第40話 魔道具作りの業務委託

「魔石の表面積で描き切れない……?」

「複雑で高度な魔法陣……?」


 二つ目の利点を口にすると……ライト社長社長もジャスミンも、ポカンとしてしまった。


「魔法って、高度な術式を用いるほど、1の魔力消費あたりの威力が高くなるじゃないですか。同じことが、魔道具にも言えるんです。人工的な板という広いキャンバスに緻密で壮大な魔法陣を刻むことで、魔石に刻んで発動するのは到底不可能なほど高度な術式を用いることができる。それがマギサイトミスリルの、一番の利点です」


 より分かりやすいよう、俺はそう補足した。


「もっと言えば……複数の魔法陣を直列接続し、一つの魔法陣では到底不可能なほど高度な術式を立ち上げることだって可能です。例えば『マナプラズマキャノン』は……1700層にも及ぶ魔法陣の並列接続でできた多層魔法陣を使うことで、竜の息吹より遥かに少ない消費魔力で、竜の息吹と同等の火力及び竜の息吹をはるかに上回る連射性能を実現しています」


 更にそう続けつつ、俺はマナプラズマキャノンのマギサイトミスリル部分を拡大表示して見せた。


 ――そう。ジャスミンが最初「魔法陣が彫られた箱」と形容したものは、実は箱ではなく1700枚の魔法陣が刻まれた板を積み重ねたものだったのである。


「うっわ何この魔法陣の量……」

「見ているだけで気が遠くなりそうだな……」


 ジャスミンとライト社長はそれを見て、各々若干引き気味になりながらそう呟く。


 魔道具で高火力兵器を作るなら、これくらいの魔法陣を使って燃費を上げないともったいないからな。

 しかしまあ……気が遠くなりそうな魔法陣の量というのは、正直同意だ。


「そこでなんですが……一つ相談がありまして」


「な、何だ? ハダル君の方から相談とは……」


「もしこの兵器を要塞用に採用してくださるなら……いい魔道具作成業者を紹介してくれませんか? 魔法陣の刻印だけ外部委託したいのですが」


 というわけで、俺はそんな相談をしてみることにした。


 流石に1700枚もの超緻密な魔法陣、しかもそれを数セットも自力で刻むのは骨が折れるからな。

 マギサイトミスリル板と紙にでも念写した魔法陣の原本だけ渡して、刻印部分をアウトソーシングしようと考えたのだ。


 もちろん経費はかかるが、国から降りる兵器購入予算を本当に全額もらえるなら、そこから払う金額なんてたかが知れてるだろうしな。

 ライト社長なら、その人脈で何かしらいい企業を知っているかもしれない。


「なるほど、何かと思えばそういう相談か。もちろん、そんなぶっ飛んだ性能の魔道具を採用しないわけがないし……良い知り合いを紹介するぞ」


「ありがとうございます。どなたですか?」


「フジパターンという、客先常駐型魔道具作成請負業者だ。あそこの社長とはよく飲む仲なんだが……忖度無しに、あの企業の従業員数、価格設定、クオリティはどれも他の追随を許さない良さだぞ」


「そ、そうなんですか……」


「もちろんだ。私だって、いくら仲が良くても国家から託された一大事業に変な企業は絡ませられないからな。ひいきで言ってるわけではないので安心してくれ」


 聞いてみると……社長はイチオシの企業を紹介してくれた。


 フジパターン……そんな企業があるのか。

 魔法陣刻印さえ外部に委託しちゃえば、あと俺がやることなんて最後の組み立てくらいのもんになるし。

 依頼を出してしまえば、もうこっちは八割方片付いたようなもんだな。

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