第47話 稽古の際の偶然
兎の人件費の手続きが終わって、昼過ぎになり。
昼食を食べ終わった俺は……今日こそフランソワに会いに、インフェルノ大陸へと向かった。
大陸沿岸部が近くなり、着陸のためにスピードを落としていると……。
「アーニーキー! 待ってましたあぁぁぁぁ!」
眼下では……フランソワがブンブンと手を振りながら、満面の笑みで俺を迎えに来ていた。
「いやー久しぶりっす。一年ぶりくらいっすか?」
「そんなわけないだろ……」
「おーそして出ましたニンゲンの姿! ドラゴンのアニキもカッコイイっすけど、やっぱアニキといえばその真の姿っすよね……」
竜化の術を解いていると、いちいち実況される始末。
普通に恥ずかしいからやめてくれ。
「じゃ、ちょっと大陸の奥の方に行こうか」
「そうっすね。模擬戦、どんな感じになるか楽しみっす!」
ここからは移動手段をグレートセイテンの雲に切り替え、しばらく大陸奥地へと進んでいく。
沿岸部で模擬戦なんてして、スタンピードでも起きたら職務怠慢もいいとこだからな。
最初にこの大陸に来た時にグレートセイテンと戦った場所より、更にちょっと奥のあたりまで来ると……俺たちは雲を降りることにした。
「じゃ、早速始めるか」
「おっす!」
模擬戦の初期位置につくため、結界を足場にある程度上空に移動する。
「それじゃあ、始――」
……しかし。
そう合図しかけたところで、俺は眼下に一個、不思議なものを見てしまった。
「……何だあれ?」
俺が見つけたのは、立派な角を持つオーガ系統と思われる魔物。
その魔物は……しきりに喉を掻きむしりながら、咳を連発してのたうち回っていた。
「何がっすか? ……あー、あれはゴールドホーンっすね」
魔物に見入っていると……いつのまにか間合いを取るのをやめて近くに来ていたフランソワが、そう教えてくれる。
が、俺が聞きたいのは名前ではなくてだ。
「あいつ、何であんな苦しみ方してるんだ?」
そう、気になったのは病状の方だ。
俺が知る限り、オーガ系の魔物があんな症状を発する病気は見たことも聞いたこともない。
あれはいったい何なのだろうか。
「ああ、あの症状は……セイテンウイルスっすね」
聞いてみると……どうやらフランソワはこの病気の正体を知っているようだった。
「セイテンウイルス?」
セイテンといえばグレートセイテンしか思いつかないが、何か関係があるのだろうか。
「グレートセイテンが使う分身の術のことっすよ。グレートセイテン、自信の髪の毛からナノサイズの分身を作る技を持ってるんっすけど……その分身は生物の体内に入ると、セイテントキシンっていう毒を産生しながら増殖するんっす。その有様がまるでウイルスなことから、セイテンウイルスって呼ばれてるっす!」
疑問に思っていると……フランソワはそう解説した。
……あいつ、そんな技持ってたのか。
使ってるとこ、一度も見たことないんだけどな……。
「俺、そんな技使われたことないんだが……」
「そりゃあの即死攻撃で狙われたら、髪を毟る暇すらないっすよ」
「じゃあ、最初に速射竜閃光で戦ってた時は? あとフランソワが戦ってる時とか」
「ドラゴンにはセイテンウイルスに対する免疫があるんっす。だからグレートセイテンも、ドラゴン相手にはセイテンウイルスを使ってこないんっすよ。アニキの場合も竜閃光を使ったから、ドラゴンと見なされて使われなかったのでは?」
「なるほど」
……そういう事情か。
ならまあ一応、納得だ。
てか……あのウイルスにも、免疫とかあるのか。
それはちょっと面白いな。
「ちょっと観察してみようか」
俺はモレキュールチャネルという窒素分子及び酸素分子のみを通過させる特殊な対物理結界で自身を囲うと、ゴールドホーンに近づいた。
そして各種解析魔法を用い、セイテントキシンの作用機序やゴールドホーンの自然免疫の反応などを確認していった。
「何真剣な顔してやってるんすかアニキ?」
「何ってことのほどでも。ちょっとした観察だ」
などと話しつつ……俺はフランソワにも解析魔法をかけ、その体内にあるセイテンウイルスに対する抗体を特定する。
そして錬金魔法を使い、その抗体を複製してゴールドホーンに投与してみた。
「ゲホッ……ゲ……ホ……」
すると……ゴールドホーンの咳の頻度が、ほんの少しではあるが落ち着きを見せた。
なるほど、抗体の投与はちゃんと効き目がある、と。
「……って、これは……?」
だが……それと同時に、ゴールドホーンには抗体の副作用と思われる反応が起こり始めた。
副作用と言っても、それはあくまで主作用ではない(=セイテンウイルス病の治癒とは別の副次的な効果である)というだけで、決して悪いものではない。
というか……これが人間にも適用できるとしたら、むしろ凄く役に立つものだ。
これは思わぬラッキーな発見かもしれないぞ。
続けて俺は、少し実験もしてみることに決めた。
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