第50話 治験

 早速、別室に移って治験開始。

 まずは収納魔法から薬液と注射器を一本取り出すと、俺は適量を注射器に入れていった。


 その作業の途中……。


「それは一体何をなさっているのですか?」


 モルデナさんは不思議そうな視線を注射器に向けつつ、そう聞いてきた。


「注射の準備です」


「注射……?」


 ……まさか、注射すらもロストテクノロジーだとでもいうのか?


「こういう投薬方法ですが……」


 俺はホログラムを用いて投薬方法を見せてみた。


「ええ……針を刺して中身を入れるのですか。斬新ですね……」


 ホログラムに映る映像を見て、モルデナさんは若干引き気味になってしまう。


「……けど、ハダルさんがそれでというなら問題ありません」


 が、とりあえず投薬方法を理由に拒絶されることはないようだ。

 ちょっと身構えていたので、正直ホッとした。


 けど……こうなったら、注射器まで一緒に卸す必要があるな。

 まあそれくらい、錬金魔法で大量生産するまでなので別にいいのだが。

 というかこの注射器だって、一秒とかからず錬金して作ったものだしな。


 などと思いつつ、薬液の方を収納魔法に戻す。

 いよいよ投与開始だ。


「ちょっと腕いいですか?」


「ええ」


 皮膚表面に軽く殺菌魔法を放ってから、注射。


「あれ……刺さったのに、全然痛くないですね」


「針の形状が、人間の痛点を刺激しないようにできてますから」


「そ、そんなことが可能なんですね……」


 などと話している間にも、投与は終了した。


 じゃ、ここからは観察タイムだ。

 まず俺は、健康状態を詳細に把握するための高度解析魔法を立ち上げた。

 そして、


「では、副反応などを経過観察するためにちょっと時間を早めますね」


 そう言って俺は、時空調律魔法を発動しようとした。


「時間を早める、とは……?」


「わざわざ何日も経過観察するのってしんどいじゃないですか。ですから、時空調律魔法で時間を少し早送りさせていただければと」


「じ、時空調律魔法をそんな生活魔法みたいなノリで……。って、ハダルさんならそれくらい普通ですか」


 なんかちょっと驚かれてしまったが、まあ拒否されているわけではないので普通に発動だ。

 とりあえず、最初は万が一アナフィラキシーが起こっても迅速に対応できるよう、5倍速で6分ほど経過を見た。

 案の定、何も起きなかったので、そこからは120倍速で24分――すなわちモルデナさんの体内時間にして2日ほど待つ。


「どうでした? 何か体調が変だったりとかは……」


「一瞬微熱でボーッとしたような気がしたようなしてなかったような……。あ、でも今は全然平気です!」


 まずはどんな感じだったかを聞いてみたところ、体感としてはほぼほぼ無問題だったようだ。


「それより、本当に凄いですよこれ。こんなに魔力が漲るのを感じるの……人生で始めてです!」


「それは良かったです」


 そして期待する作用である魔力量の方も、無事増加したようだ。


 じゃあ、あとは念の為解析結果を確認するだけだな。

 別にまあ、見るからに全く健康を損ねたりはしていないのだが……あくまで主目的はモルデナさんの魔力量を伸ばすことではなく、治験なのだし。

 思ってもみないような悪影響がないかは、一応チェックしとかないとな。


 などと思いながら、解析結果をホログラム上に出力する。

 各種数値を見ても、どの値も特に異常を来してたりはしなかった。


「な、なんですかこの魔法!?」


「高度健康解析魔法……のデータを、光魔法でホログラム上に出力したものです。データを見る限り、健康への悪影響は一切無さそうですね」


「そ、そんな魔法が……あ、でも確かに、この中の項目のいくつか見覚えがあります。ここまで詳しいバージョンもあるなんて……」


 モルデナさんはしばらく、興味深げに出力結果を眺めていた。



「認可はいただけそうでしょうか?」


「もちろんです。少し待っててください」


 肝心の認可について聞いてみると……モルデナさんは即答し、部屋を出ていった。

 かと思うと、一枚の紙を持って戻ってきた。


「こちらが許可証です。素晴らしい効果でしたので、特例で私の権限を使い、あらゆる手続きをスキップさせていただきます」


 なんと持ってきたのは、許可証そのものだったようだ。

 流石聖女。そこまでできるのか。


「ありがとうございます」


「あ、あと、ポーションとしての認可とは別に、別途報酬もお支払いしますね。……こちらは私の魔力を増やしていただいた対価として」


 ……それも別でくれるのか。

 なんか得したな。

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