第49話 教会に認可をもらいに行った
フランソワが満足するまで模擬戦をした後、俺は竜の姿で飛んで王都に戻った。
一応飛行時間を計測してみたところ、インフェルノ大陸から王都までは30分しかかからないようになっていた。
魔力量の伸びと魔法出力の伸びは完全には比例していないので、3倍速とまではいかなかったが……それでも、前よりはだいぶマシになったな。
満足しつつ、俺はワクチンが認可されることを祈りながら眠りについた。
◇
そして、次の日。
早速俺は、教会に足を運んだ。
「すみませーん」
「はい……って、君は確か治癒師国家試験を一夜漬けで突破した――」
「ええ、ハダルです。あの時はお世話になりました」
受付に足を運ぶと、係員は俺のことを覚えてくれていた。
「いやいや、むしろあれじゃお世話になったのはこちらなくらいだ。ところで……今日はどんな用件で?」
「一つ新薬を開発したので、認可を頂きに」
「新薬か。普通ならその歳で何を、と言うところだが……君なら普通にやりかねないよなあ」
そしてそのおかげで、単刀直入に本題に入るも、特に疑われることはなかった。
ありがたい限りだ。
「どんな薬なんだ?」
「とあるウイルスに対するワクチンですね。まあ期待するメインの作用は抗体作成ではなく、副次的に起こる魔力量増加の方なのですが」
「ワク……チン? 何だ、それは?」
「特定の病原体に対する免疫を得るために、無毒化した抗原や遺伝子の一部を入れるヤツですよ」
この反応……もしかして、ワクチンまでもロストテクノロジーなのだろうか。
……そのせいで認可に時間がかかるとかなったらやだな。
と思ったが、それは係員の次の一言で完全に杞憂だと判明した。
「うむ。説明されてもよく分からんが……とりあえずモルデナ様からは『もしハダルさんが私の能力強化に寄与し得る新たな発見を報告したら即私に知らせるように』と言いつけられていてな。そういうことなら、報告を上げるとしよう」
なんと俺から頼むまでもなく、モルデナさんに話を繋いでくれるようだ。
「ありがとうございます」
「ああ。スケジュールを確認してくるから、ちょっと待合室で待っていてくれ」
しかも、アポイントは今すぐ入れてくれるようだ。
係員はそう言って、建物の外に出ようとする。
……もしかして、走っていくつもりか?
いや、モルデナさんが普段どこにいるのかなど知る由もないが。
待合室で待ってたら結果を伝えてくれるってことから察するに、地方にいるってことはないだろうが……例えば王宮の近くとかに住まいがあったとしても、走っていくと時間がかかるよな。
「あの……良かったら、これ使います? 速い乗り物ですよ」
係員がドアを開けようとした寸前、俺は彼を呼び止め、グレートセイテンの雲を使わないか提案してみた。
――の、だが。
「うーむ……君の言う『速い乗り物』……か。気持ちはありがたいが、俺に制御ができる気がしないな……」
なぜか係員には、難しい顔をされてしまった。
「ま、モルデナ様の屋敷はここから走って5分の位置にあるから。今日のところは普通に行ってくるよ」
うーん、まあ使いたくないというならしょうがないか。
そのくらいの時間であれば、俺が待つ分には問題ないし。
「じゃあ、お願いします」
そう言って、俺は係員を見送った。
◇
約30分後。
係員は、モルデナさんを連れて戻ってきた。
「あれ、本人……アポを取ってくるんじゃなかったんですか? まあありがたいですけど……」
言い残してったことおと現実の違いに戸惑い、俺はそう質問する。
それにはモルデナさんが答えた。
「ハダルさんがとんでもないものを開発したって聞きましたから。今日の予定は全て明日に延期することにしてきました」
「ええ……」
おい、いいのか。
それはそれで申し訳ないような……。
「わざわざすみません」
「いえいえ。だって……魔力量が3倍になる薬を開発なさったんですよね?」
何がどう「だって」なのだろう。
薬――もといワクチンの作用があまり厳密ではない伝わり方をしているのは、この際置いておくとして。
「まあ、そんなところですが。しかしそれと、もともとの予定を延期することに何の関係が……」
「それなんですが……今日あるはずだった予定、アブソリュートヒールでしか治療できない患者の治療なんです。だからその……治療の成功率を上げることにもつながると思いまして」
「なるほど」
そこまで聞いて、ようやく俺の中で全てが繋がった。
そういえばそうだったな。
モルデナさんのアブソリュートヒール、魔法陣への動力充填に時間がかかりすぎることから、発動が不安定なんだった。
確か成功率は、魔法陣構築に1時間かけて3分の1だったか。
確かに、魔力量が3倍(に伴い魔法出力が2倍)になれば、それだけアブソリュートヒールの成功率も上昇する。
それはつまり、今日あるはずだった治療の成功率上昇にもつながるので……患者のためにも、治療を後回しにしたってか。
それならまあ、筋は通ってるか。
特に罪悪感を感じる必要性がなさそうなことに、ひとまず俺は安心した。
――が、次の瞬間。
俺はこのことが、とんでもないことを意味することに気がついた。
「……って、まさかモルデナさん、ご自身が治験の被験者になるおつもりで!?」
確かに第一段階の安全な手法の確立は済んでいるし、俺自身だってワクチンを接種済みだ。
それに実際に他人に治験する段階では、各種高度解析魔法で被験者に以上がないか詳細にモニタリングしつつ、何か変な兆候があればアブソリュートヒールを始め各種魔法で安全に治験を中止できるので、危険性はまずゼロと言えるのだが。
それにしても、国を代表する唯一の聖女が治験に被検体になるとは思い切ったな……。
「はい。ハダルさんが調合した薬ということでしたら、完全に信頼できますから」
しかし驚く俺とは裏腹に、そう言い切るモルデナさんの目は据わっていた。
……まあ、そこまで言うなら。
こちらとしても認可がスピーディーに降りるに越したことはないし、早速始めるろするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます