもらえそうなので、俺は自分の中で及第点ということにすると決めた。


 となれば、あとはこの会社の営業担当に人数分、同じ魔道具を作るだけだな。


「分かりました。じゃあ映像再生用魔道具も量産して納品します」


「こんな大層なもの、量産などできるのか?」


「元データがありますから。ただの映像再生用魔道具を作って、あとはインポートするだけでいくらでも量産できますね」


「言ってる単語が良くわからんが……まあ量産できるというなら、ありがたい限りだ」


 話がついたので、俺は一旦魔道具を量産しに、借りてた空き部屋に向かった。



 そして、一時間後。

 営業担当の人数分の映像再生用魔道具を手に、俺は再び社長室を訪れた。


「できました」


「これすらも一日でできてしまうのか……。君といると、スピードの感覚がおかしくなりそうだ」


 なんかへんなことを言われてる気もするが、とりあえず納品完了。


「では、売上報告の方、楽しみにお待ちしております」


 そう言って俺は社長室を後にしようとした。


 が……その直前、社長から声がかかる。


「ちょっと待ってくれ」


 社長はそう言って、机の引き出しをガサゴソと探った。

 そして一枚の紙を取り出しつつ……彼はこう続ける。


「噂に聞く程度だったが……実際関わってみて、君の凄さは良く分かった。君ほどの人材、報酬を渡してそれっきりなんてもったいないことはできないな。卒業したらウチの取締役になってくれないか? トライダイヤとか先約がいるなら、社外取締役でもいいから」


 そう言う彼の手元にあったのは……取締役選任の契約書。

 あれ、この光景前もあったような。


「ありがとうございます。検討します」


「是非頼む」


 俺は契約書を収納魔法にしまった。

 これで二社目の内々定ゲット、か。

 一年生にしては順調だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る