第56話 営業用の資料
「すみません」
「なんだ?」
「先ほど納品したばかりのところアレなんですが……N2ブラストの方、今日一日だけ持ち帰らせてもらっていいですか? 用を終えたらすぐまた納品し直すんで」
一つ案を思いついた俺は、ヒセロ社長にそう持ちかけた。
「構わないが……なぜだ?」
「ちょっと宣材映像を作ろうと思って」
「宣材……映像……?」
目的を告げると、社長はぽかんとした様子で聞き返してくる。
「えーと……御社の営業担当が使うのに良さげな資料を作ろうと思いまして」
おそらく引っかかっているのは「映像」の部分だろうと思い、俺はそう言い直した。
「商品開発だけじゃなく、営業にまでテコ入れしてくれるというのか。ありがたい限りだ。ぜひ頼む」
社長はそう言って、N2ブラスト持ち帰りの許可を出してくれた。
「報酬が歩合制ですから。当然のことです」
「何が出来上がるのかは皆目見当がつかないが……私から言えることはただひとつ。君が作るものというだけで期待してるぞ」
「……ご期待に沿えるよう頑張ります」
なんか余計なプレッシャーをかけられた気がするが、まああまり負担には思わないようにして、アイデアを形にすることに集中するとしよう。
N2ブラストを収納すると、俺はゼルギウス
◇
俺が思い描いている、宣材映像のアイデア。
それは……「インパクトのある消火現場の映像」だ。
となるとロケ地は、当然のように限られてくる。
そう、インフェルノ大陸だ。
竜化魔法を使うと、俺はインフェルノ大陸までひとっ飛びした。
インフェルノ大陸の沿岸部では、フランソワが暇そうな感じで大陸から出ていこうとする魔物の処理をしていた。
「あ、アニキじゃないっすか! 今日はどうしたんっすか?」
気だるそうなフランソワだったが、彼女は俺に気づくなり急激にテンションをぶち上げてそう聞いてきた。
「ちょっと撮影したいものがあってな。協力してもらえるか?」
「撮影……? よく分からないっすけど、アニキのためならもちろん!」
フランソワに頼むと、協力を快諾してくれた。
じゃあ早速、準備をしていくとしよう。
収納魔法で5つ魔石を取り出すと、俺は魔道具を作成し始めた。
内訳は1カメ〜3カメまでの撮影用魔道具、映像編集用魔道具、そして映像再生用魔道具だ。
「それ、オラも手伝ったほうがいいっすか?」
魔法陣を刻んでいると、フランソワが作業を分担しようとしてくれた。
「いや、まだ大丈夫だ」
気持ちはありがたいのだが……フランソワはどの魔道具の魔法陣も知らないだろうし、教えている暇があれば魔道具5個くらい完成してしまうからな。
というか、俺が今回フランソワに頼みたいのは被写体としての協力だ。
5つの魔道具が完成すると……うち映像編集用・再生用魔道具は一旦収納魔法でしまい、撮影用魔道具は空に飛ばした。
さらに収納魔法からN2ブラスト4基も取り出すと、全部のリミッターを一時解除し、これまた空中に飛ばす。
準備が整ったところで、フランソワに指示を出す。
「悪いけど、一旦ドラゴンの姿に戻ってくれ。そしてあの辺でホバリングしといてくれ」
空中の一点を指しながら、俺はそう言った。
「分かりました! ちょっと待って下さいっす!」
フランソワは慌ててドラゴンの姿に戻り、所定の位置に着く。
「じゃあ、俺が合図をするから、カウントが0になったら竜の息吹を放ってくれ。魔法の術式の構築は普段よりかなりゆっくりで、威力は最小限で」
「了解っす! いつでも撃てるっす!」
「分かった」
俺は撮影用魔道具の録画ボタンを押して回った。
「行くぞ。3……2……1……はい!」
合図を出すと……フランソワは大きく口を開け、竜の息吹を発動させだした。
時間をかけて術式を構築してもらってる間に、N2ブラスト4基がそれを検知し、液体窒素の発射体勢に入る。
一瞬遅れて……両者が同時に放たれ、中間地点でぶつかり合った。
両者の威力はまさにトントンで、力のぶつかり合いはしばしの間拮抗した。
「……おっと!」
ただ最終的には、より持続時間の長いN2ブラストの方が押し切る形となり、フランソワはひょいとN2ブラストの噴射を躱した。
「こんな感じでいいっすか?」
「ああ。バッチリだ」
撮影用魔道具を全て録画停止し、撮れたデータを映像編集用魔道具にインポートする。
プレビュー画面を見ると、大迫力の力のせめぎ合いがバッチリ撮れているのを確認できた。
素材はできたので、あとは軽く動画編集してっと。
「この高機能な消火装置なら、インフェルノ大陸のドラゴンのブレスですらご覧の様子です!」
軽くナレーションを入れたり、スロー再生を付け足したりして、より購買意欲を掻き立てられるよう宣材として洗練させていく。
一応誇大広告だと言われてもアレなので、「※これは理論値です。実際は家屋が吹き飛ばない程度に威力を制限して運用します」というテロップも申し訳程度に入れておいた。
映像ファイルが完成したら、映像再生用魔道具に完成品をインポートする。
そして、出来上がりの確認のため一度再生してみることにした。
「おおお……これがさっきのオラっすか……」
この映像再生用魔道具は、映像を空中にホログラム投影する。
再生中、フランソワは興味深そうにあちこちから映像を見回していた。
「……これならいけるな」
この映像なら十分N2ブラストの魅力が見込み客に伝わる。
俺もそう確信できた。
「ありがとな、フランソワ。これでいい感じに宣伝ができそうだ」
「いやいや、この程度ならいくらでも協力するっすよ! ……また今度、模擬戦をお願いしてもいいっすか?」
「ああ、もちろん。また来る」
フランソワに見送られる中、俺はまた竜化して王都に戻る。
あとはヒセロ社長の評価次第だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます