第45話 王子からのお礼

 調味料の卸売の契約を締結させた頃……ちょうど他の料理人たちの審査も終わり、試食タイムがスタートとなった。

 ジャスミンとライヒと共にひととおり巡ったのだが、どの料理も何故俺が優勝できたのか分からないくらい絶品だった。


 祭が終わる頃、ライヒが大会運営と交渉して余った野菜を入手してきたので、俺はそれを冷凍粉砕して追加納品することに。

 夜も遅くなったので、その日はブオーノ村の宿に泊まり、王都には次の日に帰ることにした。


 翌日、王都に帰ると……まずは二人で学長室を訪れ、これまでの経緯を説明する。

 安全管理業務がリモートワークになったことについて大層驚いてはいたが、業務と並行しての学園への復帰は無事認められることになった。


 ちなみにフランソワについては、「アシュガーノ岬の有事の際は俺と入れ替わりで女の子が教室に出現しますが、気にしないでください」みたいな感じで説明しておいた。

 フランソワは「少しでもアニキに近づくためにこれからはニンゲンとして生きます!」とか言って常時人化することに決めたらしいので、実はドラゴンだという部分は隠しておいて問題ないだろうと判断したからだ。


 形だけ人間の姿にしたからって何の意味があるんだって感じではあるが……まあ本人がその気であることが都合がいいことには変わりない。


 それから一週間程度は、ただ普通に学園で授業を受けたりして過ごしていた。

 ……そんなある日の昼のこと。


「そうだ、ハダル。一個重要な話があるんだ」


 いつものごとく、食堂でイアンと昼食を食べていると……おもむろにイアンがそう切り出した。


「なんだ?」


「入学式のとき……重力操作装置のお礼を考えておくと言ったろう? その準備ができたから……できれば今週末は空けておいてほしいんだ」


 ……そういえばなんかそんなこと言ってたな。

 すっかり忘れてしまっていたが。


「ありがとう、もちろん空けとくよ」


 本来は週末はフランソワに会いに行こうかと思っていたが……まあそういうことなら、週末は午前中に軽く遠隔レッスンをする程度にとどめ、来週の平日を自主全休にして振り替えればいいだろう。

 予定よりはやく学園に復帰したからといって、単位の確約までも解除されたわけではないからな。


 などと考えつつ、俺はそう返事をした。



 ◇



 その週の週末の、昼12時前のこと。

 フランソワの戦闘を遠隔サポートしつつ、宿のロビーで待っていると……イアンが宿に俺を迎えにきた。


「やあ、ハダル。行く準備はできてるかい?」


「……ごめん、あと三分だけ待って」


 12時に来るって言われてたので、それまでには戦闘終了まで持っていけるかと思っていたのだが。

 律儀に5分前に着いてくれたのが、裏面に出てしまったな。

 あともうちょっとでフランソワが勝てそうなんだが。

 などと思いつつ、俺はそう返す。


「いいけど……何をやっているんだ? 暇そうにしてたように見えたが」


「……舎弟の修行の戦闘サポート、的な」


 言葉で伝えようとまどろっこしくなりそうなので、俺はそう言いつつホログラムで現地の様子を映し出した。


「ああ、この間言ってた業務委託の相手の子か。随分壮絶な戦闘だな……。というか、この奇妙な戦い方をする猿はいったい?」


「グレートセイテンだ」


「ぐ……グレートセイテン!?」


 イアンは変な声をあげつつ、ホログラムに釘付けのその目を白黒させる。


「あ、あの魔物実在したのか……。図らずもこんな貴重な場面を目に焼き付けることができるとは。……って、この子よくそんな魔物相手に優勢でいられるな」


「まあ、人化したドラゴンだからね。もともと、グレートセイテンとはタイマンだと五分五分くらいの強さなんだ。だからあんまり補助しすぎると稽古の質が下がるから、こうして最低限即死級の魔法だけ処理したりしてるわけで」


「そんな微調整ができるってことは……グレートセイテン、もしかしてハダルにとっては大した敵じゃないのか?」


「まあ、割と大したことない敵だよ。魔素加粒子砲一発で死ぬし」


「魔素加粒子砲が何かは知らんが、この戦いを繰り広げる奴は決して大したことなくはないだろ……」


 そんなこんな話しながらフランソワの様子を見守っていると……フランソワの一撃がグレートセイテンの急所にクリーンヒットし、グレートセイテンは絶命した。


「おつかれさん。パーフェクトヒールっと」


 フランソワも決して無傷で戦い終えれた訳ではないので、最後にパーフェクトヒールを転送しておく。


「すまん、待たせたな。行こうか」


「お、おう……。全く、とんでもない衝撃映像を見せられてしまった……」


 ホログラム投影を終了しても尚、若干呆然としているイアン。

 そんな彼に連れられ、俺は宿を出発した。



 ◇



 しばらく歩いたのち……イアンが歩みを止めたのは、豪華な大豪邸の目の前。


「まさか……ここが会場?」


 ……俺が王宮に呼ばれるのは遠慮したいなどと言ったばっかりに、こんあすごい会場を押さえてもらうことになってしまったのだろうか。

 ちょっとした魔道具をあげただけなのに、なんか恐縮だな。


 と、思ったのだが……イアンの返答は、俺の想像を遥かに超えたものだった。


「ふっ、なるほどそう思ったのか。重力操作装置なんてもらっておいて……ただパーティーに招待して終わりのはずがないだろう?」


「えっ?」


「これは君の別荘だ。受け取ってくれ」


「……えええ!?」


 なんと……会場ところか、俺の所有物だったようだ。


「じゃ、案内するよ」


 心が追いつかない中……俺はイアンに連れられ、全ての部屋を巡ることに。


 王国最高級品質のベッドつき寝室、大理石の浴場、煌びやかな暖炉のある広大な居間……一つ一つの設備全てが、言葉にできないほど豪華だった。


「もちろん、こんな豪邸を一人で管理するのは大変だろうからね。もしメイドを雇うなら、人件費は全額王家が負担するよ。……まあハダルならそれすら魔道具で解決できちゃったりしそうではあるが」


「う、うん……」


 あまりにゴージャス過ぎて、なんだか説明が頭に入ってこない。


「気に入ってくれたかい?」


「も……もちろん!」


 俺はそう返すので精一杯だった。


 いや、ヤバすぎるだろ。

 こんな所に住むのが許されていいのか。


「それは良かった。正直重力操作装置を貰っておいて、この程度のお返しじゃ全然釣り合ってないんだけど……僕の発想じゃこれが限界だったから」


 ……いやいや、だから十分すぎるって。


「ハダルが泊まってた宿よりは、ちょっと学園との距離が遠くなっちゃうんだけどね。それさえ気にならなかったら……」


「それは大丈夫だ。グレートセイテンの雲を移動手段に持ってるからな」


「あの猿の雲があれば秒で着きそうだな……」



 しばらくの間、俺は各部屋の家具などの使用感を確かめて回った。

 そうしていると……おもむろにイアンがこんなことを言い始める。


「あと、実は今日もう一つ用意してるものがあってね。ちょっと待っててもらっていいか?」


「あ、ああ」


 こんなに豪華なものだけでなく、まだ何かあるのか。

 などと思いつつ、俺は暇つぶしに実験でもしながら待つことにする。


 今回やる実験は、以前試験の際に作ったオリハルコンーアダマンタイト合金製の剣の改造だ。

 というのも……グレートセイテンが武器として使用していた棒、分解してみたら見たこともない魔法陣が刻まれたパーツがあってな。

 それをマギサイトミスリルに転写し、剣の中に仕込んだら……何か新しい武器ができないかと思ったのだ。


 結果は大成功だった。

 改造剣は、魔力を通すと自在にリーチが変えられる剣になった。


 強力かと言われれば微妙だが、不意打ちくらいには使えそうなものができたな。

 普段使いはしないだろうが、まあ何かの機会に役立つかも、くらいに思っておこう。


 そう思い、剣を収納魔法でしまった時……。


「待たせたな。準備できたぞ」


 イアンがそう言ったので、俺は居間からダイニングルームへと移った。

 そこには、数多の種類の豪華な料理が。


「ま、まさかこれを……!?」


「ああ。美味しそうだろう?」


 なんか先週からごちそう続きだな。

 などと考えつつ、席に着くと……イアンが得意げにこんなことを耳打ちしてきた。


「実はこの料理なんだけどね……昨日、とある商会から最新の調味料を入手したんだ。まだ一般には流通していないものを王家の特別な伝手でね。それを少し入れると、料理の旨味が劇的に増すという……」


 ……それグルタミン酸ナトリウムでは?

 うん、せっかく自慢げなところ悪いので黙っておこう。

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