第39話 社長との打ち合わせ2

 アシュガーノ支社に着くと……早速俺たちは、ライト社長と商談をすることになった。


 ちなみになぜまだ社長が滞在しているかというと、前回の打ち合わせの際俺が「材料面など、作れそうな目処が立ったら正式に契約しましょう」と言ったところ、社長の方が「なら時間が許す限り、目処が立つのをここで待つ」と言ったからだ。

 通常は、支社の訪問で何日も滞在することは少ないらしいんだがな。

 今回は特例で、この日を待ってくれていたのである。


「それで……要塞に搭載する兵器は、作ってもらえそうか?」


 商談が始まると、早速社長は単刀直入にそう聞いてくる。


「はい。一応、想定している魔道具のコアたり得る魔石を何個か調達できました」


 俺はそう答えつつ、収納魔法でグレートセイテンの魔石を取り出し、机の上に並べた。


「随分と立派な魔石だな……。インフェルノ大陸から岬にやってくる魔物の魔石より一回り、いや二回りは質が良さそうだ。……こんな物、いったいどこで?」


 ライト社長のその質問には……俺より先に、ジャスミンが答える。


「インフェルノ大陸まで行って取ってきたらしいわよ。聞いた時はびっくりしすぎて心臓が止まるかと思ったわ……」


「な……! わざわざそんな危険なことをさせてしまって申し訳ない」


 それを聞いて、ライト社長は動揺した声でそう言いつつ頭を下げた。


「危険ってほどじゃなかったですよ。ちょっとだけ奥に進んだぐらいまでしかいきませんでしたが、その辺りには瞬殺できない魔物はいませんでした」


 あまりに申し訳なさそうにしているのが逆になんか申し訳ないので、安心させるべく俺はそう答える。


「因みにどんな魔物を倒したの?」


 すると今度は、興味本位でジャスミンがそんな質問を。


「主にグレートセイテンだな。ここに並べた魔石は、全部グレートセイテンから取ったものだ」


「グレート……セイテン……!? それ実在の魔物なんだ……。神話でしか聞いたことなかったんだけど」


 どうやらこっちの大陸では、グレートセイテンは伝説みたいな存在になってしまっているようだ。

 まあこっちの大陸に来るのが2000年に一回とかそんなレベルで極端に低かったら、そうなるのも無理はないか。



「と、魔石の話はこの辺にしておいて……具体的に作ろうと思っている魔道具の説明に入りたいのですが」


 いつまでも魔石の話に興じていても無意味なので、俺は半ば強引に話題を本筋に引き戻す。


「今回作ろうと思っているのは……『マナプラズマキャノン』と『ドラゴンキャノン』という二種類の魔道具です」


 そう言いつつ、俺はホログラムで二つの魔道具の外見を投影した。


「『マナプラズマキャノン』は、威力は最低出力の竜の息吹程度と低めですが際限なく高速連射できる魔道具。『ドラゴンキャノン』は、威力こそ最低出力の竜の息吹の20倍ほどですが撃てるのは5回限り、クールタイムも24時間必要な魔道具です。要は手頃な兵器と有事用の兵器を作ろうと考えています」


 それぞれを指しつつ、俺はそう続ける。


「おお……手頃という方の魔道具ですら、想像もつかないような威力だな。ハダル君ならとんでもない威力の兵器を作ってくれるのではと期待してはいたが、まさかここまでとは……」


「最低限それくらいはないと、アシュガーノ岬に襲来する魔物には通用しませんから」


 社長は半ば感動気味の様子だ。

 そんな中……ジャスミンは投影された魔道具を見つつ、一つの疑問を浮かべた。


「これ……どうなってるの? なんか魔石じゃなくて、外についてる箱に魔法陣が彫られているように見えるんだけど」


 ……もしかして、この手の魔道具を見るのは初めてなのか。

 俺はその点についても説明することにした。


「これらの魔道具は、魔石に直ではなくマギサイトミスリルに魔法陣を刻むものなんですよ」


「「マギサイト……ミスリル……?」」


 おそらく社長とジャスミンにとって初耳であろう単語を耳にし、二人の疑問の声がハモる。


「マギサイトミスリルは、魔石とミスリルで作る合金なのですが。マギサイトミスリルの合金で作った板に魔法陣を刻み、板と魔道具のコア用の魔石をオリハルコンの導線で繋いだら、コアの魔石の魔力が板に送られて通常の魔道具と同様も効果を発揮するんですよ」


 そう。マギサイトミスリル板は、いわば魔法制御用の機構を外部化するために用いられるのだ。


「は、初めて聞いたわそんな合金……」


「しかし……なぜわざわざそんなことを? そんな一手間かけずとも、普通に魔石に魔法陣を刻んでもいいような気がするが……」


 ジャスミンがただただ感心する中……ライト社長はそんな疑問を持つ。


 確かに、今の説明だけではそう考えるのも無理はないな。

 だが……もちろん、これにはちゃんと理由がある。


「利点は主に二つですね。一つ目は、魔石と魔法陣を分離しておけば、魔道具が使い捨てにならずに済むことです。例えば『ドラゴンキャノン』は先ほど、撃てるのが五回限りと言いましたが……それは魔石一つあたりの話で、魔石の魔力が枯渇したら新品に交換すれば、ずっと使い続けることができます」


「な、なるほど……。それは確かに便利だな。もっとも、替えの魔石をどうやって調達するかは問題であるが」


「それくらいならまた必要に応じて取ってきますよ」


 例えばフランソワの稽古の一環として、「必要に応じて俺が補助しながらグレートセイテン級の魔物を倒してもらう」とかしつつ、な。


「でも……それができるなら、ここまでハイクラスも魔石はそもそもいらなかったんじゃ? 例えば岬の防衛の副産物の魔石とかに、ドラゴンキャノンが最低限一発撃てる魔力量があれば……」


 などと思っていると、今度はジャスミンがそんな疑問を抱いた。


「そのクラスの魔石だと、ドラゴンキャノンを撃つには魔圧――魔力を外に送り出すポンプの強さみたいなものだと思ってくれ――が足りないんだよな。だから魔力量がギリ足りても、撃てない」


「そういうもんなのね……」


 その疑問には、ざっくりとそんな感じで答えておいた。

 まあ厳密にはちょっと違うのだが、この辺は学園の魔道具作成の授業ででもいつか習うだろうからよしとしよう。


 と、疑問点も解消したところで、二点目について説明しよう。


「でも……マギサイトミスリルの真骨頂は、そこじゃないんです。一番肝心なのは、二つ目の利点の方――魔石の表面積では到底描き切れないような、複雑で高度な魔法陣を刻めることです」

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