第48話 セイテンウイルスmRNAワクチン
ゴールドホーンに起きた副作用。
それは――総魔力量の増加だ。
解析魔法では、対象の魔物が魔力満タン時にどれくらいの魔力量を持っているのかも調べることができるのだが……その解析結果に変化が出たのである。
それも、10%や20%ではない。
なんと――3倍だ。
これはあまりにも劇的すぎる変化だ。
もしこれが人間にも適応できるのだとしたら……冒険者や騎士団の界隈に革命を起こすことができるだろう。
早速、俺はその部分を確かめてみることにした。
魔法で自身の手の甲の細胞を一つだけ切り離すと、その細胞を初期化し、高速培養魔法で成長させる。
10分もすると、5歳くらいのクローンができた。
そのクローンに、フランソワが持つ抗体をコピーしたものを注入する。
が……その実験は、失敗だった。
注入するや否や、クローンにアナフィラキシーショックが起こったのだ。
即座に魔法で抗体を除去してからアブソリュートヒールをかけ、ショックから回復させる。
それから何度も、量や注入方法を変え、免疫の過剰反応を抑える方法を模索したが……一度として、アナフィラキシーが起こらないルートは発見できなかった。
「アニキ、何やってるかいまいち分かんないんっすけど、それうまく行く見込みあるんすか……?」
「ちょっと厳しそうだな……」
あまりに失敗を重ねすぎて、フランソワにも心配される始末。
そこで……俺は少しアプローチを変えてみることにした。
もしかしたら、既製の抗体を注入するというアプローチがマズいのかもしれない。
特に今の場合、ドラゴンの獲得免疫を人間に入れようとしているのだからな。
ゴールドホーンはたまたま相性が良かっただけで、ドラゴンの体内の抗体は人体と相性が悪い、みたいなことも考えられる。
とすれば……人間の獲得免疫システムを使えば、その問題は解消できるかもしれない。
そこに思い至った俺は、人間の体内で目的の反応を起こす物質を作るべく、セイテンウイルスの加工を始めた。
やることは至ってシンプル。
ウイルスのRNA配列のうち、抗原を構築するための指示を運ぶ特定部分のみをコピーし、複製する。
そう。俺が作ろうとしているのは――mRNAワクチンだ。
mRNAワクチンを用いる場合は、人間自身の免疫細胞がウイルスの塩基配列を認知し、抗体を作るからな。
セイテンウイルスと結合して失活させるという作用機序は同じでも、ドラゴン由来のものとは構造の違う抗体ができる可能性があるわけだ。
とすれば、その抗体は期待する作用を持ちながらもアナフィラキシーは起こさない……という可能性も無きにしもあらず。
そこに賭けてみようと思ったのである。
出来たてのmRNAワクチンをクローンに注入し、アナフィラキシーショックが起きないか観察する。
30分経っても、クローンは特に苦しむ様子を見せなかった。
とりあえずアナフィラキシーは起こさないようだが、もう少し他の副反応とかも無いか確認したいので、時空調律魔法で3日ほどクローンの体内時間を進める。
結果……一時的に37度近くの熱が出たものの、それ以外に特に体調不良は起きず、クローンの抗体獲得が完了した。
と同時に……クローンの総魔力量も、確かに3倍に増加した。
「っしゃあ! できた!」
幾度もの失敗の後の成功ということもあり、思わずガッツポーズする。
「何ができたんっすか?」
「セイテンウイルスのmRNAワクチンだ。ちなみに……対セイテンウイルス用の抗体には、生物の魔力量を3倍にする効果もある」
「え……なんなんっすかそのヤバそうな薬は!」
ヤバそうとは失礼な。
というかフランソワの場合、人工的に作成するまでもなく自然に体内にある物質だぞ……。
「まあ、見てな」
そう言った後、俺はセイテンウイルスmRNAワクチンを自分自身にも注入した。
そして自分の体内時間を、時空調律魔法で3日ほど進める。
すると……一瞬微熱が出た後、俺は自身の魔力量が3倍になるのを体感できた。
「どうだ?」
「ア……アニキの魔力量が、また天元突破してしまった……」
魔力量が増えた俺の様子を見て、フランソワは口をあんぐりと開けたまま俺を見つめた。
「これはまた、実用的な製品ができたんじゃないか?」
ウキウキした気分を抑えつつ、俺はセイテンウイルスのmRNAを市販用に大量複製したものを作り、収納魔法にしまう。
帰ったらトライダイヤにでも卸すとしよう。
いやその前に……治癒用製剤である以上、教会で認可を得る必要があるか。
まあモルデナさんに頼めばノーとは言われないだろう。
「遅くなったな。じゃあ、始めようか」
やりたいことはやり尽くしたので、本題だった模擬戦に入ることに。
魔力量が3倍に増えたことで魔法出力とかにも若干影響が出ていたが、模擬戦を通して俺自身も新しい自分に慣れることができた。
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